復職とは、休職や退職していた従業員が職場に復帰することです。厚生労働省の調査では、休職者がいる職場の割合は令和2年時点で「7.8%」でしたが、令和3年に「8.8%」へ増加しています。休職はどの職場でも起こりうるため、企業は万が一に備えて復職の支援方法などを把握しておくことが大切です。
今回の記事では、復職の定義や具体的な支援の流れ、復職可否の判断基準について解説します。
復職とは、何らかの理由で一定期間にわたり休職したり退職したりした従業員が、再び職場に戻って働くことです。休職や退職の理由としては、主に以下が挙げられます。
休職や退職の主な理由
厚生労働省が発表している「令和3年労働安全衛生調査(事業所調査)」によれば、令和2年11月1日から令和3年10月31日までの期間で「連続1ヶ月以上休業した従業員がいる事業所の割合」は、8.8%でした。令和2年の調査では7.8%であったことから、若干増加しているとわかります。
また、同調査では「メンタルヘルスの不調で連続1ヶ月以上休業した従業員の割合」が0.5%となっており、令和2年の調査から0.1%上昇しています。徐々にですが、メンタルヘルスの不調が原因による休職者は増加しつつあるといえるでしょう。
このように、休職や復職はどのような職場でも起こり得るものです。とくに従業員数が多い企業は母数が大きいため、必然的に休職や復職に対応する機会も増えるでしょう。
さらに近年では、健康経営(従業員の健康を守り将来的な企業の生産性向上につなげる考え方)や働き方改革の推進などによって、従業員が健康に働ける職場環境を整備する機運が高まっています。
上記を踏まえると、企業担当者は対応が必要になったケースを考え「復職に関する知識」を身につけておくことが重要です。
法令としては、企業に復職制度を設ける義務はありません。しかし今後、従業員の心身の不調や予期せぬ労災などによって、休職の申請が増える可能性はあります。万が一の事態に落ち着いて対応できるよう、あらかじめ就業規則などに復職制度を記載しておきましょう。
復職制度を事前に記載しておくことで、以下のようなメリット・デメリットがあります。
復職制度のメリットとして「採用コストの削減」が挙げられます。新規で人材を募集する場合、各媒体への掲載コストや選考など、企業に大きな負担がかかります。採用できたとしても、自社の風土に合わず早期退職するケースもあるでしょう。
復職の場合は、一度職場で働いていた人物が戻ってくるため、新規で人材を採用するよりコストや手間がかかりません。また、仕事の流れや企業風土も把握しているため、新規で人材を採用した際にありがちな「入社後のミスマッチ」も防げます。
さらに「休職しても戻れる」という情報を内外に発信することは、企業のイメージアップにつながるでしょう。従業員からすると、復職制度がセーフティーネットとして機能するため、安心して職場で働き続けられます。また、入社希望者に対しても「ここは従業員を大切にする会社だ」と好印象を与えられるでしょう。
一方、復職制度があることで、安易な退職者が増える可能性もゼロではありません。セーフティーネットとして復職制度が機能するのはよいことですが、制度目当てで安易に休職や退職されることは、企業としても避けたいところです。
また、復職制度が定着するまでは「ルールの社内周知」「就業規則の整備」など企業の負担が増えることも考えられます。
復職と似た言葉に「復帰」がありますが、両者に明確な意味の違いはありません。いずれの場合も「休職や退職から職場に復帰する」という意味合いで使われます。
ただし、厳密なニュアンスの違いを挙げるとすれば、それぞれ以下のように定義付けできるでしょう。
従業員が休職するケースとしては、心身の不調や育休、労災による怪我、関連企業への出向など、多くのものがあります。今回は、労働災害以外の「病気や怪我を理由に休職した際の復職支援」について確認していきましょう。
基本的には、従業員から職場の管理監督者へ「主治医による診断書(病気休業診断書)」が提出された段階から、休職期間が始まります。
職場の管理監督者は、診断書が提出された旨を人事労務管理スタッフなどに報告します。その後、人事労務管理スタッフが該当の従業員に対し、管理監督者を通して必要な情報提供や支援、手続きを行うという流れが一般的です。
参考:厚生労働省「eラーニングで学ぶ 15分でわかる職場復帰支援」をもとに筆者作成
具体的に従業員の復職を支援する際は、以下の流れを参考にしましょう。
復職支援の基本的な流れ
まずは、従業員から職場の管理監督者に対して「主治医による診断書(病気休業診断書)」が提出され、休職期間が始まります。
休職期間が始まった段階では、該当の従業員に対して「正しく情報共有を行う」という点が重要です。正しい情報提供が実施されなければ、従業員に対して「どんな保障を受けられるのか?」「どのくらい休職できるのか?」という疑問点を抱かせてしまいます。
従業員に対して共有すべき情報の例
まず休職期間が明けたら、企業から従業員に対して「復職の意思の有無」を確認しましょう。従業員に復職の意思がある場合は、主治医に「復職が可能であると認める旨」が記載された診断書を作成してもらい、職場に提出してもらいます。診断書には「復職にあたって職場が配慮すべきこと」が記されています。
ただし、診断書の内容はあくまでも主治医が「日常生活における回復度合い」を参考に記載しているものです。そのため「日常生活は問題ないが復職レベルには達していない」という可能性もあります。
上記の可能性を考慮して、企業の産業医などが現状の職場環境と照らし合わせ、復職への意見を述べることが重要です。具体的に産業医は、以下の観点で「復職が妥当か?」を精査します。
産業医の役割
復職判断を誤らないためには、主治医と産業医の連携が重要です。事前に従業員の了承を得たうえで診断書の提出前に、復職判断に必要な最小限の範囲において「復職制度に関する具体的な制度内容」「従業員の業務状況」などを共有しましょう。
復職にあたって具体的な職場復帰支援プランを作成しましょう。
復職支援プラン作成時の留意点
具体的な復職の可否判断については、以下の情報をもとに職場の産業保健スタッフや主治医などと協力して判断しましょう。
復職可否の判断基準の例
「復職が可能」と判断された場合、以下の項目を中心として職場復帰支援プランを作成しましょう。
職場復帰支援プランで必要な項目
作成時の参考になる資料として、厚生労働省がプランの作成例をWordファイル形式で掲載しています。また、意見書については厚生労働省が以下様式を用意しています。
引用:厚生労働省「メンタルヘルス対策における職場復帰支援」
上記の職場復帰支援プランを踏まえて、復職の最終決定を行いましょう。復職の決定にあたっては、以下のポイントを踏まえることが大切です。
復職決定時のポイント
復職の際は、就業上の環境整備や各種雇用契約など、さまざまな手続きが必要になります。従業員がスムーズに復職できるよう、主治医や産業医と連携をとりながら、万全の体制で迎え入れましょう。
「どのようなタイミングなら復職しても大丈夫か?」という点は、従業員の状況や職場の環境整備などによって異なるため、一概にはいえません。適切なタイミングで復職してもらうには、従業員や主治医との情報連携が重要になります。
メンタルヘルスの問題が原因による休職の場合、本人が大丈夫と思っていても、実際に就業してみると「フルタイム出勤は厳しい」「同じ部署では働きにくい」など問題が発生することもあるため、注意が必要です。まずは「お試しで週2日出勤する」などの対応を行い、完全復帰の時期を慎重に判断しましょう。
主治医の診断書も復職可否の判断材料として重要ですが、最終的な決定権は職場側にあるため、従業員と連携を図り最適なタイミングで復職できるよう配慮しましょう。
復職の可否を決める判断基準の例
復職の際は「慣れた職場へ復帰させる」ということが原則です。しかし、従業員の休職理由などによっては、配置転換や異動も必要になります。
例えば「部署内の人間関係が原因で心を病んだ」という場合、同じ職場に復帰させたところで、人間関係が変わらなければ再発するかもしれません。あるいは「高所作業中に落下して休職した」という場合、同じ高所作業が発生する部署に復職させるのは、あまり好ましくないでしょう。
上記を含めて、復職後は以下のような就業上の配慮を行うことが大切です。
就業上で配慮すべき項目例
項目例 | 詳細 |
---|---|
勤務時間 | 必要に応じて「短時間勤務」「時間外労働の制限」「交代勤務の制限」「フレックスタイムの導入」などを導入する |
勤務場所 | 「出張や転勤を避ける」など従業員への負担を減らす |
業務内容 | 「安全な軽作業に配置転換する」「危険業務への従事を制限する」などの配慮を行う |
その他 | 特別に考慮すべき事項があれば配慮する |
いずれの場合においても、従業員本人や主治医、管理監督者、人事担当者間で情報を共有し、状況に応じた最適な判断を下すことが必須です。
従業員の復職を円滑に支援するためには、以下の点に留意しましょう。
復職支援時の留意点
復職を支援する際は、従業員個人のプライバシーに配慮しましょう。
復職支援の際に活用する病状や就業上の配慮などの情報は、いずれも重大な個人情報です。とくにメンタルヘルスに関わる問題で休職した場合、従業員本人としても詳細を知られたくないでしょう。
上記のような背景があるため、従業員のプライバシーに関わる情報を扱う際は、以下のような点を守ることが大切です。
復職の際は組織全体でサポートする姿勢を整えましょう。
復職支援にあたっては、従業員のプライバシーを取り扱ったり綿密なフォローアップを実施したりすることが重要です。復職後の対応によって従業員の居心地の良さが変わるため、一部の担当者のみにフォローの負担を偏らせるべきではありません。
担当者ごと役割分担を行い、組織全体で従業員のフォロー体制を整備することが重要です。
役割分担の例
担当者 | 役割の例 |
---|---|
経営陣や担当役員 | 復職の最終判断を行う。 復職の最終判定を担う専門委員会を設置する。 |
管理監督者 | 現場で働く従業員の様子を注視する。 職場環境の改善に注力する。 |
人事担当者 | 配置転換や部署異動などで配慮する。 労働条件の改善に努める。 |
産業医や産業保健スタッフ | 従業員と面談を実施し定期的に状態を把握する。 主治医と連携して情報共有する。 従業員および管理監督者のケアを実施する。 |
復職したからといって、従業員もいきなり万全の体制で働けるわけではありません。しばらく様子を見ると「いきなりフルタイム出勤は厳しい」「以前ほどのパフォーマンスを発揮できない」という状態になる可能性もあります。
上記のようなリスクを考慮して、復職後も注意深く従業員への配慮を続けましょう。従業員へのフォローアップとしては、例えば以下が挙げられます。
従業員へのフォローアップ例
企業を経営するうえで、休職者が出る可能性は必ずあります。もしも休職者が出た場合は、復帰まで手厚くサポートし、復職後も継続的にフォローアップすることが大切です。復職した従業員を組織全体でフォローアップできれば、再び戦力として活躍することが期待できます。
復職には法的な策定義務はありません。しかし、従業員のセーフティーネットとして機能させるためにも、就業規則に盛り込むことを検討しましょう。
Q1.復職と復帰の違いはなんですか? |
両者に明確な意味の違いはありません。強いて言えば「復職→別の職場への再就職を含む」「復帰→元の職場に戻ることのみを指す」という違いがあります。 |
Q2.復職とはどういう意味ですか? |
復職とは、何らかの理由で一定期間にわたり休職したり退職したりした従業員が、再び職場に戻って働くことです。 |