臨検とは、 労働基準監督署(労基署)が「各企業が労働基準法を守っているか」を実際の書類やデータを参照しながら確かめる検査です。結果が悪い場合には最悪、 業務停止を命じられてしまうこともあります。
この記事では、労働基準監督署による立ち入り調査「臨検」の概要や実際の流れ、提出を求められやすい書類、改善指導を受けたときの影響などまで詳しく解説します。
という人事労務担当者が知っておくべき内容をまとめました。記事を通して、臨検がいつ訪れても大丈夫なように備えましょう。
臨検とは、各企業が労働基準法などを順守しているか確認するための労働基準監督署による検査です。臨検は労働基準法第101条1項を根拠として行われます。
臨検が行われる根拠 (労働基準法第101条1項)
労働基準監督官は、事業場、寄宿舎その他の附属建設物に臨検し、帳簿及び書類の提出を求め、又は使用者若しくは労働者に対して尋問を行うことができる。
臨検が行われる企業において、以下のチェックリストに1つでも該当する場合は何らかの処分がされる可能性が高いと考えられます。自社に当てはまる項目がないかどうか、まずは確認してみてください。
チェックリスト
なお、労働基準監督官は法律により、「強制的に会社に立ち入り調査する権限」が与えられています。そのため、企業は臨検を断ることができません。労働基準法120条において、労働基準監督官の臨検を妨げたり、虚偽の報告をしたりした場合は30万円以下の罰金が処されると定められています。
突然の臨検にも慌てずに対処するためにも、上記のチェックリストに当てはまっていないことをあらかじめ確認しておきましょう。
臨検は、検査が行われるタイミングに応じて定期監督、災害時監督、申告監督、再監督の4つの種類に分けられます。
定期監督 | 定期的 |
---|---|
災害時監督 | 労働災害が発生した時 |
申告監督 | 労働者の申告があった時 |
再監督 | 是正勧告があった時 |
臨検の中には問題が起きたとき場合以外に実施される定期監督もあるので、臨検が来たからといって「自社に問題があるのでは?」と焦る必要はありません。
臨検の種類によって、検査の内容や拘束時間が明確に異なるわけではないとされていますが、詳細な内容は企業によって異なり労基署も公開していないため、一概には言えません。臨検実施時は監察官の指示をよく聞き、従いましょう。特に、再監督の場合に不備があると、指摘されたにも関わらず是正されていないとみなされ、ペナルティが厳しくなる恐れがあります。
臨検のそれぞれの種類について詳しく見ていきましょう。
定期監督は、労働基準監督署が管轄の企業に対して定期的に実施する臨検であり、自社に労働者からの申告や労働災害が発生していない場合でも対象となります。
厚生労働省の年度計画に基づいて実行される定期監督は、およそ月10回程度の頻度で行われています。「令和2年の労働基準監督年報」によれば、全国で2%の企業が定期監督を受けていることが明らかになっています。
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労働災害などを起こしていない企業であっても、臨検は予告なく行われる可能性があります。臨検では勤務実態の確認が行われるため、日頃の勤怠管理が重要です。
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災害時監督は、災害調査を実施するケースに該当しない一定以上の労働災害が発生した企業に対して行われる臨検です。主に労働災害の原因の解明や再発防止が目的です。
そのため、労働基準監督官が企業から提出された私傷病報告や労災の請求書などから、事故の発生原因に法令違反がありそうなものをピックアップして臨検を実施します。
労働災害の例
申告監督は、労働者から申告を受けた場合に実施される可能性のある臨検です。定期監督と異なる点として、労働者の申告と照らし合わせた審議による確認が挙げられます。
また、申告監督には以下の2種類の実施方法があります。
再監督は2回目以降の臨検のことです。すでに是正勧告されている企業で、以下のどちらかに該当した企業に対して行われます。
このように臨検には4つの種類がありますが、どの種類であっても臨検の大きな流れは同じです。
臨検は、必ずしも労働災害を起こした企業のみに対して行われるものではなく、また、年に1度必ず行われるなどのように予測可能なものではありません。そのため、突然臨検が行われても慌てないよう、事前にステップを確認しておきましょう。臨検の流れは、通常、以下の4ステップに分けられます。
予告、立ち入り調査、結果報告、報告書の提出、それぞれの内容について詳しく説明します。
臨検は、予告なしに突然やって来ることがほとんどです。事前に予告することによって企業のありのままの状態を確認することが出来なくなる、という事態を避けるためです。
ただし、予告してから来訪がある場合もあります。予告がある場合は、電話やFAXで調査予定日や準備しておく帳簿や書類などを通達されます。もし書類が足りない場合でも虚偽の報告はせず、落ち着いて対応することが重要です。
臨検当日は、労働基準監督官が通常2名でやって来ます。監督官は、自己の身分を明らかにして訪問の目的を告げ、責任者への面会を要求します。
労働基準法と労働安全衛生法に関する書類の確認がメインになるため、対応者としては、書類の内容を把握している総務人事の担当者が良いでしょう。
監督官が調査の内容や事業内容、違反の可能性などのさまざまな要素を勘案して行うため、決まりがあるわけではありませんが、通常、臨検の調査は以下のような手順で行われることが多いようです。
調査の手順
なお、調査は通常2~3時間で終了します。
臨検でよく提出される書類については、後の「臨検で提出を求められやすい書類」の章で詳しく説明しますので、合わせてご参照ください。
監察官より、労働基準法違反があったかどうか結果報告が行われます。指摘がある場合は、立ち入り調査を行った日に口頭での改善指示が出されることが多いようですが、問題点が重大だった場合には書面での指導が行われることもあります。
書面での指導の場合は、「指導票」「是正勧告書」「使用停止等命令書」のいずれかが用いられます。是正勧告書と使用停止等命令書は、法律違反の事項がある場合に提示されるもので、使用停止等命令書は労働者に急迫した危険がある場合などに使用されるものです。
是正勧告書、指導票、使用停止等命令書のそれぞれの違いについては、「労基署からの改善指導」の章で詳しく解説します。
指導票または是正勧告書が交付された場合は、指示通りに問題点を解決したことを伝える報告書を提出します。報告書には以下の項目の記載が必要です。
報告書に記載すべき項目
是正報告書および指導票の報告様式は、労働基準監督署から指定される場合がほとんどです。是正・改善報告書様式(厚生労働省 鳥取労働局)を確認しておくとイメージしやすくなるでしょう。
なお、企業がなんらかの理由で臨検を受け、是正勧告を受けた場合でも、実は法的な法則力はありません。しかし、労働基準監督署は逮捕・送検の権限を持つ司法警察官としても機能するため、 放置すると書類送検などの法的措置を取られる可能性 があります。指導票または是正勧告書が交付されたら、内容を確認して必要な対応を行い、ただちに報告書を提出しましょう。
臨検は「労働基準法の遵守」と「労働安全衛生法の遵守」を確認する調査であるため、以下の書類が求められる可能性があります。特に提出を求められやすい8つの書類は太字で記載しています。
労働基準法の遵守を確認するために求められやすい書類
労働安全衛生法の遵守確認するために求められやすい書類
これらの書類がきちんと管理されており、労働基準法や労働安全衛生法の規則を満たしていれば、臨検で指導を受けることはほとんどないと言えます。
厚生労働省労働基準局の「令和2年の労働基準監督年報」によれば、定期監督を実施した事業所の69.1%が法違反をしており、なんらかの是正・改善が求められていることが明らかになっています。業種や従業員数に関わらずどの企業であっても改善指導を受ける可能性があり、指導を受けた場合には対応することが必要です。
改善指導と一口に言っても、問題の重大さによって指導のレベルが変化します。改善指導の深刻度が低いものから順に、労基署からの改善指導ケースを4つ紹介します。
立ち入り調査を行った日に、口頭での改善指示が出されることがあります。後日、書類による指導がない場合はこのケースに当てはまります。口頭での改善指導の場合は、行政指導ではありませんが、改善して今後の臨検に備える必要があります。
指導票の交付は、法令違反ではないものの改善すべき事項がある場合に行われる行政指導です。
指導票の効力は是正勧告書より弱いとはいえ、労働者にとって望ましくない労働環境であることが指摘されていることに変わりありません。労働法令に対する違反とまではいえないものの、改善することが望ましい事項が書かれたものなので、指導票で指摘された内容の改善に努めましょう。
労働時間が労働基準法または労使協定の規定を超えるなどの、法律違反の事項がある場合は是正勧告書が提示されます。
是正勧告書に従わなかったとしても罰金等はありませんが、行政指導の段階でも労働局より労働基準関係法令違反に係る公表事案として企業名が公表されるため、企業のブランドや評判に影響を及ぼす可能性があります。
安全衛生基準に違反しているなど、労働者に急迫した危険がある場合に使用停止等命令書が交付されます。使用停止命令書を受け取る際は、以下を記載し、捺印した上で受け取ります。
使用停止等命令書が交付されると、業務で使用している機械が使えなくなったり、工場停止を命じられたり、働き方の変更が余儀なくされたりなどして、 業務に大きな影響が出るケースがほとんどです。
使用停止等命令書には行政処分の法的拘束力があります。従わなかった場合は6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金が科されます。さらに重大・悪質な法律違反と判断されると、書類送検などの法的制裁の可能性も生じます。
労働者の労働環境を整えるためにも、臨検のことをきちんと知って備えましょう。
労基署から改善指導を受けることで、未払賃金の計算や残業時間の見直しといった膨大な業務が、突如として降りかかってくることも予測されます。 最悪のケースを避けるためには、なにより日頃から労働基準法を遵守する心がけ、そして急な来訪にも慌てないよう各種データや書類が整理されていることが大切です。もし万が一、違反してしまった場合には早急に対応することを心掛けましょう。
臨検でも安心|導入しやすい勤怠管理システム「フリーウェイタイムレコーダー」
労働災害などを起こしていない企業であっても、定期監督などの臨検は予告なく行われる可能性があります。臨検では勤務実態の確認が行われるため、日頃の勤怠管理が重要です。
従業員の煩雑な勤怠管理を効率化するには、運用しやすく管理もしやすい勤怠管理システムの導入がおすすめです。PC・スマホ・ICカードなどで簡単に打刻ができるため、管理の工数を省きながら正確な勤怠状況を記録できます。
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Q1.臨検とはどういったものなのでしょうか? |
臨検は労働基準監督署の立ち入り調査のことです。 各企業が労働基準法などを順守しているか確認するために行われます。 詳しくは「臨検とは、各企業が労働基準法を守っているかの労基署による検査」の章をご覧ください。 |
Q2.臨検はどんな流れで行われるのでしょうか? |
予告、立ち入り調査、結果報告、報告書の提出の4つのステップで行われています。 ただし、予告なしに行われることもあります。突然臨検が行われても慌てないよう、事前にステップを確認しておきましょう。 各ステップの詳細は、「臨検の流れ」の章をご覧下さい。 |
Q3.指導票・改善勧告書・使用停止等命令書のどの処分が重いのでしょうか? |
指導票、改善勧告書、使用停止等命令書の順に処分の程度が深刻になっていきます。 詳しくは「労基署からの改善指導」の章をご覧ください。 |
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