やりがい搾取とは?解決策や具体例、原因など労働環境改善のポイントを解説

更新日:2024年08月30日
やりがい搾取

やりがい搾取は従業員のやる気や昇進意欲などを利用し、長時間労働や低賃金を慢性化させることです。やりがい搾取には意図的なものだけでなく、企業側が気づかない事例も存在します。

この記事では「やりがい搾取の具体例を知って改善につなげたい」という方向けに、やりがい搾取の具体例や改善策を解説します。

やりがい搾取とは

やりがい搾取は、企業が従業員の「仕事へのやる気ややりがい」を利用し、不当に長時間や低賃金で働かせる行為です。

例えば、「努力は将来の成長につながる」などの曖昧なスローガンを掲げ、対価に見合わない業務や課題を押しつける行為がやりがい搾取として挙げられます。基準に満たない従業員には「わが社の社風に合わない」などの理由をつけ、減給や解雇処分を言い渡すなど、その後のペナルティ付与もやりがい搾取に該当します。

やりがい搾取は大きく、無自覚なものと意図的なものに分けられますが、いずれも従業員の権利を侵害し、職場環境を悪くする意味で長らく問題視されています。

やりがい搾取の具体例

やりがい搾取は人それぞれで感じ方が異なるため、見過ごされがちな点も問題です。そこで本章では、やりがい搾取の具体例を解説します。

仕事量に対して給料が低い

業務量に見合わない給与水準はやりがい搾取の典型例です。はじめから人件費の削減や業務効率化を目的として低賃金を固定化している企業も少なくありません。

従業員が低すぎる給与に対して異議をとなえたとしても、「この程度の業務がこなせないのか」、「給与だけが仕事の意味ではない」、「辛いのは仕事に慣れていない今だけだ」など、曖昧な言葉を浴びせかけ、訴えを退けます。

試用期間や見習いという名目で低賃金のまま働かせる場合や、非正規社員に正社員と同じ仕事を低賃金で働かせる場合もやりがい搾取に含まれます。

もちろん、労働に見合った給与を要求することは従業員にとって当たり前の権利です。

金銭的対価の支払いがない

労働の正当な対価は、毎月の給与だけではありません。残業や休日手当、ボーナスなども労働の対価に含まれます。

しかし、やりがい搾取が行われている企業ではこれらの手当てが支給されないケースも珍しくありません。

また、労働時間は法律で定められており、法定労働時間を超えて働いた場合の割増賃金の支払いは、企業の義務です。しかし、固定残業代や変形労働時間制を理由にしたり、「従業員は企業に尽くすのが美徳」などのスローガンを掲げたりして、割増賃金を払わない企業が存在します。

有給休暇を取得できない

有給休暇の取得は労働基準法において定められた労働者の正当な権利ですが、やりがい搾取が慢性化している企業では認められないケースが多く、問題視されています。

有給休暇の取得条件

  • 取得が認められるまでの期間:入社6カ月以降
  • 取得に必要な出勤日数:6カ月のうち8割以上
  • 取得可能な日数:最大10日間

有給休暇を取得したくても、上司や同僚からの目に見えない圧力で休みを取れないことがあります。また、仕事への責任感やチームの一体感を理由に、有給休暇を取得することが難しいと感じる労働者も少なくありません。

基本的に有給休暇は理由を問わず利用できる休暇であり、企業側が拒否することは労働基準法に違反しています。

有給休暇についてのより具体的な解説は「年次有給休暇の取得義務の概要」をお読みください。

参加義務がないはずの業務・イベントに強制参加させられる

参加義務のない業務やイベントへの強制参加もやりがい搾取の一例として挙げられます。

やりがい搾取の一例

  • ボランティアや参加が任意とされている研修への参加を強要
  • 飲み会や食事会への参加の強要
  • 任意であるはずの休日出勤を強要

活動に参加しないと昇進を見送られたり、参加していないのに会費を徴収されたりといった、非常に悪質なケースもあります。

これらのペナルティも含めて、やりがい搾取の範囲です。

やりがい搾取が良くない理由

やりがい搾取は労働基準法に違反する悪質な行為です。

しかし、日本では企業に尽くすことが美徳とされたり、グローバル化の流れで継続的な成長が求められたりと、やりがい搾取が肯定されてしまう風潮が根づいています。

やりがい搾取が問題視されている本質的な理由を知ることで改善へのモチベーションにつながり、搾取の是正に向けた取り組みが加速します。また、具体的な事例と理由の把握は「無自覚のやりがい搾取」の再発防止にも有効です。

ここでは、やりがい搾取が問題視されている理由を解説します。

従業員の健康に悪影響を与える

やりがい搾取による長時間労働や過度な業務負担は、精神的にも身体的にも従業員の健康に深刻な悪影響を与えます。

例えば、過労やストレスによって健康問題が発生し、燃え尽き症候群になることがあります。燃え尽き症候群になると、働くこと自体が困難です。最悪の場合、過労やストレスが原因で心身の健康を損ない、過労死に至ることもあります。

厚生労働省が公表している「過労死等の労災補償状況(令和5年版)」によると、精神障害を理由とする労災補償の認定件数は883件(請求件数:3,575件)で、前年度比で見ると173件の増加です。なお、自殺につながるケースは支給決定ベースで79件となっており、前年度比では12件増加しています。

精神障害にともなう労災申請の場合、パワハラ・モラハラが理由のトップです。ただ、令和5年度だけで見ても請求件数に対する支給決定件数は約4%であり、労災認定のハードルの高さがうかがえます。

自殺の原因・動機別自殺者数の年次推移

厚生労働省|令和5年版過労死等防止対策白書

勤務実態と待遇の不一致

やりがい搾取は、従業員が正当な賃金を受け取れない状況を生み出します。従業員のやりがいを利用して、過剰な労働を強制し、働きに見合った給与や休暇を与えないことが理由で引き起こされます。

こうした行為は不公平な労働環境を助長し、法律に違反する可能性があります。

労働基準法36条

労働基準法36条 定められた内容
3項 労働時間を延長して労働させることができる時間は、業務量、通常考えられる時間外労働の範囲内において、限度時間を超えない時間に限る
4項 1ヶ月あたりの時間外労働の上限は45時間までで、1年あたりの時間外労働の上限は360時間以内

参考:e-Gov法令検索「労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)

実際に、社員に対し月100時間以上の時間外労働をさせた企業が、労働基準法違反に該当し、地方検察庁に書類送検されたことが過去にありました。以前にも労働基準監督署から是正勧告を2度受けており、悪質であると判断されたものです。

企業の持続可能性を損なう

従業員が過度な労働を強いられ、適切な報酬や休息を得られない状況は、従業員のモチベーションや健康に悪影響を与えます。

例えば、従業員のモチベーション低下や健康悪化は、離職数の増加に繋がり、生産性低下を招きます。特に、優秀な人材の流出は生産性低下に拍車をかけ、企業にとって痛手です。

労働環境が悪いと企業の評判が下がり、新しい人材を採用しにくくなる可能性があるため、人手不足につながります。

やりがい搾取に陥りやすい職場の特徴

やりがい搾取に陥りやすい職場にはいくつかの共通点があります。具体的な事例から共通点を把握することは、同様の事例を長期的に防ぐうえでも有効です。

ここでは、やりがい搾取に陥りやすい職場の特徴を解説します。

接客する業種

飲食店などの接客業では基本的にお客さんの要望が優先されます。そのため、従業員は「お客様のために」という思いから過剰な労働を受け入れてしまいがちです。

しかし、クレーム対応が長引くと、精神的ストレスが増大します。

一方で、保育・教育業界もやりがい搾取に陥りやすい業種です。保育・教育業界の仕事は授業だけではありません。対応業務は、事務作業や保護者対応など多岐にわたります。子供たちの成長や学習に直接関わる仕事のため、高い責任感を求められ、プレッシャーによるやりがい搾取が発生しやすい環境と言えるでしょう。

憧れとなることが多い業種

芸能界や漫画家、イラストレーターなど、華やかでクリエイティブな業種はやりがい搾取が慢性化しやすい業種の1つです。これらは基本的に好きで働く業種のため、働く側のモチベーションの高さが利用されます。

これらの業界では「作品を見てくれる人のために」という意識が強いため、キャパシティを無視した納期や業務量が押しつけられる場合も多く、やりがい搾取が放置されやすい環境にあります。

雇用体系が不安定

雇用が不安定な環境では、従業員が短期間で職を失う恐怖から、過剰な労働を受け入れやすく、結果としてやりがい搾取が慢性化します。

具体例としては、以下のような雇用体系や業界が挙げられます。

  • 業務委託や契約社員、フリーランス
  • 退職者がでたらすぐに働き手が集まる業界
  • 大量のアルバイトを採用する業界
  • モデルやタレントなどのマッチング業界
  • 福祉・介護業界

やりがい搾取になる原因と改善策

やりがい搾取の原因には共通項があります。やりがい搾取の事例をパターン別に分類し、原因を分析することで改善策の検討および実践が可能です。

ここからは、やりがい搾取の主な原因と改善策を解説します。

雇用主による人件費削減

人件費の削減はやりがい搾取の大きな原因です。悪質な企業は「労働こそが美徳」、「努力は成長への近道」など、中身のないスローガンのもとで無理な人件費削減を断行し、従わない従業員にはペナルティを与えます。

主な改善策は以下の通りです。

改善策

内容 ポイント
1.適切な人員配置
  • 必要な業務量に見合った適切な人数を配置する
  • 少人数で多くの業務を進めると、進捗が遅くなる可能性がある
  • 定期的に業務の優先順位や所要時間を分析し、改善すると効果的
2.賃金の見直し
  • 時間外や休日労働を適切に払う
  • サービス残業が常態化すると、勤務時間の正確な記録が難しくなる
  • タイムレコーダーを導入して計測することがオススメ
3.業務効率化の推進
  • 業務プロセスの見直しや自動化を導入して業務の効率化を図る
  • 業務に紙媒体を使用している場合(給与計算やタイムカードなど)、デジタル管理に切り替えることで、印刷にかかる時間や費用を削減できる

業界構造

そもそもの業界構造がやりがい搾取の慢性化を招いているケースも珍しくありません。

例えば漫画家や作家、イラストレーターなどクリエイティブな業界では、「好きなことを仕事にしているから給料が低くてもいい」という意識が働く側にも根づいているためやりがい搾取が放置されるか、搾取に気づかれない構図が生まれています。

主な改善策は以下の通りです。

改善策

内容 ポイント
1.労働条件の見直し 労働内容に見合った適切な待遇を提供する
2.教育と研修の実施 「やりたいことができるなら待遇が悪くても良い」という認識を改めてもらう
3.政府や業界団体の支援を活用する 会社に負担する余裕がない場合、従業員に不当な扱いが行なわれないために実施する

名ばかりの役職

やりがい搾取が慢性化している職場では、しばしば「名ばかり管理職」が置かれています。

「名ばかり管理職」とは、業務内容とポジションが合っていない管理職です。例えば、名目上は「制作部部長」とついているのに、実際の業務は非正規雇用とほとんど変わらなかったり、むしろ非正規雇用以上の業務量を押しつけられたりするケースが該当します。

企業側は管理職という魅力的なワードによって過重労働を巧みに覆い隠し、従業員に実態に見合わない努力を強いる点が問題です。

改善策

内容 ポイント
1.公平な評価制度の導入
  • 従業員の能力や成果や経験を客観的に評価できる制度を作る
  • 慣習ではなく明文化して組み込む
2.権限や待遇を労使ともに確認をする
  • 昇進した人が新しい役職の実態を理解していないと、名ばかりの管理職になることがある
  • 企業の規約や役職の役割、待遇を全員が把握するよう徹底する
3.ワンマン経営の防止
  • 代表や社長など1人の権限で、従業員の役職や待遇を決めないようにする
  • 企業内の仕事や人事の流れ・仕組みを全員が把握し、透明性を高める

精神的圧力

「こんな仕事もできないのか」、「長時間労働は努力の証」などの精神的圧力は、やりがい搾取の大きな原因です。従業員は過剰なプレッシャーを感じることで、不当な労働条件を受け入れてしまいます。従業員に「仕事の達成感」や「職場の一体感」を強調し、無理に働かせるのです。

例えば、「会社の成長のため」、「チームのために」という名目で長時間労働を求められれば、プレッシャーを受けた従業員は断りづらくなるでしょう。

過度なプレッシャーは理不尽な査定やペナルティとセットになり、やりがい搾取を引き起こします。

改善策

内容 ポイント
1.心理的安全性の確保
  • 従業員が自由に意見を言える環境を作り、なんでも相談しやすい雰囲気を作る
  • 例えば、匿名のアンケートや社内に相談窓口を設ける
  • 社内に窓口が作れない場合は、労働基準監督署や外部の相談機関の連絡先を周知させ、いつでも相談できるようにする
  • デスクに電話番号やチラシを置く、など
2.適切な労働時間管理をする
  • 労働時間をしっかり管理し、規定の労働時間を超えないように意識を変えます。
  • 例えば、規定の労働時間になったらチャイムを鳴らしたり、音声で知らせたりする
3.メンタルヘルスサポート
  • 定期的にメンタルヘルスチェックとカウンセリングを提供し、従業員の精神的健康をサポートする
  • 従業員が50人以上いる場合は、産業医を専任し、健康管理を行うことが義務付けられている
  • 健康診断のように数ヶ月から半年に一回と日程を決め実施する

いくつ当てはまる?やりがい搾取チェック

やりがい搾取のリスクは、簡単なチェック項目によって測定できます。

あてはまる項目が多かった場合、職場にはやりがい搾取がすでに慢性化している可能性があります。

現時点では該当項目が少なくても、やりがい搾取の防止方法をチェックしておきましょう。

やりがい搾取チェック表

労働時間を規制されない管理職(管理責任者)の勤務時間、内容を把握・周知していない
労使間で思ったことを率直に話しあえていない
社会保険に加入していない
みなし残業は当たり前
「雇われたことに恩義を感じているので、給与が上がらなかったとしても問題ありません」と話す従業員は、認識を改めさせなければと思う
従業員が給与や労働環境に対する不満を抱いていても、頑張ればいいと思う
全従業員の労働時間をきちんと把握していない
有給申請があった場合、業務が忙しい時期には取らせない
労使間での面談は行っていない
従業員は産業医や公的機関へ相談できることを知らない

やりがい搾取を防ぐための方法

やりがい搾取は、職場全体の継続的な取り組みによって防止できます。ここからは、やりがい搾取を防ぐうえで必要な措置について見ていきましょう。

適切な労務管理

やりがい搾取の防止には徹底した労務管理が必要です。従業員1人1人の労働時間を蓄積し、それに見合った賃金や手当が支払われているかどうかをチェックすることで、やりがい搾取の原因を取り除くことができます。

毎日の効率的な労務管理には、フリーウェイの勤怠管理システム「フリーウェイタイムレコーダー」がおすすめです。

フリーウェイタイムレコーダーの特徴

主な機能 クラウドシステムで従業員の勤怠管理を記録・共有
料金 従業員が10人以下の場合:永久無料
従業員が11人以上の場合:月額1,980円で定額

社内外に相談窓口を設置

従業員が安心して相談できる窓口を社内外に設置することで、やりがい搾取の防止につながります。

例えば、社内では人事部を中心に相談窓口を設け、中立な立場で現場の悩みやトラブルを蓄積することで、やりがい搾取の早期発見および早期対応が可能です。

また、社外では司法団体と連携して相談窓口を提供し、従業員が問題を報告しやすい環境を整えます。組織全体でやりがい搾取が問題となる場合は、公的機関や外部機関に相談窓口を移し、社員に周知することが効果的です。

メンタルケアの面では嘱託産業医によるサポート体制の強化も有効です。産業医は中立の立場のため、従業員側も悩みを相談しやすく、トラブルリスクの低減が図れます。

経営者と従業員の意識改革

やりがい搾取を防ぐには、経営者と従業員の意識改革が必要です。従業員側がどんなにやりがい搾取を立証し、改善を求めても経営者が問題意識を共有しなければ具体的な改善にはつながりません。

経営者自身が従業員の声に耳を傾け、労働環境の改善に努める姿勢を示すことで継続的なトラブル防止が可能です。

例えば、経営者が現場の状況を理解し、定期的に従業員と面談を行うことで、オープンで風通しの良い職場環境を作ることができるでしょう。

労務管理を整備しても、経営者と従業員の意識が変わらなければ、再び問題が起こる可能性があります。そのため、経営者と従業員の意識を継続的にアップデートする取り組みが必要です。

まとめ|「気づかぬうちのやりがい搾取」を防止しよう

やりがい搾取は従業員の勤労意欲勤労や出世への意欲を利用し、長時間労働や休日出勤など、無理な働き方を強制することです。モラハラやパワハラなど、わかりやすい搾取だけでなく、曖昧なスローガンや同調圧力によって休みを取りにくくする、などのパターンもやりがい搾取に含まれます。

「気づかぬうちのやりがい搾取」は、働く側が問題意識を持ち、上層部と共有することで改善可能です。やりがい搾取の原因や起こりやすいパターンを把握し、その芽を早い段階で摘んでおくことですべての従業員にとって安心して働きやすい環境作りにつながります。

「フリーウェイタイムレコーダー」などの勤怠管理システムを活用して長時間労働・違法な休日出勤をチェックしつつ、やりがい搾取が起きにくい環境を整えましょう。

よくある質問

Q1.やりがい搾取に関する法律はありますか?

労働基準法や労働安全衛生法などがやりがい搾取を防ぐための法的枠組みを提供しています。これらの法律に違反する場合、企業は罰則を受ける可能性があります。

Q2.やりがい搾取が発生しやすい企業文化は?

長時間労働が美徳とされたり、成果主義が極端に重視されたりする企業に発生しやすいです。

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