インセンティブとは、仕事の成果に応じて金銭的および金銭以外の報酬を与える制度のことです。公平な評価をもとに従業員へ報酬を与えることで、モチベーションが高まって組織全体が活性化し、最終的な企業の業績アップにつながると期待できます。
しかし組織全体の活性化を図れる一方で、成果報酬型であるがゆえに従来の年功序列型と考え方が大きく異なるため、導入時に意識すべきポイントがわからずつまずく企業も多いはずです。
本記事では、インセンティブ制度の意義や種類、導入のメリット・デメリット、制度の運用を成功させるポイントなどについて解説します。
インセンティブ制度を自社へ導入すべきか判断したい方は、ぜひ参考にしてください。
ビジネスシーンでの「インセンティブ」とは、仕事の成果に応じた報酬の支払いや高い人事評価を与えることなどを意味します。インセンティブに該当する例として以下が挙げられます。
日本語では「刺激・報奨金・動機・誘因・励み」といった意味を持ちます。
インセンティブは、従業員が意欲的に仕事へ取り組める環境を整備することで、最終的に企業全体を活性化させる目的で導入します。
インセンティブでは、金銭支払いや適切な人事評価の実施、キャリアアップのサポートなど、幅広い観点から従業員の動機付けを行います。年次や勤務年数ではなく成果を基準に適切なインセンティブを提供できれば、従業員が積極的にスキルアップする動機付けにつながるかもしれません。
具体的なインセンティブの種類は「【具体例付き】インセンティブの種類」の章で解説しているため、ご確認ください。
インセンティブと似ている以下の言葉との違いを解説します。
モチベーションも、インセンティブと同じく「動機付け」の意味を持ちますが、種類に違いがあります。
インセンティブは、報奨金や人事評価などの「外発的動機付け」です。企業が従業員のモチベーションアップにつながる施策を行うことで、外から動機付けを行います。
一方でモチベーションは「内発的動機付け」です。内発的動機とは、従業員が「自発的」にやる気を起こすことを指します。具体的には仕事への興味関心や目標、やりがい、達成感など、従業員自身の中から湧き上がる動機によって行動へ結び付きます。
インセンティブは、個人の成果に対して提供されるものです。
一方で賞与(ボーナス)は、企業の業績に応じて変動しやすい傾向にあります。仮に個人で高い成果を残しても、企業の業績が悪化すれば賞与(ボーナス)は支給されないケースもあり得ます。
インセンティブは、「年間の新規顧客獲得目標を達成した際に売上の◯◯%を支払う」といったものです。インセンティブが提供されるかは、「最終的な目標を達成したか?」によって変わります。
一方で歩合制は、「契約1件につき◯◯円を支払う」といったシステムです。最終目標の達成度合いに関わらず、一定の実績ごとに支払われます。」
インセンティブは、個人の成果に応じて提供されるものです。
一方で手当は、所定の条件を満たせば、毎月一定金額を支払われることが一般的です。例えば、通勤手当や住宅手当、休日出勤手当、資格取得手当などが該当します。福利厚生としての支給が多いはずです。
インセンティブは、大きく以下2種類に分けられます。
インセンティブとしては、給与以外に支払う金銭的・物質的な報酬がポピュラーです。例えば「個人の月間売上目標を達成したら〇〇円」というように設定します。
現金以外にも、株式・商品券・旅行券などの物品や賞品を支給するケースもあります。
金銭や物質的なもの以外のインセンティブとしては以下が挙げられます。
昇給や昇進、昇格などの人事評価をインセンティブとして与えるパターンです。具体的な昇格や表彰などで周囲から認められることにより、従業員のモチベーションを高めます。とくに管理職昇格にモチベーションを感じている従業員にとって、理想のキャリアアップを実現するチャンスが広がるため魅力的です。
職場で良好な人間関係を構築し従業員のモチベーションにつなげるパターンです。いくら金銭的インセンティブが高くても、上司や同僚との関係性が悪ければ、モチベーション低下につながります。
従業員自身が目標とする人物を、職場内で見つけられる状態を整えることが理想です。
従業員が企業の理念に共感すること自体をモチベーションにつなげるパターンです。
企業の価値観・理念・ビジョンに共感し、従業員自身が「自分は◯◯という形で組織に貢献している」と実感できれば、自然と仕事への意欲も高まります。
従業員のキャリアや目標の実現を企業がサポートするパターンです。例えば「出世したい従業員」に対しては、企業が経営陣と一緒に仕事する機会を作ることでインセンティブにつながります。
将来のビジョンや達成したい目標が明確な従業員にとっては、大きな魅力を持つインセンティブです。
インセンティブの種類は、金銭や物品、昇進、自己実現サポートなど、さまざまです。
ここからは、インセンティブの導入メリット・デメリットを「企業視点」「従業視点」で解説します。
まず企業視点のメリットとして、以下が挙げられます。
固定給や企業の業績に応じた賞与だけでは、個人の成果を正当に報酬へ反映しきれないこともあります。
株式会社ビズヒッツが、仕事を持つ10代~60代の男女500人を対象に「職場の不満」に関するアンケート調査を行ったところ、「人間関係・収入が少ない・職場環境」などに続き、「正当に評価されない」という理由が6位にランクインしました。
参照:株式会社ビズヒッツ|「【職場の不満ランキング】男女500人アンケート調査」
このように、自分の働きが評価されなければ従業員のモチベーションに関わります。とくに年功序列が浸透した企業では、若いうちに努力しても評価されにくいかもしれません。
インセンティブ制度があれば、年功序列に関係なく個人の成果を評価し、報酬を与えられます。目標に向けて努力し成果を出せれば正しく評価されるため、従業員の不満を解消できます。
上記のように従業員の成果が正しく判断されれば、仕事への動機付けができます。職場全体で従業員の仕事への意欲が高まれば、チームでより大きな成果を出せるようになり、最終的に企業の業績アップにつながると期待できます。
従業員への金銭的・物質的なインセンティブが大きくなっても、それ以上に業績がアップすれば企業としては魅力的です。
基本的にインセンティブは、目標達成時に与えられます。そのため、「従業員個人へのインセンティブが発生する=企業として目標達成に近付く」ということを意味しており、ゴールまでの達成度合いを明確化しやすい点が特徴です。
また、従業員個人(または小規模チーム)の業務プロセスが問題なく進んでいるかも確認できるため、従業員個人のパフォーマンスを数値化できるようになり、より正しい評価を下せます。
年功序列型の評価制度では、成果に関わらず勤務年数が長い従業員は年々給与が上昇するため、能力による収入の差は生まれにくいことが一般的でした。そのため、求められた成果を出していない従業員にも高い給与を支払うケースがあり、企業としては費用対効果が低いと感じるかもしれません。
金銭的・物質的インセンティブは従業員のパフォーマンスに応じて報酬が変動するため、能力の差に応じて人的コストのバランスを調整できます。
続いては、企業視点のデメリットを紹介します。
金銭的・物質的インセンティブは「毎月の目標」など、短期的な成果に対して支払う傾向にあります。そのため、従業員が目の前の売上を作ることにリソースを割いてしまい、長期的な視点で成果を出せなくなるかもしれません。
確かに従業員からすると、目の前の成果を作ったほうが短期的に自分の収入を増やせます。しかし企業からすると、長期的に見込み顧客を新規顧客へ育成する施策を実行しにくくなるため、徐々に業績低下を招くかもしれません。
インセンティブ制度が「個人目標」を基準に設定している場合、従業員ぞれぞれが自分の成果を求めてチームワークを乱すリスクがあります。例えば「成果を取られないためにチームへ営業ノウハウを共有しない」「部下を丁寧に育成しない」などの事態が発生するかもしれません。
ノウハウやスキルが特定の従業員に偏ると企業にナレッジが蓄積されず、業務が属人化するおそれがあります。
こうしたチームワークの乱れが続くと、職場環境が悪化し最終的に企業の業績に影響を与えるかもしれません。
インセンティブ制度の仕組み上、成果を出せない従業員にはインセンティブが与えられません。
確かに企業としては、成果を出す従業員に還元したいはずです。とはいえ、金銭的・物質的インセンティブをなかなか獲得できない従業員からすると「自分には還元されない」と感じてしまい、モチベーション低下につながりかねません。企業への帰属意識も薄れるため、金銭的・物質的インセンティブを受け取れない従業員へのフォローも考えるべきです。
続いて、インセンティブ導入による従業員視点のメリットを紹介します。
年功序列では自身の努力が収入につながりにくいため、仕事への意欲が低下するかもしれません。インセンティブ制度があれば、自身の努力次第で大きく収入を伸ばせるため、仕事へのモチベーションアップにつながります。
インセンティブ制度の内容によっては、自身のキャリア実現に向けたサポートを受けられます。例えば自身が出世を考えている場合、自己実現的インセンティブとして「経営陣へ提案しフィードバックを受ける」という機会が設けられていれば、大きな魅力に感じるはずです。
最後に、インセンティブ導入による従業員視点のデメリットを紹介します。
金銭的・物質的インセンティブは自分の成果に応じて変動するため、毎月の収入が安定しません。とくに固定給に対して金銭的インセンティブの割合が高い場合、成果を出せないと金銭的にも精神的にも余裕がなくなる可能性もあります。
成果を出すのが難しい従業員にとって、インセンティブ制度はあまり望ましい制度ではないかもしれません。例えば、周囲の同期が成果を出して金銭的・物質的インセンティブを受け取る中で自分の収入が増えないと、劣等感を覚え仕事へのモチベーションが低下するおそれがあります。
一方で成果を出せたとしても、「個人プレーに走りすぎてチームメンバーと険悪な雰囲気になる」ということが発生し、居心地の悪さを感じるかもしれません。
上記のようなインセンティブ制度のデメリットを受けないためにも、導入前の対策が必須です。その他にも、以下の点に留意が必要です。
内容にもよりますが、インセンティブで得た報酬や物品は所得税や社会保険料の対象になります。具体的な内容は、以下をチェックしてください。
インセンティブ制度がある場合は、雇用契約書への記載が必要になります。記載がなければ、入社後に従業員と企業間でトラブルになる可能性があるため、以下の点をわかりやすく明記することが大切です。
インセンティブを導入しても、本来の目的である組織活性化や従業員のモチベーション向上につながらなければ意味がありません。場合によっては、インセンティブ導入で従業員間に格差が生まれ、不満が出るケースもあります。
上記を防いで効果的なインセンティブ制度を導入するには、以下のポイントを押さえることが重要です。
インセンティブを成功させたいなら、制度の導入目的を明確にすることが重要です。
インセンティブの導入自体が目的になると「導入しただけ」で満足してしまい、制度を改善する意識が薄れ、理想の成果を得られないかもしれません。
導入自体を目的にしないためには、例えば「売上を前年より150%アップさせる」「離職率を15%改善する」など、具体的かつ明確な目標の設定がおすすめです。
インセンティブは従業員の年収を左右しかねない重大な制度です。そのため、従業員の意見を取り入れて全員が納得できる形で導入することが必須です。大多数の従業員の納得性を高めるためには、アンケートを活用するなどして、価値観やニーズのヒアリングが必要になります。
ヒアリング結果をもとに、外発的動機付け(金銭的なインセンティブ)と内発的動機付け(役職や名誉などの精神的なインセンティブ)をバランスよく織り交ぜることで、従業員の納得感を高められます。
金銭によるインセンティブだけでは、従業員間にわかりやすく差が生まれます。
そのため、金銭的なプレッシャーを与えないよう「自己実現サポート制度を導入する」「物品で表彰する」など、幅広い観点での制度の検討が必要です。
インセンティブは、営業職や販売、採用など成果を数値化しやすい職種では、導入しやすい傾向にあります。
とはいえ、成果を可視化しやすい一部職種だけにインセンティブを導入すると、事務職など数値化が難しい職種で働く従業員のモチベーションが低下します。
組織全体に効果のある制度を導入するには、なるべく数値化できる指標を設けて適切な評価を行うことで、すべての職種でインセンティブを適用できるよう工夫することが重要です。
最初から完璧なインセンティブ制度を運用することは困難です。制度導入後も従業員へのヒアリングやアンケートを行い不満や要望を吸い上げ、定期的に改善を実施してください。
課題や問題点が見つかった際は、柔軟に制度の見直しを行うことが大切です。とくに、インセンティブ制度導入直後の1~2年程度は様子を注視し、適宜対処が必要になります。
インセンティブを導入すると、従業員のモチベーションが向上し最終的な企業の業績改善が期待できます。インセンティブには、金銭だけでなく人事評価や自己実現サポートなど幅広い内容を設定可能です。
実際に導入する際は、営業職や経理、総務などすべての職種で業務パフォーマンスを数値化させて、多くの従業員がインセンティブ制度の恩恵を受けられるような工夫が必要です。今回紹介したポイントを押さえて効率的なインセンティブ制度を導入できれば、組織全体の活性化が期待できます。
Q1.インセンティブとはなんですか? |
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インセンティブとは、成果に応じて従業員へ与える報酬のことを指します。従業員に刺激を与えて仕事のモチベーションを向上させることで、組織全体を活性化させることが目的です。 |
Q2.インセンティブにはどんな種類がありますか? |
インセンティブには以下のような種類があります。
金銭以外の種類もあるため、自社の風土や目的に合わせて導入することが大切です。 |