ロジカルハラスメントとは?原因や問題点、対処法を具体例とともに解説

更新日:2024年09月26日
2409-FW6【ロジカルハラスメント】

ロジカルハラスメントは相手を論理によって一方的に追い詰める、職場で問題視されるハラスメントの1つです。

ハラスメントが何かはなんとなく理解していても、実際の現場では「具体的に何がロジカルハラスメントにあたるのかよくわからない」、「ハラスメントにはすでに充分対応しているつもりだけれど、まだ不足なのだろうか」と悩む担当者もいるのではないでしょうか。

ロジカルハラスメントは、いち早く根本的な原因を特定し、対処を行うことで働きやすさが向上し、離職率を抑えることにもつながります。そこで本記事では、ロジカルハラスメントの定義や原因、対処法を主な問題点とともに解説します。

ロジカルハラスメントの定義

ロジカルハラスメントとは、一見すると論理的で正論のように見える言葉を用いて、相手を徹底的に追及し、精神的に追い詰める行為を指します。

ロジカルハラスメントの具体例は以下の通りです。

行動 シチュエーション
相手を一方的に論破する プロジェクトの会議で、部下が新しいアイデアを提案した際に、「そんな非現実的な案は論外だ。なぜもっと現実的な解決策を考えられないのか」と頭ごなしに否定し、部下の発言を遮る。
相手の人格を含めて否定する ミスをした部下に対して、「君はいつも注意力散漫で、仕事ができない。こんな簡単なこともできないなんて、本当に役立たずだ」と人格攻撃をする。
自分の非を一切認めない ミスが発覚した際、上司が部下に対して、「それは君の確認不足が原因だ。私は事前に指示を出していたはずだ」と自分の非を認めず、部下に責任を押しつける。
執拗に攻撃する 部下が提出した資料に小さなミスがあった際、上司が執拗にそのミスを指摘し、「なぜこんな初歩的なミスをするのか」、「何度言ったら分かるのか」と繰り返し責め立てる。

ロジカルハラスメントが慢性化すると、被害者の尊厳が傷つき、自信を失わせるだけでなく、職場全体のモチベーション、パフォーマンス低下にもつながるため、企業は防止策を講じる必要があります。

ロジカルハラスメントが起きる原因

ロジカルハラスメントの根本的な原因を把握することで、長期的な改善および再発防止につながります。また、ロジカルハラスメントの当事者に改善を促すうえでも原因の特定は重要です。

ここでは、ロジカルハラスメントの主な原因を解説します。

正しさへの過剰なこだわり

まず、ロジカルハラスメントをする人の特徴として「正しさへの過剰なこだわり」が挙げられます。このタイプの人は自分の意見や考えが絶対に正しいと思い込み、他者の意見を素直に受け入れることができません。

さらに、完璧主義も特徴の1つです。ロジカルハラスメントを行う人は自分にも他人にも高い水準を求めるため、少しでもミスや不完全な部分があると許せず、相手をとことんまで攻め立ててしまいます。

その結果、ロジカルハラスメントを受けた側は肉体的・精神的に委縮してしまい、反論のモチベーションをなくしてしまいます。

反論が起きないためロジカルハラスメントの当事者はその状況が正しいと思い込んでしまい、ハラスメント行為が放置されてしまうことも問題の1つです。

支配欲が強い

支配欲の強さもロジカルハラスメントの原因の1つです。完璧な論理によって相手が屈服する様子に快感を覚え、ますます論破したくなります。

また、他者よりも優位に立ちたいという気持ちが強く、自分の知識や論理力をひけらかすことで優越感を得ようとするのもこのタイプの大きな特徴です。

共感力や想像力が不足している

共感力・想像力の不足もロジカルハラスメントを生み出します。

このタイプの人は相手の気持ちを理解することが難しく、「これを言ったら相手がどのように感じるか」、「もっとマイルドな伝え方はないか」と考えにくいため、どうしてもストレートな形で正論を押しつけてしまうのです。

たとえ悪意がなかったとしても、相手に恐怖や威圧感を与えたならロジカルハラスメントとして成立します。

何かを伝える前にひと呼吸置くだけでも想像や共感につながるため、ロジカルハラスメントの改善法としておすすめです。

言葉で伝えるのが苦手

ロジカルハラスメントを繰り返してしまう人は言葉によるコミュニケーションが苦手なため、一方的な論破に持ち込んでしまう傾向があります。

このタイプの感情的なコミュニケーションをまわりくどく感じ、冗談やユーモアが無駄なものだと思っているため、直線的な論理で押し切ってしまう点も大きな特徴です。

プライドが高い

プライドの高さからロジカルハラスメントを繰り返してしまうパターンもあります。

このタイプの人は「間違いを訂正されること=負け、侮辱」ととらえる傾向があり、少しでも意見を返されると即座に激情してしまう点が大きな特徴です。

また、論理的な提案や意見しか一切受け付けないタイプも少なくありません。

このタイプの人はベースの能力が高く実務的にも有能であり、自分だけで何でもこなせてしまうからこそ相手のミスにいら立ってしまう、という傾向が見られます。

職場のパワーバランスが偏っている

職場のパワーバランスの偏りもロジカルハラスメントの原因の1つです。上司と部下、先輩と後輩など、職場内での力関係が偏っている場合、ロジカルハラスメントのリスクが高まります。

部下の立場ではどうしても上司に反論がしにくく、勢いや正論で押し切られると意見を飲み込んでしまいがちです。

また、上司の側も「立場が上だから正論をぶつけて当然、意見を聞かなくて当たり前」という意識が生まれ、問題が埋もれてしまった結果、ロジカルハラスメントが長期間にわたって放置されてしまいます。

ロジカルハラスメントによるネガティブな影響

ロジカルハラスメントは、被害者個人に精神的な苦痛を与えるだけでなく、職場全体に深刻な悪影響を及ぼします。

ロジカルハラスメントによって起こり得る主な悪影響は以下の通りです。

  • 職場のモチベーション低下
  • 離職率の上昇
  • 人材の過度な流動化
  • トラブルに気付きにくくなる

それぞれ具体的に解説します。

職場のモチベーション低下

ロジカルハラスメントの大きな問題は、職場のモチベーション低下です。

ロジカルハラスメントが慢性化した職場では、部下は「いつまたハラスメントの標的にされるのか」という不安から萎縮し、正当な意見があっても言い出せなくなります。

どんなに良いアイデアや意見を持っていても、「どうせ意見は通らない」、「否定されるだけだ」という無力感から、主体性を失い、モチベーションの低下につながるのです。

自由な発想や意見交換ができない環境では、ロジカルハラスメントそのものの改善案も封殺されるため、組織が硬直化し、ロジカルハラスメントが放置されてしまう悪循環に陥ります。

離職率の上昇

「パーソル総合研究所」の「職場のハラスメントについての定量調査」によると、2021年のハラスメント被害による退職者総数は約86.5万人で、すべての退職理由に占めるハラスメントの退職率は約20%です。

そのうち、直接的にロジカルハラスメントを受けた人の比率は34.6%、ハラスメントを間接的に見聞きした比率は39.5%であるとのデータが公表されています。

86.5万人のうち、ハラスメント被害を会社に報告したうえで退職した割合は約57.3万人であり、ハラスメントが表面化しにくい企業風土がうかがえます。

ロジカルハラスメントは直接的・間接的にかかわらず精神的なダメージを与えるため、早期の改善が重要です。

人材の過度な流動化

ハラスメントが慢性化した部署は人材が短いスパンで入れ替わる傾向があります。ハラスメントが常態化した部署では加害者以外が「次は誰がターゲットになるのだろう」、「ハラスメントを受けないうちに異動したい」という心理に陥るため、人材が定着しにくくなるのです。

ハラスメントを理由とした異動願もあれば、「○○は仕事ができない」など、上司による一方的な配置転換も少なくありません。

人材が過度に入れ替わることでハラスメントが表面化しにくくなり、改善が遅れてしまう点も問題として挙げられます。

トラブルに気付きにくくなる

隠蔽や無視は、ハラスメント改善において大きなハードルです。一度でもロジカルハラスメントが発生すると、次のターゲットになることを恐れるあまり、部下は問題を見なかったことにしようとします。

問題が表面化せず、長期間にわたって放置されることで事態がさらに悪化し、改善がますます難しくなるでしょう。隠蔽体質が蔓延することで、風通しの悪い閉鎖的な組織風土が形成される可能性もあります。

ロジカルハラスメントは、個人の尊厳を傷つけるだけでなく、組織全体に悪影響を及ぼします。組織全体としてロジカルハラスメントを許さない意識を共有し、ハラスメント行為のきっかけを1つ1つ摘んでいく努力が必要です。

ロジカルハラスメントの効果的な予防策

ロジカルハラスメントを未然に防ぎ、健全な職場環境を保つためには、組織全体としての取り組みと、個々人の意識改革が不可欠です。

ここでは、ロジカルハラスメントの効果的な予防策を解説します。

中立的な相談窓口を設ける

ロジカルハラスメントの対策として、中立的な相談窓口を設ける方法が最も有効です。

社内においては、「ハラスメント相談窓口」を設置し、専門知識を持つ担当者を配置することが有効です。相談内容のプライバシー保護を徹底し、相談者が安心して声を上げられる環境を整えましょう。また、LINEなどによる個別相談も、より気軽に相談できる環境づくりの手段として有効です。

社内での相談が難しい場合は外部相談窓口も活用しましょう。外部の窓口には、ロジカルハラスメントに詳しい専門家がいるため、安心して相談できます。

外部相談窓口には、以下のようなものがあります。

  • 総合労働相談コーナー
  • 都道府県労働員会
  • 法テラス
  • みんなの人権110番

ロジカルハラスメントについての定期的な研修

例えばハラスメントの定義や予防策、被害者になった場合の対応を具体例とともに研修を通じて学び、社員全員がハラスメントの問題点を理解すれば、適切なコミュニケーション方法を身につけることができるでしょう。

昨今では、オンデマンド形式の動画配信で研修を受けられるサービスもあり、時間と場所を選ばずハラスメントに関する知識・理解を深められます。

ハラスメント行為のリスクが高い当事者も含め、全員で研修を受けることでハラスメント行為の問題点共有が可能です。

人事評価制度を見直す

人事評価制度の見直しもロジカルハラスメントの予防策として有効です。

従来の数値による実績のみを重視する評価制度は、過度な競争やプレッシャーを生み出し、ロジカルハラスメントの温床となる可能性があります。

そこで、コミュニケーション能力や協調性、チームワークへの貢献度など、多様な価値観を評価基準に組み込むことで過度な成果主義が改善され、ハラスメントの予防につながるでしょう。

すべての社員が納得できる公正な評価制度の構築が大切です。

はたらきやすさ向上のために企業ができる取り組み

ここまで見てきた予防策以外にも、ハラスメント防止のためにできる取り組みにはさまざまなものがあります。

トップダウンで防止策を押しつけるのではなく、現場レベルで共有し、継続できる取り組みを周知徹底することが大切です。

ここではその一例として、以下の取り組みを御紹介します。

テレワークやフレックスタイムの導入

テレワークやフレックスタイムの導入もロジカルハラスメントの予防策として有効です。

オフィスという1つの空間で長く仕事をしていると、どうしても人間関係が固定化されてしまい、慢性的なハラスメントにつながります。

テレワークやフレックスタイムによって労働時間を分散したり、物理的な距離を置いたりすることでハラスメントが起きにくい環境づくりにつながります。

福利厚生の見直し

ハラスメントが慢性化している職場では、福利厚生の見直しも重要です。

有休や育休を認めないのもハラスメントの1つとして挙げられます。悪意により休暇申請を妨げるケースが増えている一方で、制度に対する認識不足からハラスメントが起きているケースも少なくありません。

福利厚生は社員の正当な権利です。ハラスメント当事者を含め、福利厚生の意義や制度設計について見直すことで職場の雰囲気改善につながります。

ストレスチェックの実施

職場では、ハラスメントが起きる前からのストレスチェックが重要です。

例えば、厚生労働省が公表している「5分でできる職場のセルフストレスチェック」ではWeb上の質問に答えるだけで簡単に今のストレスレベルを把握できます。質問項目が4つのステップに分かれているため、「今、どのようなことでストレスを感じているのか」を的確に認識し、言語化可能です。

質問項目の深さによってさまざまなストレスチェックが用意されているため、業態に合ったチェック方法を選びましょう。

社員1人1人のストレスレベルを継続的にチェックすることで、異常があった場合でもすみやかにハラスメントの原因を特定できます。

まとめ|ロジカルハラスメントを根本的に防止して職場のパフォーマンスを向上しよう

この記事では、ロジカルハラスメントの定義、原因、具体的な影響、そして組織が取るべき対策について解説しました。

ロジカルハラスメントは、一見すると論理的な言葉や正論に見えます。しかし相手を精神的に追い詰める見えない暴力なのです。その影響は深刻で、被害者個人の精神的な苦痛だけでなく、職場全体のモチベーション低下、離職率の上昇、人材の流動化、さらには組織の隠蔽体質の蔓延など、取り返しのつかないダメージを与えかねません。

ロジカルハラスメントを根本的に防止するためには、組織全体での取り組み、個々人の意識改革が必要です。中立的な相談窓口の設置、定期的な研修の実施、人事評価制度の見直しなど、組織としてできる対策は多義にわたります。

ロジカルハラスメントのない職場環境を築くことは、従業員の心と体の健康を高め、組織全体のパフォーマンス向上にも繋がります。この記事がロジカルハラスメントの理解を深め、健全な職場環境をつくるための一助になれば幸いです。

よくある質問

Q1.ロジカルハラスメントと建設的な批判の違いは何ですか?

建設的な批判は、相手の発言や行動に対して、改善点を具体的に指摘し、成長を促すことを目的としています。一方、ロジカルハラスメントは、相手の人格を否定したり、過度に追い詰めたりすることが目的であり、相手を傷つけ、自信を失わせるものです。

Q2. ロジカルハラスメントによる罰則はありますか?

ロジカルハラスメントそのものに対する法的なペナルティはありません。ただ、ロジカルハラスメントに伴う暴行や傷害、侮辱などが見られた場合、それぞれの罪に問われる可能性があります。

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