「パワハラ防止法」と一般的に呼ばれる改正労働施策総合推進法は、2019年に制定され、2022年4月からは中小企業も義務化対象として施行されました。
パワハラ防止法には、これまで曖昧だった職場内のハラスメントとされる基準を法律で定めることで、明確な防止措置を企業に義務化し、ハラスメント対策の強化を促進する目的があります。
しかし、いざパワハラ防止法によって必要となった措置を実施しようとしても、以下のような悩みを抱えている方も多いのではないでしょうか。
この記事では、中小企業がパワハラ防止法を遵守して企業と従業員を守れるように、パワハラ防止法の概要や具体的な対策内容を解説します。
「パワハラ防止法」こと改正労働施策総合推進法は、職場内のハラスメントの基準を定め、明確な防止措置を企業に義務化する法律です。2019年に制定され、2022年4月からは中小企業も義務化対象として施行されました。
職場におけるパワーハラスメントを防止する規定が盛り込まれていることから、一般的に「パワハラ防止法」と呼ばれますが、セクシャルハラスメントやマタニティハラスメント、レイシャルハラスメントなどについての言及もあり、ハラスメント全般の基準や防止措置が定められています。
海外のパワハラ禁止令のように厳しい罰則がついたものではありませんが、パワハラの基準を法律で定めることにより、防止措置を企業に義務化しハラスメント対策の強化を促し、職場における「いじめ・嫌がらせ」を防止する目的があります。
どの企業にとってもハラスメント対策は喫緊の課題となっています。
2020年に厚生労働省が実施した「職場のハラスメントに関する実態調査」によれば、「過去3年以内にパワーハラスメントを受けたことがある」と回答した人は31.4%でした。
また、厚生労働省の「令和元年度個別労働紛争解決制度の施行状況」によれば、ハラスメントの相談件数は年々増加傾向にあり、2019年にはハラスメント(いじめ・嫌がらせ)相談件数は87,570件にのぼりました。
引用:厚生労働省「令和元年度個別労働紛争解決制度の施行状況」
ただし、相談に至っていないハラスメントも含めれば、実際にはグラフ以上の件数も考えられます。パワハラ防止法はこの実情を踏まえ、企業が取り組むべきハラスメント対策を明確にしたものです。
そもそもパワハラはどのような状況を指す言葉なのでしょうか。
パワハラは3つの要件を満たすものであり、具体的な行動については6つのパターンが示されています。
パワハラの定義
3つの要件 |
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6類型 |
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厚生労働省「パワーハラスメントの定義について」によれば、パワハラには3つの要件があります。3つの要素を全て満たすものをパワハラといいます。
パワハラの3つの要件
そのため、客観的に見て業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、職場におけるパワハラには該当しません。
パワハラのイメージを掴むために、パワハラに当てはまる例と当てはまらない例を紹介します。なお、実際の状況がハラスメントに当たるかどうかは専門家の判断が必要なため、あくまで一例として考えてください。
パワハラ/パワハラではない例
パワハラに当てはまる |
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パワハラに当てはまらない |
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厚生労働省は3つの要件を具体的にしたものとして、パワーハラスメントの6つの形を書いています。
パワハラとしてすぐにイメージされる上司などから身体的な攻撃や暴言といったものにとどまらず、実力を過大・過小評価して適切ではない仕事を任されることや、人間関係から切り離されたりプライベートを侵害されることも指すことに注意が必要です。
パワハラ6類型
精神的な攻撃 | 脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言 |
身体的な攻撃 | 暴言・傷害 |
過大な要求 | 業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制・仕事の妨害 |
過小な要求 | 業務上の合理性なく能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと |
人間関係からの切り離し | 隔離・仲間外し・無視 |
個の侵害 | 私的なことに過度に立ち入ること |
ただし、6類型はパワハラにあたるすべての行為を網羅したものではなく、あくまで一部です。実際には6類型に当てはまらないのにパワハラとして認定されたものもあります。
つまり、企業内のパワハラを防ぎ、企業と従業員の健康を守るためには、やはりパワハラの定義に立ち戻り、以下にあてはまるような出来事が起きていないか把握し、起こりにくい職場を作るべきだと考えられます。
パワハラを防ぎ、企業と従業員の心身を守るために、具体的に必要な措置をチェックしてみましょう。次のチェックリストはパワハラ防止に向けて対策すべき措置をまとめたものです。必要な対応ができているか、ぜひ確認してみてください。
【チェックリスト】パワハラ防止法によって定められた必要な措置
□ | ハラスメントの内容と、ハラスメントを行ってはいけないことが従業員に周知できているか |
□ | ハラスメントを行った従業員に対して厳しく対処する方針や、対処内容を就業規則などの文書形式で規定し、従業員に周知できているか |
□ | 相談窓口をあらかじめ定め、従業員に周知できているか |
□ | 相談窓口担当者が、内容や状況に応じ適切に対応できているか |
□ | 職場においてハラスメントが起きたら、事実関係を迅速かつ正確に確認できる体制が整っているか |
□ | 職場においてハラスメントが起きたら、速やかに被害者に対する配慮の措置を適切にできる体制が整っているか |
□ | 職場においてハラスメントが起きたら、パワハラを行った従業員に対する措置を適正にできる体制が整っているか |
□ | 職場においてハラスメントが起きたら、再発防止に向けた措置をできる体制が整っているか |
□ | 相談者・行為者などのプライバシーを保護するために必要な措置を取り、周知できているか |
□ | 相談したことなどを理由として不利益な取扱いを行ってはならないことを定め、従業員に周知・啓発できているか |
このチェックリストで全てチェックマークがつかない場合は、企業として必要なハラスメントの対策が不十分かもしれません。次に紹介するパワハラ防止措置の義務化によって求められる具体的な対応を確認していきましょう。
事業主のパワハラに関する方針を明確化した上で就業規則に規定し、周知することが必要です。もし就業規定を変える必要がある場合の具体的なステップは「【2023年4月法改正】就業規則の見直しチェックリストと変更時の5ステップ」で詳しく解説しているので、合わせてご覧ください。
従業員に対して、パワハラに対する方針や発生原因についての研修や講習などを実施することも有効です。厚生労働省では「他の企業はどうしてる?」というWebサイトを設け、職場のパワーハラスメント対策に取り組む企業へのインタビューを掲載しています。
実際に社内でパワハラ防止を周知させるためのチラシや人事担当者向け資料もハラスメント関係資料ダウンロードから入手することができます。あわせてご活用ください。
従業員からのハラスメントの相談に対応する体制が不十分な場合は、以下のフローで整備すると良いでしょう。
急いでパワハラ相談窓口を作ったために窓口の担当がパワハラ当事者だったり、窓口自体は存在していても実際には相談できる体制が整えられていなかったりすることもあるようです。本末転倒な事態にならないように、ひとつひとつのステップを抜かりなく遂行しましょう。
このとき、相談マニュアルやチェックシートは特にしっかり作っておくことをおすすめします。パワハラを受けた社員が安心して相談できるというだけでなく、相談がパワハラにあたるかどうかを客観的に判断するためにも重要です。
実際に窓口に相談が寄せられた際、被害者・行為者に対して適切な配慮を行うことが重要です。このとき、相談された事実が実際にあったのか、事実があった場合に被害者・行為者にどのような配慮・処分を行うのか、都度検討し、対策を練ることが必要です。
パワハラ被害者への配慮としては、具体的には、職場の配置の変更、業務の変更、加害者との接触の回避などがあります。カウンセリングやメンタルヘルスケアの提供、適切な休暇取得の促しや労働時間の調整も場合によっては必要となるでしょう。
また、パワハラ行為者への処分としては、警告、減給、降格、解雇などがあります。パワハラに関する指導や場合によってはカウンセリングの提供が行われることもあります。
もし事実関係が正確に把握できなかったり、パワハラの事実が確認できなかったりした場合であっても、そもそも相談が発生したこと自体をリスクと見なし、対策を検討することが重要です。なお、従業員への匿名アンケートや聞き取りを実施する場合は、相談行為そのものを否定・非難しないことは徹底しましょう。
重大なハラスメントを未然に防ぐためにも、被害者のサインや従業員同士の関係性悪化に事前に気づける体制づくりが重要です。
前提として、相談者・行為者などのプライバシーを保護するために必要な仕組みや体制づくりを抜かりなく講じることや、相談したことなどを理由として不利益な取り扱いを行わないことを日頃から周知しておきます。いざというときに窓口が形骸化していたり、従業員が窓口の存在を知らないのでは意味がありません。
上記に加えて、部署を越えて定量的に労働時間を把握したり、ストレスチェック・従業員意識調査を活用したり、1on1や面談を通じて上司からヒアリングを行ったりといった仕組みも有効でしょう。
パワハラ防止法に違反した場合の明確な罰則は設けられていません。しかし、場合によっては、以下のような制裁が課せられる可能性があります。
パワハラ防止法違反による制裁
また、ハラスメントに気づかず放置することで、上記の制裁以外の悪影響も考えられます。例えば、従業員の心身の健康を害するだけでなく、職場の人間関係の悪化による人材の流出や生産性の低下の可能性も生じます。訴訟に発展すれば、金銭的負担の発生や企業イメージの低下も避けられないでしょう。
他社のパワハラを巡る裁判例については、厚生労働省が取り組む「あかるい職場応援団」の「裁判例を見てみよう」というWebサイトで公開されています。
パワハラ防止法によって必要になった措置を解説しました。パワハラの定義は、3つの要件をすべて満たすものであり、具体的には6つのパターンが代表的です。ハラスメントを防ぎ従業員と企業を守るためにも、チェックリストを活用しながら自社に必要な対策をもれなく実行しましょう。
Q1.パワハラかどうかはどうやって決まる? |
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パワハラに該当する行為は、以下の3つの要件を全て満たすものです。
これらの要件を満たすものとして、6つの具体的なパターンが挙げられています。詳しくは「パワハラの定義|3つの要件と6類型」の章をご覧ください。 |
Q2.パワハラ防止法で、具体的に求められている対応は? |
以下の4つの対応ができているか、確認しましょう。
詳しくは「中小企業が今すぐハラスメント防止に向けて対策すべき4つのこと」の章をご覧下さい。 |
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