源泉徴収とは?仕組みや対象となる収入、計算・納付方法を解説

更新日:2024年06月28日
2406-FW5【源泉徴収】

企業勤めを辞めて個人事業主になったものの、税金に関する制度について細かく知らず、対応に不安を覚えている方もいらっしゃるのではないでしょうか。税金の仕組みは複雑ですが、仕組みと計算方法を理解しておけば、源泉徴収への対応が求められた際もスムーズに進められます。

この記事では、源泉徴収の仕組みや計算方法について正しく理解し、個人事業主の方がミスなく効率的に対応できるように解説します。

源泉徴収とは?

まず、源泉徴収の定義について説明します。

源泉徴収とは、給与などの所得を支払う者が、所得を支払う際に所得税額を計算し、支払い金額から所得税を差し引いて国に納付する制度のことです。簡単に言えば、給与を受け取る人が自分で税金を納めるのではなく、給与を支払う側が代わりに税金を差し引いて納める仕組みです。

源泉徴収を行う義務がある者、つまり所得を支払う者のことを「源泉徴収義務者」と言います。源泉徴収の対象とされている所得の支払者には、会社や協同組合はもちろん、学校、官公庁、個人、人格のない社団・財団も含まれています。

源泉徴収の対象となる所得は、給与所得だけでなく、退職所得、利子所得、配当所得、不動産所得など多岐にわたります。これらの所得を支払う際、支払者はその金額に応じた所得税を計算し、源泉徴収しなければなりません。

源泉徴収された所得税の額と、実際に支払うべき金額には差が生じることが多々あります。この差額を調整するために、年末調整や確定申告の制度が設けられています。年末調整では、年間の所得税額を精算し、過不足があれば調整します。確定申告では、自営業者や給与所得者以外の所得がある場合に、年間の所得税額を計算し、追加納付や還付を行います。

【2024年】法改正に関する最新情報

源泉徴収の基本知識も大切ですが、昨今では法改正や新制度などの動きがいくつか見られるため、最新状況も把握しておきたいところです。

ここでは、専門家に頼らず税金関連の対応をしている個人事業主の方に知っておいてほしい、納税対応に関連する変更点の有無を取り上げます。

電子帳簿保存法の改正

2024年1月から、電子取引によって授受された請求書や領収書などの取引データについて、印刷せずにデータのまま保存することが完全に義務化されました。これにより、紙の保存が不要となり、業務効率の向上が期待されています。

電子データで保存していなかったからと言ってすぐに青色申告が取り消されるといったことはありませんが、義務化であるため、会社法第976条における帳簿や書類の記録・保存に関する規定に違反する可能性があり、注意が必要です。

インボイス制度

納税に関する新たな制度として、2023年10月1日から開始したインボイス制度があります。軽減税率の導入による複数税率の存在から税額の正確な把握のために始まったものです。

結論から言うと、源泉徴収に関しては、インボイス制度開始後も変更はありません。インボイス制度は、仕入れ税額を控除するための方式のことなので、源泉徴収とは異なる話題になります。

源泉徴収の対象となる所得の種類

源泉徴収の対象となる所得は多岐にわたり、個人か法人かで内容も異なります。

この章では、支払いを受ける者が個人の場合と法人の場合に分けて、それぞれの対象となる所得の種類を説明します。

支払いを受ける者が国内に住所を有する個人の場合(個人)

源泉徴収の対象となる所得には、以下のような種類があります。

▼源泉徴収の対象となる主な所得:支払いを受けるものが個人の場合

  • 利子等
  • 配当等
  • 給与等
  • 退職手当等
  • 公的年金等
  • 報酬・料金等
  • 保険会社と締結した保険契約に基づく年金
  • 定期積金の給付補填金等
  • 匿名組合契約等に基づく利益の分配
  • 特定口座内保管上場株式等の譲渡による所得等
  • 懸賞金付預貯金等の懸賞金等
  • 割引債の償還差益

(国税庁「令和6年版源泉徴収のしかた」より)

これらの中で特に重要なのは、給与所得です。給与所得とは、給料、賃金、賞与、歳費など様々な項目を含んでおり、多くの個人事業主が対象となるからです。

支払いを受ける者が国内に本店又は事務所を有する法人(法人)

▼源泉徴収の対象となる主な所得:支払いを受けるものが法人の場合

  • 利子等
  • 配当等
  • 給与等
  • 退職手当等
  • 公的年金等
  • 報酬・料金等
  • 保険会社と締結した保険契約に基づく年金
  • 定期積金の給付補填金等
  • 匿名組合契約等に基づく利益の分配
  • 特定口座内保管上場株式等の譲渡による所得等
  • 懸賞金付預貯金等の懸賞金等
  • 割引債の償還差益
  • 割引債の償還金に係る差益金額

(国税庁「令和6年版源泉徴収のしかた」より)

個人事業主向け:源泉徴収の対象となる報酬

個人事業主やフリーランスの方々は、報酬の内容によって、源泉徴収の対象となるものと、対象外のものがあります。

以下が、代表的な源泉徴収の対象となる報酬の例です。

▼源泉徴収の対象となる報酬

1.原稿料や講演料など

ただし、懸賞応募作品等の入選者に支払う賞金等については、一人に対して1回に支払う金額が50,000円以下であれば、源泉徴収をしなくてもよいことになっています。

2.弁護士、公認会計士、司法書士等の特定の資格を持つ人などに支払う報酬・料金

3.社会保険診療報酬支払基金が支払う診療報酬

4.プロ野球選手、プロサッカーの選手、プロテニスの選手、モデルや外交員などに支払う報酬・料金

5.映画、演劇その他芸能(音楽、舞踊、漫才等)、テレビジョン放送等の出演等の報酬・料金や芸能プロダクションを営む個人に支払う報酬・料金

6.ホテル、旅館などで行われる宴会等において、客に対して接待等を行うことを業務とするいわゆるバンケットホステス・コンパニオンやバー、キャバレーなどに勤めるホステスなどに支払う報酬・料金

7.プロ野球選手の契約金など、役務の提供を約することにより一時に支払う契約金

8.広告宣伝のための賞金や馬主に支払う競馬の賞金

(国税庁「No.2792 源泉徴収が必要な報酬・料金等とは」より)

特にフリーランスが受け取ることが多いのは、原稿料や講演料などです。この内訳を見ていくと、以下のようなものが含まれます。

▼原稿料や講演料などの内訳

  • 原稿料
  • 挿絵料
  • 作曲量
  • レコードやテープの吹込料
  • デザイン料
  • 放送謝金
  • 著作権の使用量
  • 著作隣接権の使用料
  • 講演料
  • 技芸・スポーツ・知識等の教授・指導料
  • 投資助言業務に係る報酬・料金
  • 脚本料
  • 脚色料
  • 翻訳料
  • 通訳料
  • 校正料
  • 書籍の装丁料
  • 速記料
  • 版下の報酬 など

(国税庁「令和6年版 源泉徴収のあらまし『第5 報酬・料金等の源泉徴収事務』」より)

また、源泉徴収の対象外になる報酬もあります。

▼原稿料や講演料などに類似するが該当しないもの

  • 懸賞応募作品の選稿料又は審査料
  • 試験問題の出題料または答案の採点料
  • 手話通訳の報酬・料金
  • 字又は絵等の看板書き料 など

(国税庁「令和6年版 源泉徴収のあらまし『第5 報酬・料金等の源泉徴収事務』」より)

情報量が多いですが、これらを把握しておくことで、自身の報酬が源泉徴収の対象か否かを判断しやすくなります。

例えば、ウェブサイトのデザインは源泉徴収の対象ですが、ウェブサイトの制作のみであれば対象外となるなど、細かな違いがあります。このような細かな違いを理解することで、適切な税務処理を行えます。

源泉徴収の計算方法

個人事業主は基本的に「(源泉徴収を)される側」ではありますが、源泉徴収額を自身で計算しておくと、相手にとっても自分にとってもわかりやすくなります。また、従業員を雇っている、あるいは雇う予定の方もいるかと思いますが、その場合は自身で源泉徴収を行うため、正確に計算できる必要があります。

この章では、源泉徴収の計算方法について具体的なステップを紹介します。

給与所得の源泉徴収額の計算方法

1.所得税額表を確認する

まず、国税庁が発表している「給与所得の源泉徴収税額表」を使用します。この税額表は月額、日額、賞与などの支払い形態ごとに異なるため、適切なものを見つけて参照します。この際、税額表が最新のものか確認しましょう。

給与所得の源泉徴収税額表(令和6年分)

国税庁「給与所得の源泉徴収税額表

税額表は毎年最新のものに更新されますが、年によってほとんど変更点がなかったり、算出方法の変更や控除枠の新設といった変更がされていたりするので、注意が必要です。

2.支給額から控除額を差し引く

次に、支給額(給与や賞与)から、控除額を差し引きます。控除額には、社会保険料控除、扶養控除、基礎控除、医療費控除などがあり、扶養控除等申告書に基づいて計算し、支給額から差し引きます。

控除について詳しく知りたい方は、国税庁「No. 1100 所得控除のあらまし」を参照ください。

3.税額表に基づいて税額を決定する

控除後の金額が分かれば、税額表に基づいて源泉徴収税額を決定できます。

下記画像の右にある「以上」「未満」とある縦軸から自身の月額(控除額を除く)が該当する行を見つけます。次に、「甲」という横軸から、扶養者数を全て加えて計算した数字に該当する列を見つけます。該当する行と列が交わった箇所に示されている金額が、源泉徴収される額になります。

給与所得の源泉徴収税額表(令和6年分)

国税庁「給与所得の源泉徴収税額表

例えば、控除後の額が月30万円の単身世帯者の場合、画像青枠の「30万円」を含む金額がある行と、ピンク枠の「扶養親族等の数」の「1人」が交わるところにある「6,740円」が源泉徴収税額となります。

給与所得の源泉徴収税額表(令和6年分)

国税庁「給与所得の源泉徴収税額表

源泉徴収の納付方法

前の章で計算した源泉徴収税額は、その納税地の所轄税務署に納付する必要があります。国税庁によると、納税地は原則として、源泉徴収の対象とされている所得の支払う事務所や事業所等の、支払日における所在地とされています。この章では、4つの納付方法を説明します。

納付書を使用する方法

納付書は2種類あり、給与や退職金に関する源泉徴収税は「給与所得・退職所得等の所得税徴収高計算書」を、外注費などの報酬に関するものは「報酬・料金等の所得税徴収高計算書」を使用してください。

▼給与所得・退職所得等の所得税徴収高計算書

所得税徴収高計算書(一般用)

国税庁「給与所得・退職所得等の所得税徴収高計算書の様式及び記載要領

▼報酬・料金等の所得税徴収高計算書

報酬・料金等の所得税徴収高計算書

国税庁「報酬・料金等の所得税徴収高計算書の様式及び記載要領

納付書(一般用)は金融機関の窓口にも備え付けてありますが、在庫がない場合があるので、その際は所轄税務署へ連絡して入手してください。

納付書の提出場所は、金融機関もしくは税務署の窓口になります。

納付書の記載方法について詳しく知りたい方は、国税庁の「納付書の記載のしかた(給与所得・退職所得等の所得税徴収高計算書)」「納付書の記載のしかた(報酬・料金等の所得税徴収高計算書)」をご覧ください。

電子納税方法

国はキャッシュレス納付の推進を強化しており、PayPayなどのスマホアプリを利用した納付も可能になっています。

ダイレクト納付 e-Tax(国税電子申告・納税システム)により申告書等を提出した後、納税者自身名義の預貯金口座から、即時又は指定した期日に、口座引落しにより国税を電子納付する手続き。
インターネットバンキング インターネットバンキングやATM等により国税を電子納付する手続き。事前に税務署へe-Tax(国税電子申告・納税システム)の利用開始手続きを行う必要がある。
クレジットカード納付 インターネット上でのクレジットカード支払の機能を利用して、国税庁長官が指定した納付受託者(トヨタファイナンス株式会社)へ、国税の納付の立替払いを委託することにより国税を納付する手続き。
スマホアプリ納付 国税庁長官が指定した納付受託者(GMOペイメントゲートウェイ株式会社)が運営するスマートフォン決済専用のWebサイト(国税スマートフォン決済専用サイト)から、納税者が利用可能なPay払いを選択し、納付受託者に納付を委託する方法。

【参考】源泉徴収の対象期間と納付期限

源泉徴収の対象期間と納付期限

対象期間

源泉徴収の対象期間は1月1日~12月31日です。支払いが行われたタイミングベースによって期間が異なります。

納付期限

源泉徴収は毎月納付することになっています。期限は、給与などを支払った月の翌月10日までです。

もし期限までに納付しなかった場合、追徴課税が課せられるので注意が必要です。

ただ、特例として、従業員が常時10人未満の事業者は、半年分をまとめて納付することができます。この場合、1月から6月までの源泉徴収税額を7月10日までに、7月から12月までの税額を翌年1月10日までに納付することになります。

個人事業主が気になる、源泉徴収に関するQ&A

ここまで、源泉徴収の基礎知識から実際の計算・納付方法を解説しました。これまでの内容をふまえ、新たに個人事業主となった方の多くが気になる質問に回答します。

会社員の頃と何が違うのか知りたい

企業に勤めている会社員と個人事業主の違いは、確定申告の有無です。

会社員は企業単位で年末調整を行い、年間の税額の過不足を調整します。一方、個人事業主は企業で年末調整を行うことがないため、個人で確定申告をする必要があります。

従業員を雇うことになった

個人事業主であっても、自身の業務効率を上げるために、従業員を雇うケースもあります。以下に、雇用主が個人の場合で、注意が必要なケースについて取り上げました。

パートやアルバイトの源泉徴収

パートやアルバイトなど非正規の従業員でも、一般の社員と同様の手続きになります。「源泉徴収の計算方法」で説明している通り、「給与所得者の扶養控除等申告書」の提出の有無及び給与の支給方法に応じ、「給与所得の源泉徴収税額表」を使って求めます。

海外所得や外国人労働者に対する源泉徴収

昨今は日本人が海外で、あるいは外国人が日本で働くことも珍しくなくなってきました。以下は、そうしたケースの際に知っておくと良い、海外での所得や外国人労働者に関する源泉徴収についての規定です。

▼海外所得に対する源泉徴収

  • 非居住者=日本に住所を持たない個人、又は外国法人
  • 非居住者に対しては、日本国内で発生する所得に対して源泉徴収を行う必要がある

▼外国人労働者に対する源泉徴収

  • 居住者=1年以上日本に居住している個人。居住者の外国人労働者に対しては、他の日本人従業員と同様に源泉徴収が適用される
  • 非居住者=日本に住所を持たず、又は日本での滞在期間が1年未満の個人。非居住者の外国人労働者に対して支払われる給与などについても、源泉徴収が適用される。給与等を支払う都度、源泉徴収して完結する

源泉徴収が免除されることも

誰かを雇っているからといって、必ずしも源泉徴収をするとは限りません。個人が給与を支払う対象が、「常時2人以下の家事使用人のみ」である場合は、源泉徴収をする必要がありません。

自分で計算する時間がない!楽に対応する方法は?

給与の計算方法は、一度理解すれば個人でもできるものの、煩雑な作業であることに変わりありません。人の手で計算や確認をしていると時間がかかり、本業に集中できない、ということもありえます。そのような事態を防ぐためには、給与計算のためのツールを導入して効率化を図るという方法があります。

おすすめの計算ツールは、フリーウェイジャパンの「フリーウェイ給与計算」です。おすすめのポイントは導入の手軽さと料金です。クラウド型のソフトであるためダウンロードやインストールの必要性もなく、操作方法やデザインもシンプルで、気軽に導入できます。また、料金も従業員5人までは永久無料、それ以上でも月1,980円で定額という安さを誇っています。

まとめ|源泉徴収の仕組みや計算方法を理解して、ミスなく手続きしよう

源泉徴収は、給与を支払う側が受け取る側に納める前に、国に納める税額を計算し、それを差し引いて支払うことです。

個人事業主の場合、会社員同様自ら源泉徴収をする必要はありませんが、従業員を雇いたい場合や、自分の手取りを把握すること、後々の手続きの正確性・効率を考えると、自身で正確に計算できるに越したことはありません。また、個人事業主は確定申告も忘れないように注意して下さい。

源泉徴収は、国税庁が公開している源泉徴収税額表を参考にして計算します。納付方法も従来通りの書類を使ったものから、スマホアプリを使ったものまであります。

また、源泉徴収を含む給与の計算方法は煩雑であるため、給与計算ツールを使用すると、作業効率や仕事の生産性向上が期待できます。

よくある質問

Q1.源泉徴収とは?

源泉徴収とは、給与などの所得を支払う者が、所得を支払う際に所得税額を計算し、支払い金額から所得税を差し引いて国に納付する制度のことです。源泉徴収の対象とされている所得の支払者は、会社や協同組合はもちろん、学校、官公庁、個人、人格のない社団・財団など多岐に渡ります。

また、2024年1月から、電子帳簿保存法の改正により紙媒体の保存が不要になりました。

Q2.源泉徴収の計算方法は?

源泉徴収は、まず給与や賞与などの支給額から、社会保険料控除や扶養控除などの控除額を差し引いたものを算出します。控除額を差し引いた金額に該当する箇所を、国税庁が公開している「給与所得の源泉徴収税額表」を参照して、源泉徴収額を把握します。

このエントリーをはてなブックマークに追加

pagetop