代替休暇制度とは|制度の概要と中小企業に必要な対応を解説

更新日:2023年08月31日
2308-FW2【代替休暇制度とは】

労働力不足を要因とした長時間労働により、従業員の健康が損なわれているという課題を抱えている企業が多くあります。代替休暇制度は、この課題を改善し従業員の健康を守るため、労働基準法の改正により成立しました。

割増賃金の代わりに代替休暇として有給を与えることで、企業にとっては残業代の抑制となり、従業員は労働時間を削減できます。それだけでなく、業務効率化やさまざまな人が働きやすい環境づくりにもつながります。

これまでは大企業にのみに適用されていました代替休暇制度ですが、労働基準法の改正により2023年4月1日からは中小企業にも適用されます。今回は、時間外労働に関する決まりの1つ「代替休暇制度」について解説します。

代替休暇制度とは

代替休暇制度とは、月60時間を超えた時間外労働について50%以上の割増賃金を支払う代わりに有給休暇を与える制度です。従業員の健康を確保するため、労使協定の締結により割増賃金のかわりに代替休暇を付与できるもので、従業員が任意で取得することが前提とされています。

事業主と従業員の協定により、割増賃金を支払うべき従業員に対して、割増賃金の支払に代えて、通常の労働時間の賃金が支払われる休暇(有給休暇を除く)を厚生労働省令で定めるところにより与えることを定めた場合は、従業員が休暇を取得したときは、規定時間を超えた時間の労働のうち取得した休暇に対応するものとして厚生労働省令で定める時間の労働については、割増賃金を支払うことを要しない。(労働基準法第37条3項)

引用:e-Gov法令検索「昭和二十二年法律第四十九号労働基準法

2023年4月から中小企業も代替休暇制度の対象に

2023年4月1日から、中小企業でも1ヶ月に60時間を超える法定時間外労働に対して、50%以上(引き上げ前は25%以上)の割増率で計算した割増賃金を支払うことが義務化されました(労働基準法第37条)。この割増賃金率の変更と同じタイミングで、中小企業も代替休暇制度の対象になりました。

ちなみに中小企業の定義としては、「資本金の額または出資の総額」または「常時使用する従業員数」のうちいずれかで、業種ごとに判断されます。

業種 ①資本金の額または出資の総額 ②常時使用する労働者数
小売業 5,000万円以下 50人以下
サービス業 5,000万円以下 100人以下
卸売業 1億円以下 100人以下
上記以外のその他の業種 3億円以下 300人以下

引用:厚生労働省・中小企業庁「月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が引き上げられます

代替休暇制度のメリット

代替休暇制度を活用するメリットは2つあり、「繁忙期などで労働時間が月60時間を超える従業員が多い場合には残業代を抑制できること」および「従業員の健康を維持できること」です。

残業代を抑制できる一方で、代替休暇の取得は従業員に選択が委ねられるため、企業側は強制できません。月60時間を超える残業代を、すべて抑制できるわけではない点に注意が必要です。

また、従業員の健康を維持できる点もメリットです。長時間の労働による疲労の蓄積で、生産性の低下だけでなく、メンタルや心臓などの疾患につながる恐れもあります。

代替休暇制度をうまく活用することで、これらのメリットを最大限に享受できます。

代替休暇と代休、年次有給休暇との違い

代替休暇と代休(代替休日)は、全く異なる休日の制度です。

代休は、休日労働の代わりに、他の労働日を休日とする制度です。従業員が代休を取得した場合、企業は時間外労働の全額を支払う義務があります。

代替休暇 代休
概要 残業代を支払う代わり休日を与える 休日に労働した分を、別日に休日として与える
残業代の支払い 休暇取得によって一部の支払いは不要 残業代の支払い義務がなくならない
割増賃金 残業代として以下を支払う
・25%以上の割増賃金
・月60時間を超える場合は50%以上の割増賃金
休日労働手当を支払う
(法定休日労働は35%以上の割増賃金)

年次有給休暇を付与すべきかの判断には、一定期間内の出勤率が必要になります。代替休暇は、残業代の代わりに休みとするため出勤率の計算は必要なく、付与されている有給休暇日数も減りません。

代替休暇制度の実施は労使協定の締結が必要

代替休暇制度を導入するためには、企業と従業員の過半数を代表する者との間で、代替休暇の制度内容について取り決めた労使協定を締結する必要があります。労使協定は労働基準監督署に届け出る義務はありませんが、ここでは、どのような事項を定めておくべきか解説します。

1.代替休暇の時間数の算定方法

代替休暇の時間数の算定方法は、時間数ベースで計算し、その後付与できる単位に応じて日数に換算します。1時間分の割増賃金に対して、単純に1時間の代替休暇を与えるわけではありません。

【代替休暇の時間数の算定方法】

  • 代替休暇の計算式=(1ヶ月の時間外労働時間数-60時間)×換算率
  • 換算率=代替休暇を取得しなかった場合の割増賃金率(50%以上)-代替休暇を取得した場合の割増賃金率(25%以上)

例えば、1ヶ月に80時間の時間外労働を行った場合の計算式は以下のとおりです。

<代替休暇の時間数の算定方法>

  • 換算率=1.50(50%以上)-1.30(25%以上)=0.20
  • 代替休暇の時間数=(80時間-60時間)× 0.20= 4時間

2.代替休暇の単位

代替休暇を与える単位は、まとまった休日を与えることで従業員の休息の機会を確保しようという観点から、1日または半日とされています(労働基準法施行規則19条の2第1項第2号)。

なお、1日か半日のいずれかは従業員が選択することも可能です。半日とは、原則として従業員の1日の所定労働時間の半分です。厳密に1日の2分の1とせず、午前の3時間半、午後の4時間半をそれぞれ半日とするよう労使協定で定められます。

1日や半日に満たなく、端数の時間が出る場合、 労使協定に定めがあれば従業員の希望のもと、他の有給休暇と合算して1日または半日として代替休暇を付与することも可能です。

他の有給休暇には、雇用者が任意で与える有給休暇のほか、就業規則で定めている休暇制度や時間単位の年次有給休暇が考えられます。 この場合、労働者の請求が前提になります。

代替休暇の例1

参考:厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署「改正労働基準法のポイント

3.代替休暇を与える期間

代替休暇を与える期間は、労使協定において60時間超の時間外労働を行った月の末日の翌日から、2ヶ月以内の期間と定める必要があります。(労働基準法施行規則19条の2第1項第3号)

もし、従業員が期間内に代替休暇を取得しなかったとしても、企業の割増賃金支払義務はなくなりません。代替休暇として与える予定としていた、割増賃金分を含む全ての割増賃金額を支払う必要があります。

また、取得期間が1ヶ月を超える場合、1ヶ月目の代替休暇と2ヶ月目の代替休暇を合算して取得することも可能です。

代替休暇の例2

参考:厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署「改正労働基準法のポイント

4.代替休暇の取得日、割増賃金の支払日の決定方法

代替休暇の取得日や割増賃金の支払日を決定するには、従業員に代替休暇を取得する意思があるかを確認する必要があります。

たとえば、「月末から〇〇日以内に意思を確認し、取得の意向があるのであれば〇〇日までに取得日を決定する」というように、労使間でルールを取り決めます。

また、従業員が代替休暇を取得する場合と、代替休暇を取得する意向がない場合では、支払う割増賃金に違いがあります。

代替休暇の例3

参考:厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署「改正労働基準法のポイント

たとえば、1ヶ月60時間を超える法定時間外労働が発生し、従業員が4月末に代第休暇取得の意向があった場合、労使協定で定めた支払日を翌月の20日とした場合、5月20日に25%の割増賃金の支払いが発生します。

一方、取得の意向がない場合、雇用者は労使協定で定めた賃金支払日にあたる、5月20日に50%の割増賃金を支払う義務があります。従業員とのトラブルを未然に防ぐためにも、事前に取得日と支払い日は決めておくべきです。

労使協定について詳しく知りたい方は、36協定や就業規則の違いについて解説している「労使協定をシンプルに解説|36協定との違いとは」をご覧ください。また、労使協定の免罰的効力については「労使協定とは~単位と当事者、免罰的効力について~」をご覧ください。

就業規則の締結

休暇に関する規定は、就業規則に記載が義務付けられているため、代替休暇制度の導入時には就業規則への記載が必要です。

また、常時10人以上の従業員が勤務している事業所は、以下書類を労働基準監督署へ届出なければいけません。

  • 従業員から聴取した意見書
  • 就業規則変更届
  • 変更後の就業規則または変更箇所・変更内容が明らかな書類(新旧条文対照表など)

制度に関する規定に変更があった場合も、変更届の提出が必要です。

就業規則の記載事項や目的について知りたい方は、「就業規則とは~記載事項と目的について~」をご覧ください。

代替休暇制度を設ける際の注意点

代替休暇制度によって有給休暇が付与されても、通常の時間外労働に対しては25%以上の割増率による割増賃金の支払いは必要です。残業代を代替休暇として与えられるのは、月の60時間を超えて残業した時間です。また、労使協定により、下画像※の部分も代替休暇の対象とすることが可能です。

時間外労働の時間数と割増賃金率の関係

参考:厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署「改正労働基準法のポイント

代替休暇制度を導入することで企業は残業代を削減でき、従業員は労働時間を減らせます。しかし、代替休暇を付与さえすれば、従業員へ長時間労働をさせても良いというわけではありません。あくまでも、従業員の任意で利用される制度であるため、企業は労働時間を短縮するための対策を引き続き講じていかなくてはなりません。

まとめ|代替休暇制度を利用するなら、労使協定の締結や就業規則の変更が必要

2023年4月から、中小企業も代替休暇制度の対象となりました。企業は、制度の導入に向けた労使協定の締結や、就業規則の変更が求められます。

代替休暇の算定や取得期間は、労働基準法に即した方法で設定する必要があります。代替休暇制度を活用する場合は、対象者の確認や従業員ごとの計算など内容をしっかり確認し、従業員とのトラブルが発生しないよう事前に取り決めておくことが大切です。

よくある質問

Q1.代替休暇と代替休日の違いは何ですか?

代替休日(代休)は「労働日と休日を入れ替えること」を指します。代替休暇は「時間外労働に対する割増賃金の支払いの代わりに付与する有給休暇」です。

Q2.代替休暇は半日に満たなくてもいいの?

代替休暇として与える時間数が半日に満たない場合は、有給休暇と合わせて半日の休暇を与えることが可能です。

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