2019年4月1日より、働き方改革関連法が順次施行されました。働き方を見直すべく、厚生労働省は「長時間労働の是正」「正規・非正規間の待遇格差の是正」などを挙げており、改革に向けた取り組みの1つとして「年5日の年次有給休暇の取得」を義務化しました。
一方で、厚生労働省が平成29年に行った調査によると、年次有給休暇の取得率は、規模の小さい企業ほど低いという傾向があります。働き方改革関連法は企業規模を問わず適用されますが、有給休暇の取得状況に関しては中小企業と大企業で差があるというのが現状です。
引用:厚生労働省「平成30年就労条件総合調査の概況」
年次有給休暇を正しく取得させないと労働基準法違反となり、企業に対して罰金が課されるほか、従業員の健康も損ねかねません。正しく有休を管理するためには、各種法改正とあわせて作成と保存が義務化された、「年次有給休暇管理簿」での適切な有休休暇の管理が重要です。
本記事では、「新しく労務を担当することになった」「自社の有給取得ルールは対応有給取得の義務化に対応しきれているか不安」という方に向けて、年次有給休暇管理簿の作成方法や法改正に対応しているかどうかチェックする方法について解説します。
年次有給休暇管理簿は、各従業員の年次有給休暇の取得状況を管理するために、使用者が作成・保管しなければならない書類です。
2019年から労働基準法の改正により、全ての使用者に対して「年5日の年次有給休暇の確実な取得」が義務付けられました。使用者は、年次有給休暇を与えたときは、従業員ごとに年次有給休暇管理簿を作成し、3年間保存しなければなりません。
年次有給休暇管理簿の作成と保管については、労働基準法施行規則で次のように決められています。
使用者は、法第39条第5項から第7項までの規定により有給休暇を与えたときは、時季、日数及び基準日(第1基準日及び第2基準日を含む。)を労働者ごとに明らかにした書類(第55条の2において「年次有給休暇管理簿」という。)を作成し、当該有給休暇を与えた期間中及び当該期間の満了後3年間保存しなければならない。(労働基準法施行規則第24条の7)
引用:川崎北労働基準監督署「年次有給休暇管理簿を作成しましょう!」
年次有給休暇管理簿があれば、使用者も従業員も、有給休暇の取得状況の把握ができます。 記載しなければならない項目は「基準日」「日数」「時季」の3項目です。
引用:厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署「年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説」
基準日 |
年次有給休暇を付与した日 多くの企業は、有給休暇の権利が発生する「入社から6ヶ月経過した日」を基準日としている |
---|---|
日数 | 取得した有給休暇の日数 |
時季 | 有給休暇を取得した日付(全休・半休) |
年次有給休暇は、「6ヶ月間継続勤務している」「その6ヶ月間の全労働日の8割以上を出勤した」の条件を満たす労働者に与えられ、管理監督者や有期雇用労働者も含まれます。また、使用者は労働者ごとに年次有給休暇管理簿を作成しなければなりません。
なお、年次有給休暇の付与日数は、以下が原則となります。
参考:厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署「年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説」
ちなみに、パートタイム労働者など、所定労働日数が少ない労働者に対しても、所定労働日数に比例して有給休暇が比例付与されます。
比例付与の対象となるのは、「所定労働時間が週30時間未満」で、「週所定労働日数が4日以下」または「年間の所定労働日数が216日以下」の労働者です。有給の付与日数が10日以上の場合、「年5日の年次有給休暇の確実な取得」が義務付けられる対象となります。
引用:厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署「年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説」
アルバイト・パートの年次有給休暇について詳しく知りたい場合は「アルバイト・パートも年次有給休暇を取得できる~正社員との比較、日数や条件について解説~」をご覧ください。
年次有給休暇管理簿は有給休暇を与えた期間中、および該当期間満了後3年間は保存しなければなりません。
また、年次有給休暇管理簿は、労働者ごとに作成しなければならない労働者名簿や賃金台帳などの書類を兼ねて管理することも可能です。
年次有給休暇管理簿のフォーマットは指定されていないので、自由に作成できます。どのように作成するか不安な場合は、厚生労働省が公表している「年次有給休暇取得管理台帳」を参考にしながら、ご自身の企業独自の有給管理ルールに合ったフォーマットを作成してみてください。
年次有給休暇管理簿の作成・保管は企業の義務です。作成していない場合でも法律上の罰則はありませんが、以下2つのメリットを踏まえると、作成しておいたほうがよいといえます。
年次有給休暇管理簿を作成すべき理由の1つめは、従業員が適切に有給を取得して、安心して働けるようにするためです。適宜、休暇を取得することによって多様な働き方を実現する一助となります。
2つめの理由は、企業の信頼を損ねないようにするためです。年次有給休暇管理簿の作成・保管は行わなくても罰則はありませんが、年5日の有給を取得させなかった場合は、罰則があります。
具体的には、年次有給休暇について「基準日から1年以内に5日、取得時季を指定して年次有給休暇を取得させる」「時季指定の対象となる労働者の範囲および時季指定の方法について就業規則へ規定する」ことが決められており、違反した場合は罰則が科されることがあります。
違反内容 | 罰則内容 |
---|---|
年5日の年次有給休暇を取得させなかった場合 | 30万円以下の罰金 |
使用者による時季指定を行う場合において、就業規則に記載していない場合 | 30万円以下の罰金 |
労働者の請求する時季に所定の年次有給休暇を与えなかった場合 | 6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金 |
引用:厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署「年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説」
刑事罰が科された場合、企業の信頼を損ない、イメージダウンにつながります。このような事態を避けるためにも、有給の管理は適切に行う必要があります。
年次有給休暇は、3つの記載事項(基準日・取得日数・取得時季)を記載しておけば形式は自由です。主な作成・管理方法として、紙、Excel、勤怠管理システムなどが挙げられますが、ここではそれぞれの方法についてメリットとデメリットを紹介します。
紙での管理は、費用がかからないこと、PC操作に慣れていない人でも容易に管理できることがメリットです。Excelや勤怠管理システムと違い、PC操作の知識は必要ありません。
一方、従業員数が多ければ多いほど記録や管理に膨大な手間と時間がかかるため、担当者の負担が増してしまいます。
従業員が少ない企業で、かつPC操作に慣れていない方が担当者の場合は紙を用いた管理で事足りるでしょう。
厚生労働省は、「年次有給休暇取得管理台帳」のテンプレートを公表しています。ダウンロードすればすぐ活用できるこのファイルはExcelファイルのため、基本的なPC操作が出来るならばおすすめの管理方法です。また、Excelは関数を使うことで日数計算を自動で行えます。紙での管理と比べると、入力の手間を大幅に省くことができるでしょう。
一方で、セキュリティや保守の側面で不安が残ります。PWなどを設定しておかなければ、簡単にデータを改ざんできてしまいますし、データが飛んでしまう可能性もあります。また、企業独自の有給管理ルールがある場合、数式を自分で組む必要があります。
担当者がExcelの操作に慣れている方であれば活用は容易ですが、セキュリティ面では万全とは言えません。また、バックアップは必須です。
勤怠管理システムとは、従業員の出退勤時刻の打刻や、有給日数の集計など、勤怠管理業務を支援してくれるシステムです。勤怠管理システムを用いるメリットは、自動で有給取得日数のカウントや法改正への対応を行ってくれることでしょう。自動で勤怠を管理することができれば、人為的ミスや作業工程を大幅に削減できます。
デメリットは、コストがかかることです。ヒューマンエラーの防止や作業時間の短縮によって、人件費を削減することはできますが、代わりにシステム利用料がかかります。また、使用者が慣れるまで時間がかかる場合もあります。既に紙やExcelなどを利用して勤怠管理を行っている場合、従業員が勤怠管理システムを使いこなせるようになるまである程度時間がかかるかもしれません。
しかし、今後従業員が増えていく可能性が高い場合、コストをかけてでも勤怠管理システムを導入した方がミスなく、効率的に管理できるでしょう。
年次有給休暇管理簿が適切に作成・管理されていない場合、ルールに則って従業員に有給を取得させられていないとみなされる可能性があります。
有給に関するトラブルを未然に防ぐため、以下の点を検討してみてください。
従業員によって、年次有給休暇の基準日や付与された有給の日数、誰がいつまでに5日取得しなければならないかは異なります。これら全てを人が手動で管理するのはかなりの手間を要します。人事担当者は有給の管理だけに時間を割けられるわけではありません。できるだけ管理工数を減らせるような仕組みを整える必要があります。
そこで、管理工数の多さに対する解決策として、「基準日を統一する」という方法があります。基準日を統一させることで、取得すべき有給の日数を一括管理できるのです。
例えば、入社日から半年後に年次有給休暇を付与すると、基準日が人によって異なるため、5日取得させる期間も従業員ごとに異なってしまいます。そこで、基準日を月初に統一させると、期間も月ごとに統一できるため、管理が容易になるでしょう。
人員規模の大きな事業場や、新卒一括採用をしている事業場は基準日を1つにまとめることをおすすめします。
引用:厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署「年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説」
従業員が有給を取得しやすくするためだけではなく、企業側がルールに対応するためにも、使用者は従業員の有給取得状況を把握しておかなければなりません。しかし紙やExcelで管理しようとすると、ヒューマンエラーが起こるリスクが生じるほか、都度記入しなければいけないという手間も発生します。
把握漏れを防止するための方法として、勤怠管理システムの導入が有効です。勤怠管理システムは、勤怠・シフトの管理はもちろん、休暇の取得や残日数の確認なども容易です。また、自動で計算・集計してくれるため、打刻や申請忘れ、転記作業が必要ありません。また、専門企業がサービスを提供しているため、法改正が行われた際もスムーズに対応できます。
年次有給休暇管理簿の作成と保管は義務です。適切に作成・保管をすることで、使用者にとっても従業員にとってもメリットがあります。
ルール通りに年次有給休暇管理簿を作成・保管することで、従業員の多様な働き方の実現を後押しできます。また、使用者は年次有給休暇管理簿を作成することで、有給に関するトラブルを未然に防ぐことができます。
年次有給休暇管理簿を作成して働きやすい環境を整えましょう。
Q1.年次有給休暇管理簿には、何を記載すれば良いですか? |
年次有給休暇管理簿に記載しなければならない項目は、「基準日」「日数」「時季」の3項目です。厚生労働省が「年次有給休暇取得管理台帳」を発表しているので参考にしてみてください。 |
Q2.勤怠管理システムを導入することでどんなメリットがありますか? |
勤怠管理システムの導入によって、管理工数の削減、ヒューマンエラーの防止が見込めます。また、有給取得目標が未達の場合に、アラートを出すなどの機能を備えている場合もあります。 |
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