労働時間の一種である所定労働時間とは?〜給与計算に関係〜

更新日:2022年11月11日
所定労働時間

所定労働時間は、会社が雇用契約書や就業規則で定める、社員が働く時間を意味します。法定労働時間などとともに、労務管理では重要な概念の1つです。特に、労働時間が所定労働時間を上回ったときに、どう残業代を計算するか把握するとよいでしょう。この記事では、所定労働時間の意味や、所定労働時間を上回ったときの残業代などについて解説します。

労働時間の一種!所定労働時間とは

労働時間と所定労働時間に関する基礎知識について解説します。

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所定労働時間と法定労働時間

所定労働時間とは、企業ごとに従業員に定めた従業員が働く時間を指します。一方で、法定労働時間とは、労働基準法第32条に規定された労働時間の上限を指します。所定労働時間と法定労働時間の指す労働時間は全く別物です。

所定労働時間

会社が雇用契約書や就業規則で定める、社員が働く時間。始業時間から終業時間までの時間から、休憩時間を除いたもの。
原則として、1日に8時間、1週間に40時間を超えて労働させてはいけない。


法定労働時間

労働基準法第32条に規定されている、労働時間の限度。休憩をのぞき、1.「1日8時間以上」、2,「1週間40時間以上」働かせてはならない。
法定労働時間にて、所定労働時間の上限は定められているが、下限はなし

例)始業時間:8時45分、終業時間:17時15分、休憩時間:12時〜13時の1時間の場合
 →7時間30分が所定労働時間

法定労働時間との違い

法定労働時間では、所定労働時間の上限は定められています。
(法定労働時間)>(所定労働時間)は可能でも、(所定労働時間)>(法定労働時間)は不可能となります。

ただし、以下の2ケースは法定労働時間の例外です。

44時間特例
  • 就業規則や雇用契約書にその旨を記載しており、かつ一定の業種・規模であれば割増賃金なしの労働が可能
  • 卸業や演劇、病院や旅館などの業界で採用されるケースが見られる
  • 各事業場10人未満が対象となる
変形労働時間制
  • ひと月単位で、週当たりの労働時間が40時間を超えなければよいとする制度のこと
  • 旅行業界など、繁忙状況の変動が大きい業界で活用されることが多い

労働時間に関する他の用語

その他労働時間に関する用語でよく使用される用語は以下の通りです。

月平均所定労働時間
  • 1ヶ月の平均の所定労働時間を意味する
  • 計算式は以下のとおりである
    (月平均所定労働時間)=(1年間の所定労働時間の合計)÷12
  • 月の日数にはバラつきがあるが、月平均所定労働時間を用いれば1カ月分の労働時間を簡単に算出できる
  • 月平均所定労働時間は、おおよその労働時間を算出したいときに便利である
実労働時間
  • 実際に働いた時間のこと
  • 残業時間も含まれる
  • 計算式は以下のとおりである
    (実労働時間)=(所定労働時間)+(残業時間)
拘束時間
  • 従業員が会社の管理下にある時間のこと
  • 所定労働時間や残業時間だけでなく、休憩時間も加えた時間となる

労働時間が所定労働時間を上回ったときの残業代計算

労働時間が所定労働時間を上回ったとき、どのような対応を行えばよいのでしょうか?
給与計算方法について、3つ解説します。

労働時間が法定労働時間を上回らないとき

労働時間が所定労働時間を上回ったものの、法定労働時間が上回らないときの残業時間は、法定内残業時間と言います。
所定労働時間、労働時間、法定労働時間の関係性は、以下のとおりです。
(所定労働時間)<(労働時間)≦(法定労働時間)
上記の現象は、必ずしも(所定労働時間)=(法定労働時間)である必要がないため発生しうる事象で、以下のとおり割増料金なしの残業代が支払われることになります。
(法定内残業時間)=(月収)÷(月の所定労働時間)×(残業時間)
ただし、労使協定などで会社独自に決められたルールがある場合、その限りではありません。

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労働時間が法定労働時間を上回らないとき

労働時間が法定労働時間を上回るときは、割増賃金が必要になります。
割増賃金の計算式は、以下のとおりです。
(法定労働時間外の残業代)=(法定労働時間外の残業時間)×(1+割増率)
※1:(法定労働時間外の残業時間)=(労働時間)-(法定労-働時間)
※2:割増率は25%以上50%以下の範囲で設定可能(一律ではない)
また、22時以降は深夜残業代25%も加算されるため、残業代の計算は、以下の通りとなります。
(法定労働時間外の残業代)=(法定労働時間外の残業時間)×(1+割増率+25%(深夜残業代))

労働時間が法定労働時間を上回るときには36協定締結が必須


36協定

労働基準法36条に基づく、時間外労働・休日労働(休日出勤)に関する労使協定。


本来は、労働時間が法定労働時間を上回ることはあってはなりません。
しかし、労使間で36協定を結ぶことで、法定労働時間を超えて労働させても違法にはならないのです。
ただし、法定労働時間を超えて働かせた場合、その分の残業代は支払う必要があります。
また、会社が労働組合(労働組合がなければ労働者の過半数を代表する者)との間で、以下の内容を記した協定を取り交わし、労働基準監督署長に届け出る必要があります。

  • 時間外労働をさせる必要のある具体的な事由
  • 業務の種類
  • 労働者の数
  • 1日について延長できる時間
  • 1日を超える一定の期間について延長できる時間
  • 有効期間

なお、36協定の中でも労働時間の上限があるため、従業員に対して無制限に残業や土日出勤を命令することはできません。
時間外労働の限度を超えて従業員に労働をさせた場合、労働基準法違反として6ヶ月以下の懲役、または30万円以下の罰金が課せられます。

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労働時間が所定労働時間を下回ったときの給与計算

ここでは、労働時間が所定労働時間を下回ったときの給与計算について、3つ解説します。

欠勤時の給与控除額算出方法

欠勤時の給与控除額算出の4つの方法を解説します。

1.(月給与額)÷(年平均の月所定労働日数)×(欠勤日数)

メリットは、欠勤1日ごとの控除金額が一定であるため、欠勤日数がわかれば簡単に算出できる点です。
ただ、年平均の月所定労働日数次第では、実際には出勤した日があっても給与が支払われない可能性があることに注意する必要があります。
例:
年平均の月所定労働日数=20日、その月の所定労働日数=21日、欠勤日数=20日の場合、1日は勤務したことになる。
この場合、上記式に当てはめると、欠勤時の給与控除額=月給与額÷20日×20日=月給与額、となります。
したがって、欠勤時の給与控除額が月給与額と等しくなるため、給与が支払われないことになります。

2.(月給与額)÷(該当月の所定労働日数)×(欠勤日数)

メリットは、該当月の所定労働日数を用いて控除金額を決定するため、実際には出勤した日があっても給与が支払われないケースは起こり得ないことです。
ただ、月ごとに所定労働日数が変わる場合、欠勤1日ごとの控除額単価が異なることに注意が必要です。

3.(月給与額)÷(年の暦日数)×(欠勤日数)

メリットは、控除額を計算する分母が最も大きいため、控除額を小さくできることです。
しかし、全ての年の暦日数を所定労働日数にはできないため、全ての所定労働日数を欠勤した場合でも、給与が発生することに注意が必要です。

4.(月給与額)÷(該当月の暦日数)×(欠勤日数)

この方法のメリットは、該当月の暦日数を用いて控除金額を決定するため、実際には出勤した日があっても給与が支払われないケースは起こり得ないことです。
しかし、月ごとに所定労働日数が変わる場合、欠勤1日ごとの控除額単価が異なることに注意が必要です。
場合によっては、不平不満を感じる従業員が出る可能性があります。

遅刻時や早退時の給与控除額算出方法

遅刻時や早退時の給与控除額算出方法は、以下のとおりです。
遅刻早退控除額=月給与額÷1ヶ月の平均所定労働時間×遅刻や早退の時間
※1ヶ月の平均所定労働時間=(365日ー年の休日合計)×1日の所定労働時間÷12

欠勤しても給与控除の対象とならないケース

欠勤しても給与控除の対象とならないケースを、2つ解説します。
1つ目は有給休暇です。
法律で、年次有給休暇について、「労働者が(1)6ヶ月間継続勤務し、(2)その6ヶ月間の全労働日の8割以上を出勤した場合は、10日(継続または分割)の有給休暇を与えなければならない」と定められています。
2つ目は会社都合の休業です。
業績悪化や生産量調整など、会社都合で従業員を休養させる場合、平均賃金の60%以上の休業手当を支払う必要があります。
ただ、地震など災害による休業や、疫病対策で都道府県から要請を受けて休業した場合は、会社都合の休業に該当しません。

▼引用記事
労働時間・休日|厚生労働省

労働時間を管理し所定労働時間の遵守を実現するには?

所定労働時間の遵守を実現するためのポイントを2つ解説します。

1.所定労働時間などを労働契約締結時に明示

所定労働時間を労働契約締結時に明示しておくことは、所定労働時間の遵守に欠かせないポイントです。
労働基準法第15条にも、「使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない」と記載されています。
ここで、労働契約締結時に所定労働時間を明示するために使える書類は、以下の表の2つです。

労働条件通知書
  • 所定労働時間などの労働条件を通知する書類を意味する
  • 労働条件を通知するだけの書類であり、内容を確認し労使が互いに理解した証明にはならない
  • のちにトラブルが発生するケースもある
雇用契約書
  • 使用者と労働者双方が雇用に関する契約について、内容を確認した後捺印する
  • 明確な契約として内容を共有できる書類なので、トラブル回避にも有効である
  • 「労働条件の締結は雇用契約書にて行うべき」と勧めている法的機関が多い

▼引用記事
労働基準法|e-Gov法令検索

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2.労働時間の適切な把握

所定労働時間を遵守するには、実際の労働時間を把握する必要があります。労働時間の適切な把握には、以下に示す2つのポイントを押さえることが必要です。

出退勤時間について客観的記録を残す

まずは、出退勤時間の記録を正確に残すことが必要です。
タイムカード、PCの利用時間、ICカードの記録などを活用して、客観的記録として出退勤時間を残しましょう。

経営者が現場の労働実態を把握する

出退勤時間の客観的記録を残しても、それが実態と合っているとは限りません。
そのため、タイムカードなどの不正な記録や、実態と異なる出退勤申請がないか、経営者自身で現場の労働実態を確かめることが大切です。
PCの起動時間や社員からの聞き取り調査などによって、現場の労働実態を確かめられます。
従業員の労働時間の実態を探るためには、従業員との信頼関係が重要となります。日頃から、現場責任者や個々の従業員と積極的なコミュニケーションを取ることが重要となるでしょう。

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まとめ

この記事では、所定労働時間の意味や、所定労働時間を上回ったときの残業代などについて解説しました。
さらに、この記事では労働時間が所定労働時間を上回ったときと下回ったときの給与計算方法についても解説しました。
いずれにおいても、関係する法令を十分理解した上で、労使交渉を経て事前に会社でルールを設定することと、設定したルールを従業員に十分周知することが大切です。
併せて、従業員と労働契約を行うときには書面で所定労働時間を含めて契約内容を残し、労働時間も的確に把握しましょう。

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