2019年4月の労働基準法改正により、年次有給休暇の取得が義務化されました。企業は「年間10日以上の有給を付与している従業員(雇用形態を問わず)」に対して、付与日から1年以内に5日の有給休暇を取得させる必要があります。
また、取得義務を果たすことで、法律を遵守できるだけでなく「生産性向上」「従業員の離職率低下」といったメリットも実感できるため、企業側にもメリットがあります。
今回は、年次有給休暇の取得義務の概要や推進する企業のメリット、違反した際の罰則、スムーズに有給休暇を取得させるポイントなどを解説します。
目次
年次有給休暇の取得義務とは、企業に対し「従業員に年5日の有給を取得させること」を義務付けたものです。2019年4月から施行されています。
年次有給休暇の取得が義務化された背景には、従業員の有給休暇取得率の低さが挙げられます。義務化前年の2018年に実施された「平成30年就労条件総合調査の概況(p.6)」によると、平均取得率は51.1%でした。半数近くの従業員が、心身のリフレッシュを図るために有給休暇を活用できていないことがわかります。
上記の状況を改善するために、働き方改革の一環として企業に有給休暇の取得義務が設けられました。実際に取得義務の施行によって、2023年に実施された「令和5年就労条件総合調査の概況(p.6)」では、平均取得率が62.1%となり過去最高を記録しています。
取得義務の対象となるのは、企業規模や雇用形態に関わらず「年に10日以上の有給が付与された従業員」です。条件を満たしていれば、正社員や契約社員、アルバイト、パートなどの雇用形態に関わらず、企業には年5日の有給休暇を取得させる義務が発生します。
以下で「有給休暇の発生要件」「付与日数」をまとめているので、間違いがないよう改めて確認してください。
【有給休暇の発生要件】
【付与日数】
継続勤務年数 | 6ヶ月 | 1年6ヶ月 | 2年6ヶ月 | 3年6ヶ月 | 4年6ヶ月 | 5年6ヶ月 | 6年6ヶ月以上 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
付与日数 | 10日 | 11日 | 12日 | 14日 | 16日 | 18日 | 20日 |
発生要件や雇用形態ごとの具体的な付与日数は、厚生労働省「年5日の年次有給休暇の確実な取得わかりやすい解説 p.3」をご確認ください。
企業が義務を果たして、従業員に最低でも年5日の有給休暇を取ってもらうには、以下のような方法が有効です。
従業員が自発的に有給休暇を取得すれば、企業が特別に対応する必要はありません。有給休暇の取得方法としても一番理想的です。現状で達成できているのであれば、今後も自発的に従業員が有給休暇を取得できるよう「適切な量の業務を割り振る」「上司から声掛けする」といった取り組みを継続してください。
従業員が自発的に取得した場合でも、正当な理由があれば、企業は取得日の変更を依頼可能です。例えば「繁忙期に多数の従業員が休みを申請した影響で事業に著しく支障が出そう」という場合、後述の時季指定を活用して取得日の変更を依頼できます。
時季指定とは、企業が従業員へ「具体的なタイミングを指定して有給休暇を取得させる」というものです。従業員が自発的に取得することを原則としつつ、管理者がチェックし「有休消化が年5日未満で終わりそう」と判断した場合、時季指定の実施がおすすめです。
ただし、企業が一方的に取得タイミングを決めることはできません。時季指定を行う場合は、必ず従業員の希望をヒアリングして、可能な限り要望に沿うことが必要です。先述した「繁忙期は有給休暇を取得しないでほしい」という状況下でも、極力従業員のスケジュールを考慮し調整することが求められます。
有給休暇取得を促す際は、以下のような年休制度の活用もおすすめです。
計画年休により有給休暇取得日を決めておけば、以下のようなイメージで従業員を確実に休ませられます。
もし、計画年休を行う際は、必ず従業員と企業間で「労使協定の締結」が必要です。半日単位年休を行う場合は、「企業が同意する」「1日単位での有給休暇取得を妨げないようにする」という点を意識してください。
労使協定について詳しく知りたい方は、別記事「労使協定をシンプルに解説|36協定との違いとは」をご覧ください。
勤怠管理システムとは、従業員の出退勤時間や休憩時間などを管理できるシステムです。勤怠管理システムには、従業員の出勤日数や休日数が記録されているため、「この従業員は休日数が足りていない」といった点をチェックし、適宜声かけなどを行い有給休暇取得を促せます。
出勤日数や休日数自体は、Excelなどのツールでも管理可能です。しかし、手入力の場合は「入力ミスによって正確な休日数を把握できない」「毎日管理者が集計しなければいけない」といったリスクや手間が発生します。
勤怠管理システムならツール上に自動で記録されるため、手軽かつ正確に従業員の休日数を把握できる点が魅力です。
勤怠管理システムの具体的な機能やメリットについては「勤怠管理システムとは?機能や導入メリット、初めての方でも迷わない選び方のポイントなどを詳しく解説」で解説しています。
企業は先述した時期指定や勤怠管理システムの導入といった方法を活用し、従業員に「年5日」の有給休暇取得を促しましょう。
年5日の有給取得については、「付与日(基準日)から1年以内に取得させること」が原則です。しかし、各企業が独自ルールで有給休暇を付与している場合、「自社における取得義務の発生タイミングがイマイチわからない」ということもあるはずです。
そこで、以下4つのケースに分けて「有給休暇の取得義務が発生するタイミング」をまとめました。自社に該当するケースがあるかチェックしてください。
「入社半年後に10日以上の有給休暇を付与している」という場合は、半年後を起点として、以降は1年ごとに年5日の取得義務が発生します。
例えば、入社が「2024年4月1日」の場合、起点は「半年後の2024年10月1日」です。以降は「2025年10月1日→2026年10月1日」というイメージで、1年ごとに有給休暇取得義務が発生します。
「入社と同時に10日以上の有給休暇を付与」というように、入社から半年を経たず前倒しで付与している場合、入社日を起点として、以降は1年ごとに年5日の取得義務が発生します。
例えば、入社が「2024年4月1日」の場合、起点は「入社日の2024年4月1日」です。以後は「2025年4月1日→2026年4月1日」というイメージで、1年ごとに有給休暇取得義務が発生します。
全社で有給休暇の付与日を統一している場合、「入社した年」と「翌年以降」で有給休暇付与日が異なるため、取得義務が発生する「1年間」という期間に重複が発生します。
例えば、下記のようなケースでは「2025年4月1日〜2025年9月30日」の間に重複が発生します。
重複を解消するために、以下2パターンのいずれかを実施してください。
【パターン1:比例按分しない】
比例按分しない場合は、以下「それぞれの期間」で年5日の有給休暇を取得させる必要があります。各期間で年5日の有給休暇を取得してもらうため、やや管理が複雑です。
【パターン2:比例按分する】
比例按分する場合は、1年目の付与日である「2024年10月1日」と、2年目の付与日から1年後の「2026年3月31日」までの間に、「月数÷12ヶ月×5日」で計算した結果以上の有給休暇を取得させられます。
計算は必要ですが「1つの期間で◯◯日の有給休暇を取得してもらう」とシンプルに考えられます。
有給休暇の一部を前倒しで付与している場合は、「付与日数の合計が10日に達した日」から1年以内に、5日の有給休暇を取得させてください。
例えば、有給休暇を「入社日の2024年4月1日に5日・3ヶ月後の2024年7月1日に5日」と付与した場合、付与日数の合計が10日に達した「2024年7月1日」を起点として、1年以内に有給休暇を5日取得させる必要があります。
ただし、付与日数が10日に達する前に、前倒しで付与した有給休暇を従業員が取得していた場合、該当の取得分を5日から差し引いてください。
上記のような方法で有給休暇取得率を向上できれば、企業は以下のメリットを実感できます。
「国から定められた義務を果たす」という以上のメリットを得られるため、ぜひ有給休暇取得を促進してください。
従業員が休みなく働き続けた場合、心身ともにリフレッシュする機会がありません。そうした状態を放置すれば、従業員の体調不良を招くだけではなく、疲れが原因で仕事へのモチベーションが湧かず、生産性を低下させることにもつながります。
従業員が有給休暇を取得し適度に休めれば、心身ともにリフレッシュされて、万全の体調で仕事に取り組んでもらえます。体調が万全なら仕事へのモチベーションも出てくるため、最終的な企業の生産性向上につながる点が魅力です。
「有給休暇を取得させてもらえない」「休めないほど忙しい」といった職場環境を放置すると、企業への不満が溜まり離職のリスクを高めます。とくに人材不足の企業にとって、貴重な人材が離れるというのは避けたい事態です。
企業が有給休暇の取得義務を果たして「誰もが休みを取りやすい職場環境」を作れれば、上記のような不満が減少し最終的な離職率の低下につながります。離職率が低下し人材不足を解消できれば、採用活動へのコストも抑えられるため、浮いた分を「従業員へのボーナス」「新規事業への投資」などに投下できます。
従業員に長く働いてもらい自社のコストを削減する観点でも、有給休暇の取得義務を果たすことは効果的です。
自社の有給取得率が向上すれば、世間に向けて「働きやすい企業である」とアピールできます。従業員への対応がよい企業というのは、消費者からしても好印象です。「◯◯は商品が高品質なだけでなく従業員への対応もよいから好印象」といった理由で、消費者から選ばれやすくなれば、最終的な業績やブランド力の向上が期待できます。
加えて「従業員を大切にしている企業だ」という印象が広がれば、採用時も自然と応募者が増加し、優秀な人材を確保しやすくなります。
従業員を大切にすることで「最終的に自社の評判や業績にもよい影響を与える」のも企業にとってメリットです。
対象従業員に年5日の有給休暇を取得させなかった場合、労働基準法違反に該当します。有給休暇を取得させなかった従業員ひとりにつき「30万円以下の罰金」が科せられるため、十分注意してください。対象従業員には、管理監督者や有期雇用労働者、裁量労働制で働く従業員も含まれます。
当然ですが、有給取得義務違反の罰則は企業のみに科されるものです。従業員への罰則はありません。
参照:厚生労働省「年5日の年次有給休暇の確実な取得わかりやすい解説 p.7」
上記で解説したように、有給の取得義務を果たすことで、企業は「生産性向上」「離職率の低下」など多くのメリットを実感できます。こうしたメリットを受けられるよう、企業は以下のポイントを意識して、有給の取得義務達成を目指してください。
時季指定できるのは、従業員の取得日数が「5日に達していない場合のみ」です。「従業員が自発的に有給を5日取得した」「計画年休で取得日を5日指定した」といった時点で、企業はそれ以上の取得日を指定できません。
企業は従業員ごとに、以下3項目を記録した「年次有給休暇管理簿」を作成する必要があります。年次有給休暇管理簿は、3年間保管しなければなりません。
「全社で有給休暇の付与日を統一している」といった理由で基準日が2つ存在する場合は、両方の記載が必要です。日数についても、基準日が2つ存在する場合は「1つ目の基準日から2つ目の基準日の1年後までにおける取得日数」を記載してください。
参照:厚生労働省「年5日の年次有給休暇の確実な取得わかりやすい解説 p.6〜7」
有給休暇取得の時季指定を行う場合、「時季指定の対象者」「指定方法」などを就業規則へ記載しなければなりません。時季指定を行うにもかかわらず、就業規則へ記載しなかった場合、労働基準法第120条に基づき30万円以下の罰金が科されます。
就業規則の変更方法については、「【2023年4月法改正】就業規則の見直しチェックリストと変更時の5ステップ」で詳しく解説しています。
参照:厚生労働省「年5日の年次有給休暇の確実な取得わかりやすい解説 p.7」
以下のようなコツを押さえて、従業員が気軽に有給休暇を取得できる風土を作ることも必須です。
こうした風土作りを積み重ねることで、従業員が自発的に有給休暇を取得できるようになり、企業が特別なアプローチを行わなくても義務を果たせます。
企業が有給休暇を買い取ることはできません。「有給休暇を消化できそうにないので買い上げの約束をしてもらう」といった行為も違法です。
ただし、以下に該当する場合は、買い取りが認められることもあります。
とはいえ、上記はあくまでも「例外的なケース」です。そもそも未消化の有給休暇が発生しないよう、企業は従業員の有給休暇取得を促進できる職場環境を整備してください。
参照:広島県雇用労働情報サイト「未消化の年休を買上げることは問題ないか」
2019年4月1日から、従業員に「年5日の有給を取得させること」が義務化されたため、企業は雇用形態を問わず、対象従業員に規定数の有給休暇を漏れなく取得してもらう必要があります。
本記事では「上司が自発的に取得する姿を見せる」「業務量を調節して休みやすくする」など有給休暇を取得しやすくするため取り組みから、有給休暇の取得義務が発生するタイミングをケース別に紹介。
有給休暇の取得義務を果たせれば、企業の生産性向上やイメージアップにもつながるため、ぜひ記事全体に目を通して、快適な職場環境の構築を目指してみてください。
Q1.年次有給休暇の取得は義務化されている? |
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はい。2019年4月から「年5日は必ず有給を取得させる」と義務化されています。 |
Q2.従業員が有給休暇を5日取得できなかった場合の企業への罰則は? |
労働基準法第120条に基づき、有給休暇を取得させなかった従業員ひとりあたり「30万円以下の罰金」が科されます。 |
Q3.有給休暇取得を従業員本人が拒否した場合はどうなるの? |
従業員本人が拒否したとしても、企業が認めた時点で「有給休暇取得義務を果たさなかった」とみなされるため、法律違反に問われます。そのため企業は、日頃から業務量の調整などを行い、従業員が積極的に有給休暇を取得できる環境を整えることが大切です。 参照:徳島県商工会議所「働き方改革BOOK抜粋5.pdf」 |