ワークシェアリングとは?目的やメリット、導入のポイントを解説

更新日:2024年07月30日
2407-FW6【ワークシェアリング】

ワークシェアリングとは、従来一人で担当していた仕事を複数人で分け合うことをいいます。労働力不足の解消や働き方の多様化への対応として、ワークシェアリングに注目する企業が増えています。

この記事では、ワークシェアリングの目的やメリット、導入の流れに加え、導入時の課題や解決策について解説します。「従業員一人当たりの業務量が多い」「効率性・生産性がなかなか上がらない」といった課題をお持ちの労務担当者の方は、ぜひご覧ください。

ワークシェアリングとは

ワークシェアリングとは、仕事を複数人で分け合うことをいいます。従来なら一人で担当する仕事を複数人で対応することで一人あたりの労働時間を短縮し、雇用を維持・創出させることが目的です。

厚生労働省の資料「ワークシェアリングに関する調査研究報告書」によると、「ワークシェアリングとは、雇用機会、労働時間、賃金という3つの要素の組み合わせを変化させることを通じて、一定の雇用量を、より多くの労働者の間で分かち合うことを意味する」と定義されています。

ワークシェアリングを取り巻く状況

労働力不足の解消や働き方の多様化の実現など、ワークシェアリングが注目される背景にはさまざまな課題があります。ここでは、ワークシェアリングの発祥や推進される背景を社会状況とともに解説します。

ワークシェアリングの推進背景と目的

バブル崩壊後の景気回復は1997年3月をピークに、1998年には雇用・失業情勢が急速に深刻さを増しました。こうした背景から、1999年(平成11年)の半ば頃から労働時間の短縮による雇用維持の動きが生まれました。

その後、政労使による検討会議が3回開催され、2002年には「ワークシェアリングに関する政労使合意」がまとめられています。

【ワークシェアリングの取組みに関する5原則】

1 ワークシェアリングとは、雇用の維持・創出を目的として労働時間の短縮を行うものである。我が国の現状においては、多様就業型ワークシェアリングの環境整備に早期に取り組むことが適当であり、また、現下の厳しい雇用情勢に対応した当面の措置として緊急対応型ワークシェアリングに緊急に取り組むことが選択肢の一つである。
2 ワークシェアリングについては、個々の企業において実施する場合は、労使の自主的な判断と合意により行われるべきものであり、労使は、生産性の維持・向上に努めつつ、具体的な実施方法等について十分協議を尽くすことが必要である。
3 政府、日本経営者団体連盟及び日本労働組合総連合会は、多様就業型ワークシェアリングの推進が働き方やライフスタイルの見直しにつながる重要な契機となるとの認識の下、そのための環境作りに積極的に取り組んでいくものとする。
4 多様就業型ワークシェアリングの推進に際しては、労使は、働き方に見合った公正な処遇、賃金・人事制度の検討・見直し等多様な働き方の環境整備に努める。
5 緊急対応型ワークシェアリングの実施に際しては、経営者は、雇用の維持に努め、労働者は、所定労働時間の短縮とそれに伴う収入の取り扱いについて柔軟に対応するよう努める。

引用:厚生労働省「ワークシェアリングに関する政労使合意


現状の日本では、少子高齢化や生産年齢人口減少による労働力不足への対策、働き方の多様化に対応する方法の一環としてワークシェアリングが注目されています。

高齢者や女性、長年働いていなかった人材も含め、あらゆる人々が意欲と能力に応じて働ける職場環境を整えることが重要です。

日本のワークシェアリング取り組み状況

現状、国内企業におけるワークシェアリングの取り組み状況に関する公的な調査データはありません。

詳しくは後述しますが、社内でより多くの雇用を維持する「雇用維持型」のワークシェアリングの場合、労働時間は短縮されるものの賃金が減少する可能性があります。従業員内で減給への不満が生じるケースも懸念されるため、なかなか導入・取り組みが進まないのではないかと考えられます。

また、ワークシェアリング導入における一番の問題点は、国内企業の大半が残業を前提とした業務量を設定していることです。これでは多様な業務形態が適用できず、労働不足の解消につながりません。残業前提での働き方をやめ、標準時間内で終わる業務量への見直しを図ることが求められています。

海外での取り組み状況

欧州におけるワークシェアリングの発祥は1980年代で、なかでもオランダの成功が有名です。

企業はパートタイム従業員の就労促進や賃金抑制で雇用を確保し、政府は従業員の所得減少を緩和するために減税と社会保障負担の削減を実施しました。これにより経済危機を克服し、オランダの失業率は1983年の11.9%から2001年に2.7%にまで劇的に低下し、世界中から注目を浴びました。

また、ドイツでも80年代から業績悪化に対する措置として、フランスでは2000年前後に雇用創出を目的としてワークシェアリングが実施されています。

参考:内閣府「平成13年度 年次経済財政報告

ワークシェアリングの4つの種類

ワークシェアリングには4つの形態があり、厚生労働省は以下のように分類しています。

種類 目的
雇用維持型(緊急避難型) 一時的な景況の悪化を乗り越えるため、緊急避難措置として、従業員1人あたりの労働時間を短縮し、社内でより多くの雇用を維持する。
雇用維持型(中高年対策型) 中高年層の雇用を確保するために、中高年層の従業員を対象に、当該従業員1人あたりの労働時間を短縮し、社内でより多くの雇用を維持する。
雇用創出型 失業者に新たな雇用機会を提供することを目指して、国または企業単位で労働時間を短縮し、より多くの労働者に雇用機会を与える。
多用就業対応型 正社員について、勤務の仕方を多様化し、女性や高齢者をはじめとして、より多くの労働者に雇用機会を与える。

引用:厚生労働省「図表1 ワークシェアリングの類型

雇用維持型(緊急避難型)

雇用維持型は、従業員一人当たりの所定労働時間を短縮することで、社内でより多くの雇用を維持する手法です。一時的な景況の悪化によってリストラせざるを得ない状況を乗り越えるための緊急措置的な位置づけです。

雇用維持型(中高年対策型)

雇用維持型は、中高年層や退職者を対象とした制度です。働く意欲はあっても、体力的に長時間労働が難しい中高年層の雇用を維持することを目的としています。一人あたりの労働時間を減らすことで、子育てや介護のために仕事と家庭のバランスを取りたい40~50代のニーズを満たすことも可能です。

経験と知識が豊富なベテラン労働力を維持・確保できることから、人材不足の企業に適しています。

雇用創出型

雇用創出型は、失業者に新たな就業機会を提供することを目的としています。国または企業単位で既存従業員の労働時間を短縮し、短時間労働者やパートタイマーを雇用することで、より多くの雇用機会を創出します。また、在籍従業員の労働時間を短縮することで負担を軽減する狙いもあります。

失業者を短時間労働者やパートタイムとして積極的に雇用し、在籍している従業員の負担を軽減する狙いがあります。

多様就業対応型

多様就業対応型は、正社員を対象に短時間勤務の導入などによって働き方の多様化を図る手法です。厚生労働省では、日本の現状では不況時を除き多様就業対応型の環境整備が適当としています。

女性や高齢者など、画一的な働き方では仕事を継続できない人のためにフレックスタイムや在宅勤務、パートタイム勤務など多様な就業形態を認め、より多くの労働力を維持する目的があります。

ワークシェアリングのメリット

ワークシェアリングを導入することでハードワークの緩和や多様化する働き方への対応など、労働環境の課題解決に役立ちます。ここでは、企業視点と従業員視点に分けてワークシェアリングのメリットを紹介します。

企業にとってのメリット

ワークシェアリング導入によって企業が得られるメリットは、以下のとおりです。

業務の属人化を防ぐことができる

一人の従業員が専属で仕事を担当するとスキルアップできるものの、情報共有やマニュアル作成をすることもなく、ずっと一人で抱え込むことになります。病欠や退職などで担当者がいなくなったときに業務がスムーズに引き継がれないと、生産性が大きく低下してしまいます。

あらかじめ仕事を分担して取り組めば従業員同士で情報共有や補い合いができ、流れが止まることなく仕事が進みます。

社内環境の改善

従業員の残業削減や休日増加によって労働環境が改善すると従業員の負担が減り、心身の健康が保たれやすくなります。従業員のワークライフバランスが整うと心身ともに余裕が生まれ、職場の雰囲気も改善します。

従業員のモチベーションがアップすると生産性の向上や人材の定着が期待できます。

助成制度を利用できる

ワークシェアリングは雇用創出や維持、生産性向上を実現できることから、厚生労働省でも推進されています。ワークシェアリングを導入することで、企業は以下の助成金を申請できるメリットもあります。

主な助成制度

助成制度 概要
雇用調整助成金 景気の変動、産業構造の変化などの理由により、事業活動の縮小を余儀なくされた事業主が、休業、教育訓練や出向を実施することによって、従業員の雇用を維持した場合に助成される。
労働移動支援助成金 離職を余儀なくされる従業員を支援する企業に支給される。「再就職支援コース」と「早期雇入れ支援コース」がある。
人材開発支援助成金 職務に関連した専門的な知識・技術を習得させるため、あるいは労働生産性の向上に役立てる訓練を実施する企業に対して支給される。
働き方改革推進支援助成金 生産性を高めながら労働時間の削減に取り組む中小企業などに支給される。主に中小企業における労働時間設定の改善の促進を目的としている。

上記の助成制度には受給要件があるため、詳しくは厚生労働省が公開している情報をご確認ください。

従業員にとってのメリット

ワークシェアリング導入によって従業員が得られるメリットは、以下のとおりです。

心身のストレスが軽減される

業務を自分一人で抱え込むと「期日までに終わらせなければならない」というプレッシャーがあるほか、進捗状況が芳しくないがゆえの残業が発生しタスク以上の負担がかかります。

ワークシェアリングを導入することで複数の働き手と仕事を分担できるため、業務に対して柔軟に取り組めるメリットがあります。

モチベーションが向上する

仕事を複数人で分け合うことで心身ともにストレスが軽減して働きやすくなり、仕事に対するネガティブな感情が減る可能性があります。

また、労働時間が減少するとワークライフバランスが向上し、生活の質が向上します。家族と過ごす時間や趣味を満喫する時間が増えることでモチベーションが向上し、労働生産性アップにもつながります。

雇用が維持される

ワークシェアリングの導入によって、雇用が維持される点も従業員の大きなメリットです。経営悪化によって業務量が減少した場合、従業員によっては「割り振られる仕事がない」といった状況になる可能性があります。

しかしワークシェアリングを導入すれば一人ひとりの仕事が確保されるため、予期せぬ失業の心配がありません。

ワークシェアリング導入の流れ

ワークシェアリングのもたらす効果がわかっても「自社に適した運用方法が分からない」という方のために、ここでは導入の際に考慮すべきポイントを整理して解説します。

1. 現在の業務状況の把握

生産性向上や労働環境の改善を目指すためには、まず現在の業務状況を把握する必要があります。具体的には、業務の種類や量、1つの業務に携わる人数、1つの業務にかかる時間とコストなどを確認しましょう。

2.ワークシェアリングできそうな業務を分析・検討

1で把握した業務と従業員の勤務状況を分析し、ワークシェアリングできそうな業務を検討します。例えば、以下のような作業は複数人で分担しやすく、ワークシェアリングの効果を期待しやすいと考えられます。

  • 期限が切迫していないもの
  • 長時間を要するものの、似たようなことの繰り返し(集中力が低下しやすい)

このとき、慣習的に継続しているが実質的に無駄な業務、コストを削減できそうな業務など、無駄な部分や改善できる部分がないかも見直してみてください。

3.運用方法のマニュアル化

ワークシェアリングを実施する従業員に対し、導入目的や制度について理解してもらいます。基準が明確でないと導入後に混乱を招き、生産性の向上につながらない可能性があるため、運用方法をしっかりマニュアル化します。責任者や情報共有の方法、シェアする業務とシェアしない業務の区別など、基準やルールを明確にすることが重要です。

ワークシェアリング導入時の課題と解決策

生産性の向上や働き方改革への対応を目的にワークシェアリングの導入を検討しているものの、「社内体制の変化により何らかの弊害が生じるのでは」と不安を抱いている方もいると思います。ここでは、ワークシェアリングを導入するにあたって生じうる課題と対策を解説します。

従業員の不満が生じるおそれがある

仕事を複数人で分担することで一人あたりの労働時間が減少すると給与も減り、従業員に不満が生じる可能性があります。

この場合、プライベートの時間が確保できるメリットについて説明するほか、副業を許可するのも1つの方法です。

また、企業の采配次第ではあるものの、ワークシェアリングをすべての従業員に強制しなければ、不満を持つ人には従来通り勤務してもらうこともできます。国の助成金をうまく活用するとともに、業務の生産性向上を図りバランスを取ってみてください。

初期の負担が大きくなりやすい

新制度の導入時は準備や従業員への周知、教育、実践などやることが多く、負担が一時的に増加します。導入時はスムーズに連携できず、費やした時間や労力と成果が見合わない可能性もありますが、最初は仕方ないと割り切ることも必要です。

業績だけは悪化しないように注意しながら、実際に制度が動き出してからはスムーズに連携が取れるよう準備に時間や労力をかけることが重要です。

事例つき|ワークシェアリング以外の働き方改革

ワークシェアリング以外にも、無駄な残業の防止や従業員の健康維持のための制度があります。ここでは、20年前に厚生労働省がワークシェアリングを推進する際に紹介していた国内事例も含めて紹介しますので、自社に適用できそうなやり方があればぜひ参考にしてください。

短時間勤務・在宅勤務

短時間勤務とは1日の勤務時間を通常よりも短縮した働き方のことをいい、在宅勤務とは会社に出勤をせず、自宅で業務を行う勤務形態のことをいいます。

A社では、従業員が育児・介護・自己啓発など私生活を充実させられるよう、週当たりの勤務時間を8割または6割に短縮する「短時間勤務制度」を導入しました。

▼制度の内容

  • 1日の勤務時間を短縮もしくは週あたりの出勤日数を4日または3日とする
  • 申請理由には原則として制限はない

A社では併せて在宅勤務制度も導入し、事由の制限や在宅勤務割合の規定を設けないこととしています。

従来、A社では育児休職を満2年取得する社員が圧倒的に多かったものの、短時間勤務・在宅勤務制度を導入することで仕事と育児を両立しやすくなり、2年未満で復職する社員が増えています。

参考:厚生労働省「第2章 わが国におけるワークシェアリングの実践例

フレックスタイム制

フレックスタイム制とは、毎日の始業・終業時刻や労働時間を自分で決定できる制度で、従業員の意識改革と仕事の効率化を目的としています。

従業員は自分で始業や終業の時刻を決められる自由が与えられる一方、自分自身で時間管理をしなければならない責任が生じます。その結果、仕事に対してより積極的に取り組む意識を持ってもらえます。通勤時間をずらすことで通勤ラッシュ回避にもなり、ストレスの軽減にもつながります。

実際にフレックスタイム制を導入したB社では「健康状態が良くなった」と社員から好評で、身体的・精神的に良い効果が現れています。

参考:厚生労働省|「効率的な働き方に向けてフレックスタイム制の導入 事例編-1

まとめ|業務内容の最適化をはかろう

ワークシェアリングとは、従来一人で担っていた仕事を複数人で分担して請け負うシステムのことです。社会状況に影響された従業員の解雇防止や新たな雇用の促進を目的とし、海外での成功事例があることから日本でも厚生労働省が推進しています。

企業にとっては業務の属人化防止や生産性の向上、従業員にとっては健康維持や雇用の安定など、双方にメリットがあります。ただし、ワークシェアリング導入にあたっては、いきなり仕事を複数人に割り振るのではなく、現状の業務内容・取組状況を把握・分析したうえで導入できそうな部分と形態を検討することが重要です。

よくある質問

Q1.ワークシェアリング導入の際に専門家に相談したいときは?

各都道府県の労働局などでは、ワークシェアリングに関する相談が可能です。専門家からアドバイスを受けることで正しい導入方法や効果的な運用方法が理解でき、より自社に適した取り組みが可能です。

Q2.ワークシェアリングの失敗例は?

従業員各人の裁量が大きい業務、経験の蓄積が重要になる業務など、ワークシェアリングに適さない業務を対象にすると、かえって効率が落ち業績が悪化する可能性があります。

いきなり社内全体でワークシェアリングを導入するのではなく、マニュアル化しやすい業務・分担によって効率化を望める業務から導入することで失敗を回避しやすくなります。

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