業務委託と派遣はどちらも、自社の業務を切り出して外部に依頼するアウトソーシングですが、雇用形態に違いがあります。具体的には、活用の目的、指揮命令権の有無、報酬体系、契約内容などです。
これらの違いを知らずに業務委託・派遣を活用していると、トラブルが発生したり、法律違反を犯したりするリスクがあります。
この記事は、業務委託と派遣の仕組みの違いや、メリット・デメリット、向いている業務や契約時の注意点を解説します。それぞれの特徴を理解し、自社にとって最適な雇用形態を選択しましょう。
業務委託や派遣を検討していてどちらにするか悩んでいる、または、トラブルを避けながら上手にアウトソーシングを活用したい企業経営者や人事担当者はぜひご覧ください。
企業がおさえておくべき業務委託と派遣の違いを、図と表をもとに簡単に説明します。
業務委託と派遣の仕組み
業務委託と派遣の違い
業務委託 | 派遣 | |
---|---|---|
なし | 指揮命令権 | あり |
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給与形態 |
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業務ごとに異なる | 契約期間 | 同じ職場では3年が上限 |
業務委託とは、自社から業務を切り出し、外部の企業や個人に委託する契約形態です。業務委託を受ける企業・個人は、発注者から委託された業務を完成させることで報酬を得ます。
このとき、業務委託を受ける企業・個人は独立した事業主として扱われ、発注者からの指揮命令(作業工程に関して仕事の順序・方法などの指示を行ったり、配置や一人ひとりの仕事の割付などを決定したりすること)を受けることはありません。
また、基本的には労働基準法などの従業員に適用される保護を受けることはできません。報酬体系は、月額固定報酬型、成果報酬・出来高払い型、単発・スポット報酬型のいずれかになる場合が多いです。
一方、派遣とは、発注者となる企業と派遣会社とが労働契約を結び、発注者に派遣会社の従業員を派遣する契約形態です。派遣された従業員は発注者の指示や監督を受けながら、指定された場所や業務内容に沿って働きます。
派遣された従業員の労働に対しては発注者から報酬が発生しますが、派遣された従業員の法律上の雇用主は派遣会社であるため、給与の支払いや労働条件の管理は派遣会社が行います。発注者は、派遣された従業員の保険料や税金を負担する必要はありませんが、派遣された従業員に支払う報酬に加え、派遣会社への手数料を払うことになります。
ただし、労働者派遣法のもと、派遣会社と発注者は、派遣された従業員の待遇や安全衛生管理などの責任を共有し、法的に責任を分担することが求められています。
契約期間については、すこし込み入っているので以下で細かく解説します。
業務委託と派遣では、定められる契約期間に違いがあります。
業務委託の場合は、通常業務委託を結ぶ際に、以下の事項を定めます。
業務委託契約時に決める事項
一方、派遣の場合、同じ派遣された従業員を派遣先事業所の同一の組織単位に派遣できる期間は、最大3年と定められています(2015年の労働者派遣法改正)。そのため、例外となるケースを除き、派遣先が3年を超えて派遣を受け入れようとする場合は、派遣先となる発注者の過半数労働組合などからの意見を聞く必要があります。
派遣において期間制限の対象外となる従業員
同じ派遣労働者を規定年数以上、引き続き同じ職場・部署で雇用継続したい場合は、雇用形態を正社員・契約社員・無期雇用派遣社員などに切り替える必要があります。これは正社員に比べて不安定な雇用状況にある派遣される従業員を守るための決まりであり、企業の業種規模に関わらず遵守しなければなりません。
なお、業務があるときだけ派遣会社と雇用契約を結ぶ一般派遣の場合、派遣期間の終了後であれば、派遣先が派遣労働者を直接雇用しても問題ありません。しかし、紹介予定派遣のように派遣会社による紹介によって派遣従業員を直接雇用する場合には、派遣会社に紹介手数料を支払う必要がある点に注意が必要です。
さらに、労働者派遣法では、発注者の都合でやむを得ず派遣契約を途中で解除する場合、派遣先は派遣労働者の再就職先の確保をする責任があるとされています。
引用:厚生労働省・都道府県労働局『派遣会社の事業所の皆様へ』
企業が業務委託や派遣を利用する最大のメリットは、必要なスキルを持った人材に必要なときだけ働いてもらえることです。
たとえば、繁忙期の人材確保をしたい場合や新たなシステム設計を行いたいが自社にスキルがある人材がいない場合など、業務委託や派遣が選ばれます。業務委託や派遣で依頼すれば、自社で正社員として雇用する場合に比べて、採用や研修のコストも抑えられます。
その一方、長期的に見れば、帰属意識が生まれにくい・安定した人材確保ができないといったデメリットも存在します。
業務委託と派遣のメリット・デメリット
業務委託 | 派遣 | |
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メリット |
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デメリット |
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業務委託を利用することで、特定の専門的な知識・スキルを持った人材に業務を依頼できます。社内に対応できる従業員がいない場合でも強化したい部門や業務にリソースを集中させられます。また、労働基準法が適用されないため、残業代などを気にする必要がなく、経費を削減できます。
一方で、指揮命令権がないため、連携が上手くいかないことがあります。委託した業務が納期に間に合わない場合の対応も考える必要があります。また、専門性が高い業務の場合コストが大きくなる可能性があったり、業務委託先の能力に依存することになり、社内の人材が育つ機会が失われる可能性があったりします。
派遣では、繁盛期などの必要なときにだけ人材を確保・活用しやすいというメリットがあります。特にマニュアルが整備されているような業務に向いています。また、労務関係や保険関連の手続きは派遣会社が行うため、業務委託に比べて手続きが簡単です。
一方で、派遣期間が最長3年であるため、長期的な人材確保ができない、重要な仕事を任せにくいというデメリットもあります。
さらに、派遣された従業員に時間外労働や休日労働をさせる場合は、派遣会社で時間外労働や休日労働のための労使協定が締結されている必要があります。勤務時間や雇用に関しては正社員とは異なる対応が必要なことに注意が必要です。
業務委託と派遣は就業形態やメリットに違いがあるため、どちらが向いているかは依頼したい業務や業種によって決まります。それぞれが向いている業務の例を紹介します。
業務委託が向いている業務と例
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例 イベントの運営、マーケティング企画、Webデザイン、プログラミング、翻訳業務やライティング、コンサルティング業務 |
業務委託は専門的な業務をコストを抑えて依頼したい場合に多く利用されます。
株式会社みらいワークスが2022年に行った「企業の業務委託利用」に関する実態調査によれば、業務委託に求める業務で最も多いのはエンジニア(36.7%)、次に多いのがPM/システム企画開発(28.0%)でした。
引用:株式会社みらいワークス:「企業の業務委託利用」に関する実態調査
このように、エンジニアや、システム企画開発といったスキル・専門性が求められるシーンで即戦力を求めている、あるいは採用が困難であるようなシーンで業務委託が活用されているようです。
派遣が向いている業務と例
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例 データ入力、事務処理、カスタマーサポート、テレフォンオペレーター、販売員、店舗スタッフ、製造ライン作業員、製造工場でのライン作業員、看護師などの医療従事者、保育士、研究開発の補助 |
派遣は、特定の成果物の納品や専門性の高い知識・スキルが求められる業務よりも、オフィスワークや顧客サポートなど、定型的で幅広い対応が求められる業務が多い傾向にあるようです。
厚生労働省の「従業員派遣の現状について(全般)」によれば、派遣労働者数が最も多い業種は製品製造・加工処理従事者で、その次には一般事務従事者が続きます。
引用:厚生労働省「従業員派遣の現状について(全般)」
業務委託に比べて専門性やスキルよりも、基本的にはマニュアルが定まっており、人手が必要な業務において活用される傾向にあるようです。
業務委託や派遣の契約のルールは、労働者派遣法や労働契約法、民法などに規定されています。そのため、自社で活用する場合は、それぞれの法律に違反をしないよう注意が必要です。
特に、発生しやすい「二重派遣」と「偽装請負」については契約の締結前に確認しておきましょう。
「偽装請負(ぎそううけおい)」とは、実質的に従業員派遣であるのにも関わらず、請負契約や業務委託に偽装する行為のことです。たとえば、契約形態が業務委託であるのに発注者からの指示命令があったと認められると、偽装請負とみなされます。
業務委託では、労働基準法などの労働法令が適用されないので、偽装請負は従業員の待遇の悪化や不安定化をもたらす可能性があり、労働者派遣法および職業安定法によって禁止されています。
偽装請負と判断されると、発注者に1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科せられることがあります。偽装請負では、派遣される従業員が指示されたと感じた時点で違法になります。
業務委託で禁止されている指示命令
勤務規則が適用されないことや作業時間や勤務場所などは業務委託を受ける企業・個人に決定権があるなど、指揮命令関係がないことを契約に明記する必要があります。
参考までに、偽装請負をめぐって企業が処分を受けたケースと、偽装請負とは認定されなかったケースを付記します。業務委託で依頼したい企業は一度確認しておくと良いでしょう。
偽装請負をめぐる裁判の例
偽装請負として企業が処分を受けたケース | ナブテスコ事件 被告会社の子会社と業務委託契約を結び、親会社の班長の指示を受け、同じ作業服を着て親会社の従業員と共に業務を行った。 |
裁判所の判断 子会社が親会社からは独立した法人であるとしたうえで、原告らの主張を認め、実質的には親会社から直接作業上の指揮命令を受けて労務に従事しており、親会社が実施的に原告らに賃金を支払っている。親会社と黙示的な労働契約を成立させているといえる。 |
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偽装請負と認定されなかったケース | センエイ事件 下請け企業で働く従業員は、業務遂行過程で相手方企業から指揮命令を受けていた。また、出来高払いという形式ではあったが、実際は従業員が働いた時間に応じて請負代金が支払われていた。 |
裁判所の判断 指揮命令関係があったが、下請け企業には他企業との業務契約や労働者派遣の実績がなかったため、企業としての独立性が認められず、相手方企業との黙示的な労働契約関係が認められた。 |
参考:労働開発研究会「偽装請負をめぐる判例動向」
二重派遣とは、派遣会社から派遣された従業員を、派遣先である発注者がさらに別の企業(自社の取引先や子会社など)へ労働力として再派遣することです。職業安定法の第44条に抵触します。
派遣の前提として、派遣される従業員と派遣会社の間で雇用契約が結ばれ、その上で派遣会社と発注者との間に派遣契約を結ぶという形態があります。このことにより、発注者が派遣された従業員へ指示命令を行うことや労働させることが合法です。
しかし、派遣先である発注者が別企業の業務を行わせてしまうと、雇用関係も派遣契約もない企業が派遣された従業員へ指示命令を行うこととなり、結果的に契約外の労働関係が生まれてしまいます。これが二重派遣です。
派遣契約を結ばない企業で労働が生まれ、派遣された従業員が不利益を被ることがないように、二重派遣の禁止が定められているのです。
派遣を活用したい企業は、取引先や子会社、関連企業で派遣された従業員を勤務させることがないよう、事前に依頼業務を明確にし、現場に周知しておきましょう。
業務委託と派遣はアウトソーシングという点では同じですが、異なる雇用形態です。これらを混同したまま利用してしまうことで、知らず知らずのうちに法律違反を犯す危険があります。
自社で活用したい場合は、業務委託・派遣の契約の違いや活用の注意点を知り、それぞれのメリット・デメリットを踏まえて、自社の課題に合う雇用形態を選択しましょう。
Q1.業務委託と派遣の違いは? |
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業務委託と派遣はどちらもアウトソーシングですが、雇用形態に違いがあります。具体的には、活用の目的、指揮命令権の有無、報酬体系、契約内容などです。これらの違いを知らずに業務委託・派遣を活用していると、トラブルが発生したり、法律違反を犯したりする可能性があります。 それぞれについて詳しくは、業務委託と派遣の違いの章をご覧ください。 |
Q2.業務委託と派遣それぞれに向いている業務は? |
業務委託は専門的な業務をコストを抑えて依頼したい場合に多く利用されます。例えば、エンジニアやシステム企画開発といった業務です。 一方で派遣は、特定の成果物の納品や高い専門性よりも、オフィスワークや顧客サポートなど、定型的で広範囲の業務が求められる場合が多いようです。 詳しくは、業務委託・派遣それぞれに向いている業務と例をご覧ください。 |
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