生理休暇とは?制度の概要と実態、取得しやすい環境作りのアイデア

更新日:2024年07月30日
2407-FW5【生理休暇】

生理休暇は、女性従業員の労働環境を良くするための休暇制度です。しかしながら、制度についてはまだまだ知られていない現状があります。

生理休暇を理解し、活用、運用していくことは雇用側、従業員側にとってのさまざまなメリットにつながるでしょう。

本記事では、生理休暇の概要や実態、生理休暇を取得しやすい環境を作るためのアイデアを詳しく解説します。

生理休暇とは

生理休暇は企業内で認められる公休制度の1つです。月経期間中の心身の痛みにより仕事に支障をきたす場合に取得できます。

最近ではジェンダーフリーや働き方改革の観点から「生理休暇」の名称を改めるなど、公休を取得しやすくする工夫を取り入れる企業が増えています。

(生理日の就業が著しく困難な女性に対する措置)

第六十八条 使用者は、生理日の就業が著しく困難な女性が休暇を請求したときは、その者を生理日に就業させてはならない。

参考:厚生労働省「働く女性と生理休暇について

また、生理休暇は職種や業種にかかわらず申請すれば取得可能です。事務職や営業職など、業務の種別によって取得が妨げられることはありません。

生理休暇は法的に認められた制度の1つですが、国内ではまだまだ充分に導入が進んでいるとは言えません。システムとして確立されていたとしても理解度の不足などにより、必ずしも正しく運用されていないのが現状です。

生理休暇の目的や必要性、生理休暇を活用するメリットについて解説します。

生理休暇の目的、必要性

月経は毎月おとずれる女性特有のバイオリズムであり、パターンにも個人差があります。

軽い腹痛程度で治まる人もいれば、歩くことさえままならないほどの痛みや倦怠感に見舞われる人もいます。また、同じ人であっても体調や年齢によって月経の症状が変わるため、一律の対応では間に合いません。

あるいは、月経の症状がそれほど重くなかったとしても、「服を汚してしまわないか」、「臭いで周囲に迷惑をかけないか」などの不安により業務効率が下がる場合も少なくありません。

そのため、月経の症状によって辛さを抱える女性社員に対して制度として休める環境を整えることで業務全体のパフォーマンスを高めるのが導入の主な目的です。

また、少しの体調不良でも気軽に訴えやすく、社員同士でフォローし合える土台を作ることで社内のコミュニケーションが深まり、福利厚生の充実につながります。

生理休暇を活用するメリット

生理休暇を活用するメリットとして、以下の3点が挙げられます。

  • 職場の環境が良くなる
  • パフォーマンスの向上
  • ブランドイメージが高まる

ここでは、生理休暇活用で見られる企業側の主なメリットを解説します。

職場の環境が良くなる

生理休暇を取りやすくすることで職場環境がよくなります。

生理休暇に限らず、「辛い時にはすぐに休める」という当たり前の環境をシステムとして整えておくことで福利厚生の充実につながります。

生理休暇は、女性だけの問題ではありません。

生理休暇に理解のある企業はそれ以外の公休制度の拡充にも積極的に取り組んでいることが多く、「きちんとした理由があれば休んでいいんだ」という男性側の安心感にも直結しています。

休暇をフォローする社員にも同等の権利が保障されているため社員同士の不公平感がなくなり、安心感に根ざしたパフォーマンスの向上が可能です。

生産性が向上する

誰しも体調が優れない日は仕事に集中できないように、月経にともなう痛みや倦怠感も、業務のパフォーマンスに大きく影響を与えます。

生理休暇を取ることで、体調が回復した状態で仕事にあたることができ、ミスを防ぎつつ、効率的に業務をこなすことが可能です。

ブランドイメージが向上する

ブランドイメージの向上も生理休暇活用の大きなメリットとして挙げられます。生理休暇を取りやすい企業は、社員の健康と福祉を重視しているというブランドイメージを社会に発信することが可能です。

ブランドイメージの向上は、優秀な人材の採用や顧客の信頼獲得につながり、長期的な企業の成長が期待できます。

生理休暇の法的位置づけ

生理休暇は労働基準法第68条で定められた公的な制度です。ここでは以下の4つの観点に分け、生理休暇の法的な位置づけについて解説します。

  • 義務の程度
  • 取得できる日数
  • 有給か無給か
  • 請求の条件

義務の程度

生理休暇の義務の程度に関しては、労働基準法第68条によって「使用者は、生理日の就業が著しく困難な女性が休暇を請求したときは、その者を生理日に就業させてはならない」と明確に示されています。

「就業が著しく困難な状態」の具体的な定義は以下の通りです。

  • 痛み止めが効かない
  • 長時間安静にしても症状が治まらない

生理休暇制度については労働基準監督署の監視のもとで規定の遵守が求められ、違反が認められた場合には是正が求められます。

取得できる日数

生理休暇の取得日数に関しては、労働基準法に明確な規定がないため、雇用側は生理休暇の取得日数を制限できません。生理休暇は本来、働く側の権利を守るための制度であり、雇用者側は生理休暇を理由なく却下したり、無理やり就業させたりしてはならないのです。

また、現状として月経症状は女性によって個人差が大きいため、一律な規定を設けることが難しいこともあります。

なお、生理休暇は時間単位でも申請できます。例えば、「月曜日から水曜日まで3日間休んで、木曜日は午後から出勤する」などのように、体調に合わせて柔軟に調整可能です。

有給か無給か

生理休暇が有給か無給かに関しては、労働基準法に明確な規定が設けられていませんが、決定権は雇用側にあるため、就業規定に明記している企業もあります。

例えば、月に1回は有給として扱い、それ以外は無給として扱うなど、具体的な対応は企業によってばらつきがあるのが現状です。

請求の条件

生理休暇の請求には法的な要件は定められていません。

労働基準法では「生理休暇について明確な要件を定めると手続きが煩雑になり、制度自体の利用が促進されなくなる」という考えから、生理休暇の要件を簡略化しています。

そのため、生理休暇を利用したい人は、申請時に医師の診断書など、正式な証明を提出する必要はなく、事実を推断するために、同僚の簡単な証明で差し支えありません。

生理休暇の取得実態

働く女性の多くが、生理休暇を請求しづらいことは調査結果からも明らかになっています。 厚生労働省の調査によると、平成前期から令和2年度にかけて「生理休暇を請求した者の割合」は減少傾向にあります。また、「生理休暇の請求者がいた事業所の割合」も、平成27年度から令和2年度で少し回復したものの、5%にも届いていません。

生理休暇の取得実態

引用:厚生労働省「働く女性と生理休暇について

生理休暇を請求する女性側の調査結果も見てみましょう。

全労連の調査によると、生理休暇の取得率は「とっていない」が78.6%と、全体の4分の3にのぼります。

生理休暇の取得状況グラフ

引用元:全労連「女性労働者の健康・労働実態及び雇用における男女平等調査報告書「調査結果の概要」

さらに詳しく見てみると、生理休暇を取れない主な理由としては「職場の雰囲気として取りにくい」、「必要ない」、「知られたくない」が上位を占めています。

苦痛の程度は人それぞれではありますが、職場の人手不足や周囲への迷惑、恥ずかしさを気にして、辛さを我慢して取得しない現状が読み取れます。

生理休暇を取得できない理由

引用元:全労連「女性労働者の健康・労働実態及び雇用における男女平等調査報告書「調査結果の概要」

生理休暇の課題と対策

生理休暇の課題として以下の3点が考えられます。

  • 不正取得の可能性がある
  • 人手不足に陥る可能性がある
  • 請求しにくい

それぞれ対策をあわせて解説していきます。

雇用側の課題:不正取得の可能性がある

生理休暇の雇用側の課題として、不正取得の可能性があります。

生理休暇の不正取得は、欠勤による労働力減少や業務の遅延にかかる追加コスト、モラル低下といったリスクにもなり得るため、雇用者側の対策が欠かせません。まずは働く側と雇用者側がよくコミュニケーションを取り、信頼関係を築いたうえで生理休暇取得のルールを制度として明文化することが大切です。

月経による体調不良には個人差があり、現状では法律で運用方法や規定が定められていませんが、企業側は運用ルールを定め、社員にしっかりと周知徹底しましょう。

雇用側の課題:人手不足に陥る可能性がある

生理休暇の雇用側の課題として、人手不足に陥る可能性も考えられます。生理休暇による人手不足には、柔軟なシフト変更や採用増加などで対応していく必要がありますが、繁忙期や小規模で運営している場合や代替が難しいスキル、資格が必要な場合は対応が困難です。

そのため、生理休暇を想定した代替要員を確保できるようなシフト管理や、一人ひとりの従業員が担当できる業務を増やすなども検討する必要があります。

生理休暇に限らず、予期せぬ欠員であっても社内で柔軟にカバーできるシステムを普段から整えておくことで職場の雰囲気が良くなり、生産性向上に結びつきます。

ちなみに、生理休暇での完全な欠勤を避けるためにも、リモートワークを活用し、自宅で業務が行える環境を整えることも人手不足の対策として有効です。

従業員側の課題:請求しにくい

生理休暇の従業員側の課題として、請求のしにくさが挙げられます。

前述の厚生労働省資料「働く女性と生理休暇について」によると、令和2年度の生理休暇請求率は0.9%です。

平成26年度の時点では請求率が3%を上回っていたことを考えると、令和に入って女性を取り巻く職場環境がますます厳しくなり、生理休暇の請求をためらってしまう状況がうかがえます。

雇用者側としては、働く側が生理休暇を請求しやすくなるような環境づくりが求められます。人員の補充などで生理休暇を請求しやすくする試みはもちろんのこと、周囲が休暇取得者を当たり前にカバーできる雰囲気を生み出すことも大切です。

生理休暇を取得しやすい労働環境を作るためのアイデア

生理休暇を取得しやすい職場環境はささいな工夫で整えられます。

ここでは、「生理休暇が大切なのはわかっているけど、具体的な対策がよくわからない」という雇用者側のために、すぐに実践できるアイデアを紹介します。

従業員に周知・教育をする

生理休暇を取得しやすい労働環境を作るためのアイデアとして、従業員への周知徹底が挙げられます。

定期的なセミナーやワークショップを開催し、生理に関する正しい知識を共有し、生理休暇の取得は健康管理が目的であり、遠慮せずに利用して良い制度であることを周知しましょう。

従業員の生理休暇に対する認識を変えることが、取得しやすさに繋がります。

名前の変更

「生理休暇」という名称に抵抗があり、取得しづらいと感じる社員もいるかもしれません。その場合には、名称の変更もひとつの方法です。

例えば、「健康管理休暇」や「体調不良休暇」といった名称に変更することで、抵抗感がなくなり、体調が悪いときに利用できる休暇として認識されやすくなるでしょう。名前を変更することによる認識の変化が休暇の取得しやすさに繋がることが期待できます。

取得手順を整備する

生理休暇を取得しやすい労働環境を作るためのアイデアとして、取得手順を整備することも挙げられます。

例えば、オンラインで簡単に申請できるシステムを導入したり、申請書類の記入を簡素化したりするなどしてみましょう。事前に上司や人事担当者と相談する必要がないような取得手順に整備することも、プライバシーを保ちながら、生理休暇を取得しやすい労働環境を作るアイデアの1つです。

取得手順を整備し、生理休暇は簡単に取得できると思ってもらえる環境を整えましょう。

相談窓口を設置する

生理休暇を取得しやすい労働環境を作るためのアイデアとして、相談窓口を設置することも考えられます。専任のカウンセラーや人事担当者に、健康状態や生理休暇取得に関するアドバイスをもらえる環境ができることで、従業員が生理休暇を取得しやすくなるでしょう。

相談窓口設置によるサポート体制の強化が生理休暇の取得しやすさにつながります。

生理休暇の取得を促進する取組事例

生理休暇の導入がまだまだ充分とは言えない中で、社内の意識改革に積極的に取り組んでいる企業が増えているのも事実です。

ここでは、生理休暇の取得を促進する取組事例として、「名称変更で取得しやすくした事例」、「月経前症候群(PMS)でも休暇を取得できるようにした事例」を紹介します。

名称変更で取得しやすくした事例

入浴剤などでおなじみの株式会社ツムラでは、かねてより女性側が生理休暇を申請しにくい現状を 変えるべく、生理休暇の社内名称を「Femaleケア」に変更しました。これにより、女性側の生理休暇取得への心理的負担を軽減するとともに、生理休暇の社内周知につながっています。

また、ツムラではFemaleケア以外にも性別にかかわらず取得できる「通院休暇(年間12日まで)」を新設。男性も女性も苦痛を我慢することなく、活き活きと働きつづけられる環境づくりに取り組んでいます。

参考:母性健康管理等推進支援事業 事務局「働く女性の心とからだの応援サイト

月経前症候群(PMS)でも休暇を取得できるようにした事例

株式会社桃谷順天館では生理休暇の要件を拡大し、月経前症候群(PMS)でも休暇を取得できる体制を整えました。

生理休暇の名称そのものも「エフ休暇」に変更。申請への心理的負担軽減につながっています。

また、導入前にあがっていた「月経のことで休暇を取る必要はないのでは?」という声に対しては、産業医を招いた啓発活動を定期的に行い、社内周知を徹底することで対応しています。

参考:母性健康管理等推進支援事業 事務局「働く女性の心とからだの応援サイト

まとめ|企業は生理休暇を取得しやすい環境を整えて

生理休暇は労働基準法によって定められた公休制度です。労働基準法第68条では、「就業が著しく困難な場合、女性従業員を就業させてはならない」と規定されています。

現行では、生理休暇の具体的な申請要件についての基準はなく、事業所ごとに裁量が認められています。申請を却下しても雇用者側に罰則はありません。

ただ、生理休暇が取得しやすい環境を整えることで女性にとっての働きやすさが大きく向上します。また、男性従業員にとっても「自分も有給を申請していいんだ」と思える職場環境を作ることでお互いを自然にカバーし合える空気づくりにつながります。

生理休暇の取得率向上はすべての従業員にとって気持ちよく働きつづけられる環境の確立に直結し、長期的な生産性向上にも効果的です。

よくある質問

Q1.生理休暇とは何ですか?

生理休暇とは、労働基準法第68条で定められており、女性が生理期間中の体調不良や痛みにより、仕事に支障をきたす場合に取得できる休暇制度です。

Q2.生理休暇の申請は必ず認めるべきですか?

労働基準法第68条では生理休暇の申請について「就業が著しく困難な場合」という要件を設けています。

ただ、月経の症状は個人差が大きく、放置すると月経症候群などにつながる恐れがあるため、特別な事情がない限りは申請を認可することが推奨されています。

Q3.生理休暇の申請について医師の診断書など公的な証明書を求めることは可能ですか?

生理休暇の申請要件を雇用者側が独自に定めることは可能です。

ただ、基準を厳格にして制度を利用しにくくすることは労働基準法の理念に反します。

また、生理休暇の申請しにくい事業所は女性にとって働きにくい職場であり、長期的に見れば生産性の低下が予想されます。

やむを得ず証明を求める場合は公的な証明書ではなく、同僚の証言や本人の申告を採用したほうが妥当です。

Q4.生理休暇は必ず有給ですか?

生理休暇が有給か無給かは、企業の就業規定によります。

Q5.生理休暇を却下した場合の罰則はありますか?

現行の法律では、生理休暇の申請を却下しても雇用者側への罰則はありません。

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