裁量労働制とは、労働者個人が出退勤時間や終業時間などを設定できる雇用契約のことです。例えば、裁量労働制の契約でみなし労働時間が「1日7時間」と設定された場合、実際の労働時間に関わらず「7時間分」の給与が一律で支払われます。
裁量労働制では必ず出勤すべき時間の設定も不要なため、労働者のペースに合わせて柔軟に働き方を調整できる点が魅力です。柔軟性の高い職場環境を実現できれば、労働者自身のモチベーションアップや優秀な人材の確保などにつなげられます。
一方で「導入時に複雑な手続きが発生する」「適用可能な職種は限られる」といった難点も挙げられます。自社で裁量労働制の導入を検討する際は、上記のような項目を考慮し、スムーズな適用体制を整えることが重要です。
本記事では、裁量労働制の仕組みや対象の職種、導入のメリット・デメリット、具体的な導入の手順などを解説します。
裁量労働制とは「みなし時間労働制」のひとつであり、労働者個人の裁量で労働時間を設定できる契約のことです。以下に関する労働時間を個人の裁量で決めることができます。
例えば、みなし労働時間を「1日7時間」と設定した場合、労働時間が5時間でも10時間でも、支払われる給与は「7時間分」で統一されます。
後述のフレックスタイム制には、必ず出勤すべき「コアタイム」が設けられていますが、裁量労働制ではコアタイムすら不要です。
裁量労働制は、2024年4月の法改正によって大きく以下の点が変更となりました。
その他にも「勤務間インターバルの確保」「深夜労働の回数制限」などの項目が追加されました。変更ポイントの詳細は「厚生労働省| 事業主の皆さまへ」をご確認ください。
裁量労働制は特殊な勤務形態であるため、「労働者保護の観点」から制度を導入できる職種は限定されています。大きく以下2つに分かれており、それぞれで対象職種が設けられているためチェックが必要です。
「専門業務型」とは、仕事の遂行方法の大半を労働者の裁量に任せる必要があり、企業による業務の遂行手段や時間配分などの具体的な指示出しが難しいと認定された職種のことです。
全部で20業務が該当しているため、ここでは一例を紹介します。
全20業務の詳細は「厚生労働省 | 専門業務型裁量労働制の解説p.6〜8」をご確認ください。
「企画業務型」とは、事業運営に関する企画・立案・調査・分析業務に該当しており、遂行方法の大半を労働者の裁量に委ねる必要があると認定された職種のことです。
以下4つの要件に該当する職種が対象です。
例えば以下の業務が該当します。
各要件の詳細や詳しい対象業務例などは「厚生労働省 | 企画業務型裁量労働制の解説p.10〜12」をご確認ください。
裁量労働制と似ている制度がいくつかあります。それぞれ対象者や適用条件などが異なるため、導入を検討するにあたってチェックが必要です。
今回は以下4つの制度との違いを解説します。
フレックスタイム制とは、労働者自身が「出勤時間・退勤時間・1日の労働時間」を決める制度です。
労働者が就業時刻をある程度自由に決められる点は、裁量労働制と同じです。しかしフレックスタイム制では、みなし労働時間を設定できません。そのため、裁量労働制と異なり「所定労働時間は必ず働かなければならない」という違いがあります。
フレックスタイム制では、法定労働時間は超過できません。法定労働時間とは、労働基準法で決められている労働時間の上限です。原則として「8時間/日・40時間/週まで」と定められています。フレックスタイム制では、この範囲内で労働時間の設定が可能です。
フレックスタイム制は、仕事が細分化されており取引先との営業時間の連携が必要ない「情報通信業」などで導入されています。
フレックスタイム制の詳細は「厚生労働省 | フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き」をご確認ください。
みなし残業とは、賃金や手当にあらかじめ一定時間分の残業代を含む制度です。一定の残業代を固定で支払うため「固定残業制度」と呼ばれることもあります。
みなし残業と裁量労働制は、どちらも「実際に時間分働いていなくても働いたとみなして一定賃金を受け取れる制度」です。
しかし、以下のように「働いたとみなす労働時間の範囲」に違いがあります。
みなし残業制度の残業時間部分とは、所定労働時間から超過した労働時間を指します。
高度プロフェッショナル制度とは、「年収1,075万円以上である・専門的かつ高度な職業能力を持つ」労働者を対象に、労働時間の制限を撤廃できる制度です。金融関係やコンサルタント業務などで導入されています。
労働者の裁量で労働時間が決まる点は、裁量労働制と同じです。しかし、裁量労働制は深夜手当や休日手当など割増賃金の支払い対象となりますが、高度プロフェッショナル制度は深夜や休日労働に関して割増賃金の支払いはありません。
高度プロフェッショナル制度の詳細は「厚生労働省 | 高度プロフェッショナル制度 わかりやすい解説」をご確認ください。
事業場外みなし労働時間制とは、会社以外で仕事をする場合に、所定の時間は労働したとみなす制度です。裁量労働制と同じく、みなし時間労働制のひとつです。主に直行直帰の営業や在宅勤務などを行う職種で導入されています。
みなし労働時間を設定する点は、裁量労働制と同じです。しかし、裁量労働制は職種に制限がありますが、事業場外みなし労働時間制は職種による制限がありません。
また、事業場外みなし労働時間制は、時間外労働・深夜労働・休日労働のすべてが割増賃金の支払い対象となる点も異なります。
事業場外みなし労働時間制度の詳細は「厚生労働省 | 「事業場外労働に関するみなし労働時間制」の適正な運用のために」をご確認ください。
裁量労働制の導入メリットは、以下の4つです。
裁量労働制では、休日出勤や深夜労働は割増賃金の支払い義務が発生します。
しかし、時間外労働による割増賃金は発生しないため、基本的に賃金は一定です。賃金が一定であれば、みなし労働時間をもとに人件費の総額を予測しやすくなります。人件費の総額を予測しやすいため、労務管理部署の負担も大幅に削減できます。
裁量労働制では働き手の裁量で業務時間を決められるため、仕事の自由度が高まり労働者の満足度向上につながります。とくに研究やコンサルティング業務などの専門職では、時間の制約を設けないことで、好きなタイミングでリフレッシュして業務効率を高められるかもしれません。
上記のように裁量労働制は、働き方改革や従業員の満足度向上も期待できる制度です。そのため、外部からも「働き方の自由度が高い魅力的な企業」と感じてもらえるようになり、優秀な人材から選ばれる可能性が高くなります。また、職場環境が整っていれば、現在働いている従業員の離職率低下も期待できます。
裁量労働制では事前に定めた労働時間分の賃金のみを支払うため、残業が発生した際の給与コストを削減できます。労働者も残業を発生させないために、短時間で成果を出せるよう工夫すると期待できます。企業からすると、「コストを削減しつつ成果も上げられる」という理想の状態を作り出せるため魅力的です。
裁量労働制の導入デメリットは、以下の3つです。
裁量労働制を導入する際は、労使委員会の設置や委員全員の合意による決議、労働者の同意義務、労働基準監督署への届出などの複雑な手続きが発生します。こうした複雑な手続きを負担に感じる企業も少なくありません。
裁量労働制では労働者個人が自由に働ける反面、企業が労働時間の実態を把握しにくい面もあります。労働時間を適切に管理できなければ、企業の知らないところで長時間勤務が横行するかもしれません。もし長時間労働による健康被害が発生すれば、企業の管理体制が問題視されます。
上記のような事態を防止するため、企業には定期的な報告義務が課されています。
裁量労働制では個人の裁量が大きくなるため、チームで連携を取りながらの業務遂行が難しくなるかもしれません。勤務時間が自由なため、チームでの進捗共有や共同作業などの調整ハードルは高くなります。
また、例えば「自分は短時間で仕事を終わらせたがチームメンバーのトラブル処理で残業せざるを得ない」ということになれば、一部の従業員は損をした気持ちになるかもしれません。
基本的に裁量労働制には残業の概念がないため、原則として残業に対する割増賃金は発生しません。ただし「絶対に労働者への残業代支払いが発生しない」というわけではないため、注意が必要です。
裁量労働制では、以下の条件を満たした場合に残業代などの割増賃金を支払う必要があります。
上記のように、裁量労働制であっても一定の条件を満たすと割増賃金が発生します。そのため、割増賃金の算出や労働時間の適切な管理などを考えると、裁量労働制においても勤怠管理は重要度が高いといえます。
上記の深夜労働や休日労働などの条件に該当する場合、労働者の代表との「三六協定締結」が必要です。三六協定を締結した場合、裁量労働制であっても「45時間/月・360時間/年」を超える残業は違法となります。裁量労働制を適用したからといって、決して無制限に働かせてよいわけではありません。
三六協定の詳細は「三六協定とは何か?導入と働き方について」をご確認ください。
前述の通り、裁量労働制を導入するには、いくつかの手続きが必要です。具体的な導入方法は「専門業務型」「企画業務型」で異なるためご確認ください。
専門業務型の導入手順
企画業務型の導入手順
具体的に労使協定で定める内容や、労使委員会での決議が必要な項目は、必ず「厚生労働省 | 裁量労働制の概要」でご確認ください。
裁量労働制は「働き方の自由度が高まる」「労働者への支払いコストを削減できる」など、企業側・労働者側の双方にメリットがある働き方です。正しく運用すれば、労働環境の改善や業績向上につながります。
しかし一方で、「導入時は複雑な手続きが必要になる」「チームでの仕事が難しくなる」といったデメリットもあります。
法律に違反せず正しく運用するためにも、裁量労働制について正しい知識を持ち、メリット・デメリットを把握したうえで導入をご検討ください。
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