「2030年問題」とは、少子高齢化の深刻化によって労働力不足が深刻化することが懸念されている、一連の社会課題を指します。特に日本では、団塊世代の大量退職がピークを迎えることも相まって、労働人口の減少が著しい状況に直面しているのです。
2030年問題の課題は単なる人手不足に留まりません。技術の進化や働き方の多様化も含め、企業の人事担当者には今後の変化に柔軟に対応できる仕組み作りが求められています。
この記事では、2030年問題とは何か?また、労働力不足以外の課題とその対策について、人材育成や業務効率化の観点から詳しく解説します。人材戦略を再考するためのヒントとして、ぜひご覧ください。
2030年問題とは、少子高齢化に伴う人口の減少により、2030年に顕在化するであろうと考えられている社会問題の総称です。企業は人材不足、人材獲得競争の激化、人件費高騰など、様々な問題に直面すると言われています。
一番大きな問題として捉えられているのは、人材不足です。2030年、労働人口が大幅に減少すると言われています。
総務省「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数」によると、令和6年1月1日現在の日本全国の人口は約計1億2,488万人。うち老年人口(65歳以上)は全体の28.77%と、4人に1人が該当します。
高齢化が加速すると、企業の人材不足が深刻化し、業績の悪化や労働環境の悪化、社員のモチベーション低下といった影響が懸念されます。
かと言って、労働人口が再び増加するとも言い切れないのが実情です。厚生労働省の調査を見ると、今後の人口推移は減少の一途を辿っています。
引用:厚生労働省「我が国の人口について」
さらに厚生労働省「令和5年(2023)人口動態統計月報年計(概数)の概況」によると、令和5年には合計特殊出生率が1.20と、過去最低を記録。合計特殊出生率とは、5歳から49歳までの女性の年齢別出生率を合計したもので、一人の女性が仮にその年次の年齢別出生率で一生の間に生むとしたときの子どもの数のことです。
総人口を維持するためには、合計特殊出生率が少なくとも2.07を維持することが必要です。すでにこの数値を大幅に下回る結果となっていることからも、減少した労働年齢人口が今後また回復する可能性は低いといえます。
労働年齢人口が減少し、その回復の見込みもないとなった中、2030年問題は避けられないものと言って良いでしょう。ではその2030年問題により発生しうるリスクにはどのようなものがあるのでしょうか。
本章では2030年問題で懸念されるリスクについてご紹介します。
第一に、労働力不足が考えられます。
労働年齢人口の減少により、多くの企業が人材不足に直面し、人材獲得競争が激化するでしょう。これにより、採用担当者の負担が増える恐れがあります。
新卒採用や中途採用に加え、スカウトなど複数の採用手法を駆使する必要が増え、求人情報の掲載数も増加するためです。その結果、採用にかかる人件費が現在よりも増加する可能性があります。
さらに、人材不足により売り手市場が拡大し、人件費の増加が懸念されます。企業は人材確保のために福利厚生や給与面での待遇改善を迫られ、これがさらなる人件費増加につながるでしょう。
少子高齢化による労働年齢人口の減少は、専門的な知識やスキルの継承を難しくするリスクも含んでいます。
特に、建設業や製造業では、技術者の高齢化が問題となっており、ベテラン技術者の退職に伴い、次世代への技術の引き継ぎが困難になる可能性があります。また、若手技術者の不足やリスキリング(再教育)の遅れが、この状況をさらに悪化させる恐れがあります。
労働年齢人口の減少は、国際競争力の低下を引き起こすリスクもあります。
労働力不足により、生産効率やコスト競争力の低下、さらにはイノベーションの停滞が発生しやすくなります。特に、若手技術者や専門人材の不足が、新しい製品や技術の開発を遅らせ、グローバル市場での競争力低下につながるでしょう。
また、人口増加が見込まれる他国が、生産効率やコストの面で有利になることで、競争力が高まる可能性もあります。こうした国々の企業に顧客を奪われるリスクも高まると予想されます。
現在、多くの業界で外国人労働者の受け入れが進んでおり、その人数は年々増加しています。2023年には約200万人の外国人労働者が存在し、特に製造業では全体の約27%を占めています。
参考:厚生労働省 「外国人雇用状況」の届出状況まとめ(令和5年10月末時点)
しかし、外国人労働者の増加に伴い、現場でのトラブルも発生しています。
例えば、連絡が取れなくなったり、適切な在留資格を持たないまま雇用していたりするケースがあります。また、文化や考え方の違いによるコミュニケーショントラブルも少なくありません。これらの問題を防ぐためには、契約時や社内ルールの説明を「わかりやすく」「簡単に」「明確に」行い、文化や風習を理解する土壌を整えることが重要です。
2030年問題はほとんどの業界で影響が生じると考えられますが、その中でも特に深刻な影響が懸念される業界があります。
本章では、2030年問題が特に問題視される業界について解説します。
物流業界では、すでに「2024年問題」が発生しています。2024年問題とは、働き方改革に伴う法改正により、ドライバーの労働時間に上限が課されることで生じる問題です。
具体的には、ドライバーの時間外労働が年間960時間に制限されるため、一人当たりの走行距離が短くなり、長距離輸送が困難になると懸念されています。これにより、物流・運送業界の売上減少やトラックドライバーの収入減少も予想されています。
全日本トラック協会は、労働生産性の向上や運送事業者の経営改善、適正価格の推進、多様な人材の確保・育成といった対策「働き方改革実現に向けたアクションプラン」を示しています。
建設業界では、1997年(平成9年)をピークに就業者が減少しています。国土交通省によると、1997年には685万人だった建設業の就業者は、2022年(令和4年)には479万人まで減少しています。
さらに、若手不足と高齢化が進む業界でもあります。長時間労働や労働環境の改善の遅れ、若者の建設業への関心の低下が要因として挙げられます。厚生労働省の「毎月勤労統計調査」によると、建設業の総実労働時間は他の産業よりも約25時間長く、依然として改善の余地があります。
2030年頃には高齢者の数が増加し、医療・介護サービスの需要がさらに高まることが予測されています。
しかし、これらの業界では人材が不足しており、解消の見込みも立っていません。特に、都市部での人材不足が深刻です。地方都市の有効求人倍率が約2.5倍であるのに対し、首都圏や東海、関西などの都市部では4倍以上に達しています。
IT業界では、世界的な需要拡大に伴いIT人材のニーズが急増していますが、供給が追いついていません。AI、IoT、ビッグデータ、情報セキュリティなどを扱える専門人材が不足しており、経済産業省の調査では、2030年には約59万人のIT人材が不足すると予測されています。
政府は外国人観光客の受け入れ拡大を推進しており、2012年から2017年にかけて国際線旅客数は1.6倍、国際線着陸回数は1.5倍に増加しました。しかし、航空機の整備や手荷物・貨物の取り扱いなど、航空業界のサービス提供者が不足していることが課題となっています。
外国人労働者の確保が進められていますが、言語や文化、教育の問題から即座に解決するには時間がかかると考えられます。
2030年問題に向けた対策は、企業が今から取り組むべき重要な課題です。少子高齢化や労働力不足といった深刻な問題が予想される中、企業が生き残り、成長を続けるためには、現状に即した具体的な施策が求められています。
本章では、シニア社員の再雇用、外国人労働者の受け入れ、スキルのマニュアル化など、労働力不足の緩和や生産性向上に役立つ対策を中心に、2030年に備えるための企業戦略を解説します。
シニア社員の再雇用は、労働力不足の緩和に有効です。経済産業省の調査によると、70歳以降も働くことを希望する高齢者は8割にのぼるというデータがあります。
引用:経済産業省「2050年までの経済社会の構造変化と政策課題について」
こうしたシニア人材を再雇用することで、彼らが持つ経験・スキル、人脈を活用できるのが大きな利点です。
さらに、シニア人材の再雇用は若手育成にもつながります。ベテランが持つノウハウや技術を若手に伝えることで、若手の成長が期待でき、またシニア社員が活躍する姿を若手が目にすることで、将来の自分を描きやすくなり、離職率の低下も見込まれます。定年の延長や嘱託社員制度を導入し、シニア人材が長く働ける環境を提供することが重要です。
外国人労働者の受け入れは、労働力不足を補うだけでなく、企業の生産性向上やサービス維持に寄与します。また、異なる文化やスキルを持つ外国人労働者の活用は、イノベーションを生み出し、新しい市場の開拓や国際競争力の向上にもつながります。
ただし、外国人労働者の増加に伴い、就労に関連したトラブルも増えています。外国人労働者が適切に就労できるよう、企業側には適切な雇用管理や労務管理が求められます。
外国人労働者と雇用管理について、詳しくは「外国人労働者の届出と雇用管理」をご覧ください。
ベテラン社員の退職によるスキルやノウハウの消失を防ぐため、スキルのマニュアル化は不可欠です。特に、高齢化に伴うベテラン社員の退職が増えると、その技術や知識を若手に引き継ぐことが難しくなります。マニュアル化によって暗黙知を形式知に変換し、次世代に効率的に伝えることができます。
デジタルツールを使ったオンラインマニュアルも推奨されます。オンラインマニュアルは、リモート環境でも時間や場所を問わずアクセス可能で、効率的な教育に役立ちます。これにより、労働力不足の中でも生産性を維持し、技術の継承が可能になります。
テレワークやフレックスタイムなどの働き方を導入することで、育児や介護などの理由で休職している「休眠社員」の活用が可能になります。働き方改革を推進し、出産・育児休暇を整備し、その後復帰しやすい環境を整えることで、育児や介護と仕事の両立がしやすくなり、離職率の低下につながります。
ワークライフバランスの推進は、女性の離職を防ぐだけでなく、すべての従業員にとっても魅力的な職場環境を提供できます。これにより、労働力不足が深刻化した際にも有利な立場を確立できるでしょう。テレワーク導入に際しては勤怠管理の対応が必要です。詳しくは「テレワーク時の勤怠管理で注意するポイント」をご覧ください。
リスキリングとは、従業員が現在の職務とは異なる新しい分野のスキルを習得することを指します。これにより、従業員を別の職種に配置転換することが可能です。
政府もリスキリングを支援しており、経済産業省や厚生労働省、文部科学省が助成金や講座情報を提供しています。
例えば「教育訓練給付金」制度は、資格取得や講座受講にかかる費用の一部を国が支給する制度で、多くの会社員やパートが利用できます。支給額の上限は10万円から20万円です。これらの制度を活用することで、従業員のスキルアップを支援できます。
DXとはデジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation)」の略称です。
経済産業省によると、DXは「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。」を指します。
DX化を推進することで、企業の競争力強化や働き方改革の促進が期待されます。
まずは、勤怠管理のペーパーレス化から始めるのが良いでしょう。勤怠管理システムを活用することで、コスト削減や不正防止などのメリットが得られます。詳しくは「勤怠管理をペーパーレス化するメリットは?勤怠管理システムの概要とスムーズな導入のコツ」をご覧ください。
2030年問題は、労働力不足やスキルの継承が企業に大きな影響を与えると予想されています。しかし、2030年問題に適切な対策を講じることで、これを単なる課題ではなく、ビジネスチャンスに変えられます。
対策としてシニア人材の活用や外国人労働者の受け入れによって、人材を確保し、さらなる成長を目指すことができます。また、スキルのマニュアル化・デジタル化で情報を整理することで、技術継承だけでなく、新たなアイデアを生む可能性も見込めます。
これからの時代、労働環境の変化に対応できる企業は、2030年問題を逆に活用し、成長と競争力強化を実現するでしょう。今から対策を進め、人材確保と育成を強化することで、未来のビジネスチャンスを掴むことがこれからの企業には求められているのです。
Q1.「2030年問題」とは何ですか? |
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2030年問題とは、少子高齢化に伴う人口の減少により、2030年に顕在化するであろうと考えられている社会問題の総称です。企業は人材不足、人材獲得競争の激化、人件費高騰など、様々な問題に直面すると言われています。 |
Q2.2030年代に問題となることは何ですか? |
労働力の不足、知識・スキルの継承の難化、国際競争力の低下、外国人労働者との摩擦などが挙げられます。 |