社会保険の電子申請の義務化対象企業は?手続き一覧や具体的なやり方などを解説

更新日:2023年03月15日
社会保険の電子申請の行い方

2020年4月から、特定の条件に該当する企業では「社会保険の電子申請」が義務付けられています。現状(2025年2月時点)では、違反しても罰則はありません。しかし、電子申請によって従業員の負担を軽減したりコストを削減したりできるため、可能な限り早めに対応してください。また、義務化の対象外企業でも電子申請は実行できるため、業務効率化の観点からも導入することがオススメです。

本記事では、社会保険の電子申請の義務化対象企業の要件や対象となっている手続き、具体的な切り替えメリットなどを解説します。

対象企業では2020年から「社会保険・労働保険手続きの電子申請」が義務化

行政の手続きコスト削減やペーパーレス化の促進、業務効率化の実現などを目的に、2020年4月から特定の法人が社会保険・労働保険手続きを行う際は「原則として電子申請を使うこと」が義務化されました。

被保険者報酬月額算定基礎届や被保険者資格取得届、育児休業給付支給申請といった多くの手続きで電子申請が義務付けられています。企業は対象の手続きをチェックし、必要に応じて対応できる体制を整えてください。

電子申請が義務化されている対象企業

電子申請が義務化された対象企業は、以下の4種類です。

  • 資本金、出資金または銀行等保有株式取得機構に納付する拠出金の額が1億円を超える法人
  • 相互会社
  • 投資法人
  • 特定目的会社

資本金、出資金または銀行等保有株式取得機構に納付する拠出金の額が1億円を超える法人

以下3つのうち、いずれかが1億円を超える企業は、電子申請の義務化対象です。

  • 資本金
  • 出資金
  • 銀行等保有株式取得機構に納付する拠出金の額

大企業だけでなく、業種によっては中小企業が上記の要件を満たすケースもあるため注意してください。例えば製造業の場合、資本金額が3億円以下であれば中小企業と定義付けられます。そのため「資本金額が2億円」であれば、中小企業でありながら電子申請の義務化対象です。企業の規模が小さいから対象外ということではないため、注意してください。

参照:中小企業庁|中小企業・小規模企業者の定義

相互会社

相互会社とは、保険業法において保険会社のみに設立が許可されている企業形態のことです。株式会社のような株主は存在せず、保険の契約者個人が組織の従業員として構成されています。

参照:第一生命|相互会社と株式会社(そうごがいしゃとかぶしきがいしゃ)

投資法人

投資法人とは、投信法に基づき設立された社団法人のことです。投資家から集めた出資金を特定の資産(事業所用不動産など)へ投資し、運用することを目的に運営されています。

参照:国税庁|投資法人の概要

特定目的会社

特定目的会社とは、資産の流動化に関する法律に基づき設立された企業のことです。「不動産の証券化(分割が難しい資産を小口化して利益分配できるようにする)」といった特定の目的を達成するために運営します。従業員がいないケースも多く、目的を達成したら解散することが一般的です。

参照:三井住友トラスト不動産|特定目的会社

電子申請義務化の対象となっている手続き一覧

電子申請の対象となる手続きは、以下のように大きく「健康保険および厚生年金保険・労働保険・雇用保険」の3つに分けられます。

各種手続きの概要および公式サイトへのリンクをまとめているため、参考にしてください。

電子申請の義務化対象手続き 概要 詳細
健康保険 および 厚生年金保険 被保険者報酬月額算定基礎届 7月1日時点における全従業員の3ヶ月間(4〜6月)の報酬月額をまとめた書類 リンク
被保険者報酬月額変更届 従業員の給料が昇給などによって大幅に変更された際に届け出る書類 リンク
被保険者賞与支払届 企業が従業員へ賞与を支払った際に届け出る書類 リンク
労働保険 継続事業を行う企業が提出する「年度更新に関する申告書」 「新年度の概算保険料を納付する申告・納付」「前年度の保険料を精算する確定保険料の申告・納付」の手続きで提出する書類 リンク
継続事業を行う企業が提出する「増加概算保険料申告書」 事業規模の拡大などによって、年度中途で給料総額の見込み額が、当初より一定以上増加した場合に提出する書類 リンク
雇用保険 被保険者資格取得届 従業員を採用し、健康保険および厚生年金保険に加入する際に提出する書類 リンク
被保険者資格喪失届 従業員の退職や死亡によって、健康保険および厚生年金保険の資格を喪失した際に提出する書類 リンク
被保険者転勤届 従業員が転勤する際にハローワークへ提出する書類 リンク
高年齢雇用継続給付支給申請 高年齢雇用継続給付金を受給する際に提出する書類 リンク
育児休業給付支給申請 育児休業給付金を受給する際に提出する書類 リンク

参照:厚生労働省|2020年4月から特定の法人について電子申請が義務化されます。

義務化の対象ではないが電子申請できる手続き一覧

以下の手続きは、電子申請義務化の対象ではありません(2025年2月時点)。しかし、任意での電子申請は可能です。ペーパーレス化や業務効率化を実現できるよう、対象以外の手続きも電子申請できないか、ぜひ検討してください。

以下では代表的な手続きをピックアップしました。その他の電子申請が可能な手続きについては、「日本年金機構|国民年金」「日本年金機構|厚生年金保険」にまとめられています。

電子申請が可能な手続き 概要 詳細
国民年金資格取得届に関する申請 国民年金被保険者関係届書(申出書) 退職したり配偶者の扶養から外れたりなど、国民年金の届出が必要な際に提出する書類 リンク
付加保険料に関する申請 国民年金付加保険料納付申出書 付加保険料を納付したい場合に提出する書類 リンク
産前産後免除に関する申請 国民年金保険料の産前産後免除該当届 出産予定月、あるいは出産月の前月から4ヶ月間、国民年金保険料を免除する際に提出する書類 リンク
国民年金保険料免除・納付猶予に関する申請 国民年金保険料免除・納付猶予申請書 失業したり所得が少なかったりなどの理由で、国民年金保険料を納付できない場合に、免除や納付猶予を申請するための書類 リンク
国民年金保険料学生納付特例に関する申請 国民年金保険料学生納付特例申請書 国民年金保険料を納付できない学生が、納付の猶予を申請するための書類 リンク
口座振替納付に関する申請 口座振替納付(変更)申出書兼還付金振込方法(変更)申出書 国民年金保険料を口座振替で納付する際に提出する書類 リンク

社会保険の電子申請の具体的なやり方

電子申請の具体的なやり方としては、主に以下の3つが挙げられます。

  • e-Govを利用する
  • 社会保険・税手続申請APIの対応サービスを利用する
  • 日本年金機構の届書作成プログラムを利用する

自社のリソースや電子申請への慣れ具合などを考慮し、一番やりやすい方法を選んでください。

e-Govを利用する

e-Govとは、各種行政手続きの電子申請や行政文書ファイルの管理、行政機関が公表しているデータの検索などを実施できる専用のポータルサイトのことです。役所の窓口の時間に関わらず、いつでも利用できます。

基本的な電子申請の流れは、以下の画像の通りです。

電子申請の流れ

e-Gov電子申請を利用する際は、以下3種類のうち、いずれかのアカウントを使ってください。

e-Govアカウント

e-Govサービス共通で利用できるアカウントのことです。利用規約を確認したうえで、ヘルプページから登録方法をチェックしてください。
GビズID

1つのID・パスワードで、さまざまな法人向け行政サービスにログインできるサービスのことです。有効期限は設定されておらず、年度更新の必要もありません。注意事項を確認したうえで、管理画面よりIDを作成してください。
Microsoftアカウント

Microsoftアカウントからログインできる方法です。

「電子申請以外でもe-Govのサービスを利用している」「Microsoftをすでに使っているのでMicrosoftアカウントでログインする」など、自社の使い勝手やニーズに合わせてアカウントを作成することが大切です。

具体的な利用方法は「e-Gov|電子申請について」をご確認ください。

社会保険・税手続申請APIの対応サービスを利用する

API申請とは、「API」という仕組みを活用し、異なるシステムやソフトウェア同士を連携できるよう申請することを指します。API連携を行うことで、例えば「給与管理システムの情報をインポートして申請書類を自動で作成する」「書類作成〜提出までの進捗を既存の人事システム上で一括管理する」などを実現できます。

日々の業務で使うシステムから社会保険の電子申請を管理できるため、新しいアプリをインストールしたり、手続き方法を調べ直したりする必要がありません。

マイナポータルAPIのサービス一覧」では、API連携を活用した社会保険の電子申請対応システムを公開しています。自社で利用しているシステムがないか、ぜひチェックしてください。

システムによって電子申請方法が異なるため、詳しい手続き方法は、各APIソフトの提供元へ確認してください。

日本年金機構の届書作成プログラムを利用する

届書作成プログラムとは、電子申請に必要な書類を手軽に作成できるプログラムのことです。以下の書類の電子申請に対応しています。

  • 資格取得届
  • 資格喪失届
  • 算定基礎届
  • 月額変更届
  • 賞与支払届
  • 被扶養者(異動)届
  • 国民年金第3号被保険者関係届

マイナンバーカード、あるいはGビズIDが必要なため、事前に準備してください。

プログラムのダウンロードや操作方法のチェックなどは、「日本年金機構|電子申請(届書作成プログラム)」で確認できます。

義務化対象外の企業が電子申請を行うメリット

義務化対象外の企業の場合、電子申請を実施しなくても問題ありません。しかし、電子申請には以下のメリットがあるため、対象外の企業でも積極的に活用することがオススメです。

  • いつでも手軽に申請できる
  • 事務処理の手間を削減し従業員の負担を軽くできる
  • コスト削減につなげられる
  • 情報漏洩リスクを軽減できる

いつでも手軽に申請できる

社会保険の申請を書類で行う場合、「専用の窓口まで出向く」「郵送する」のいずれかを行うことが一般的です。窓口で申請する場合は、官公庁の営業時間に合わせる必要があるため、なかなかスケジュール調整が難しいケースもあります。郵送についても、封筒や切手を準備し手書きで書類を作成しなければならず、手軽には申請できません。

電子を活用すれば、官公庁の営業時間に関わらず24時間365日いつでも申請できます。わざわざスケジュール調整をせずとも、普段の業務の片手間で行える点が魅力です。

事務処理の手間を削減し従業員の負担を軽くできる

窓口での申請や郵送の場合、従業員に以下のような事務処理の手間が多く発生します。

  • 書類を手書きで作成する
  • 書類を印刷してチェックする
  • 書き損じや誤字脱字を修正する
  • 窓口や郵便局まで出向く
  • 場所を設けて申請書類を保管し管理する

もちろん大切な仕事ではあるのですが、普段のコア業務にこうした事務処理が加わると、従業員の負担は膨らみます。対策を行わなければ、徐々に従業員の働きやすさが低下し、職場への満足度低下を招くかもしれません。

電子申請であれば、窓口へ出向いたりミスした書類を0から修正したりする手間を省いて、従業員の負担を軽減できます。申請方法に慣れるまでは、多少時間はかかるかもしれません。とはいえ、長期的な業務負担の軽減を考慮すると、なるべく電子申請に切り替えることがオススメです。

コスト削減につなげられる

電子申請であれば、紙の書類提出にかかっていた以下のようなコストを削減できます。

  • 封筒代
  • 郵送代
  • 切手代
  • 窓口や郵便局までの交通費やガソリン代
  • 紙代
  • 印刷代

1回の金額は小さいかもしれません。しかし、何年も積み重なると大きなコストとなって企業にのしかかります。とくに、今後従業員数の拡大を考えている中小企業の場合、できるだけコスト負担は抑えたいはずです。電子申請であれば、企業の規模が大きくなっても必要なコストはほとんど変わりません。

情報漏洩リスクを軽減できる

紙で申請書類を保管している場合、以下のような情報漏洩リスクが発生するかもしれません。

  • 持ち帰りできない書類を担当者がこっそり持ち帰ってしまう
  • 乱雑に管理して社内で書類を紛失する
  • 個人情報がわかる状態で廃棄してしまう

書類を紛失すれば、社会保険に関する申請が滞るだけでなく、従業員からの信頼を失うかもしれません。

電子申請であれば、専用のセキュリティ体制が構築されたシステムにデータを保管できるため、紙で管理するより安心です。とくにAPI連携できる外部システムの中には、「指定ユーザーしかログインできない」「アクセス権限を柔軟に設定できる」といったツールもあるため、情報漏洩リスクを大幅に下げられます。

電子申請の際に確認しておくべきポイント

電子申請を行う際は、必ず以下のポイントを確認してください。

  • 「電子証明書が必要か?」を確認する
  • 電子申請で必要なアカウントを準備しておく
  • 義務化の対象企業でも「電子申請しなくてよいケース」がある

「電子証明書が必要か?」を確認する

電子申請する社会保険の種類によっては、GビズIDではなく「電子証明書」が必要なケースもあるため注意してください。

電子証明書とは、オンライン申請における印鑑証明書に該当するものです。身分証明書として扱われており、「データが原本である」「改変されていない」ということを証明できます。電子証明書の取得方法は「総務省|電子証明書取得のご案内」をご確認ください。

電子証明書でなければ申請できない手続きについては「日本年金機構|電子申請対象申請書等一覧」にまとめられています。

電子申請で必要なアカウントを準備しておく

先述の通り、電子申請方法ごとにアカウントが必要なケースもあるため、事前に確認し準備してください。

電子申請方法 必要なアカウント
e-Govを利用する
  • e-Govアカウント
  • GビズID
  • Microsoftアカウント
社会保険・税手続申請APIの対応サービスを利用する 連携済みシステムのアカウント
日本年金機構の届書作成プログラムを利用する
  • マイナンバーカード
  • GビズID

とくにGビズIDは、郵送で申し込む場合は発行までに約1週間かかるケースもあります。電子申請の時期に慌てないよう、早めにアカウントを準備するよう心がけてください。

義務化の対象企業でも「電子申請しなくてよいケース」がある

義務化対象の企業であっても、以下に該当する場合は電子申請以外の方法で手続きできます。

  • 電気通信回線の故障や災害などによって、電子申請の実施が困難である
  • 労働保険関係⼿続であり、かつ「労働保険事務組合に労働保険事務が委託されている」「単独有期事業を⾏う」「年度途中に保険関係が成⽴した事業において成⽴日から50日以内に申告書を提出する」に該当している

参照:厚生労働省|2020年4⽉から特定の法人について電子申請が義務化されます。

まとめ|義務化対象外の企業も含め社会保険の電子申請によって業務効率化を実現しよう

以下の条件に該当する企業では、社会保険の電子申請が義務付けられています。

  • 資本金、出資金または銀行等保有株式取得機構に納付する拠出金の額が1億円を超える法人
  • 相互会社
  • 投資法人
  • 特定目的会社

被保険者報酬月額算定基礎届や育児休業給付支給申請など、従業員に大きく関わる手続きで電子申請が義務付けられているため、企業の担当者はミスなく手続きできるよう必ず確認してください。電子方法を行う際は、e-Govや日本年金機構の届書作成プログラムなどを活用できます。

義務化対象外の企業であっても、任意で電子申請を行うことは問題ありません。むしろ、事務処理の手間を削減しコスト削減につなげられる可能性があるため、積極的に活用することがオススメです。

よくある質問

Q1.義務化対象企業にも関わらず電子申請を行わない場合、罰則はあるのか?

現時点で法律上の罰則はありません。しかし、申請が受理されない可能性があります。こうしたリスクや利便性を考慮すると、義務化対象の企業であれば、電子申請への体制を整えるべきです。

Q2.義務化対象外の企業だが、電子申請に切り替えるべきか?

紙での申請に比べて、電子申請はコストカットやミス防止などの効果を期待できます。そのため、義務化対象外の企業であっても、電子申請への切り替えがオススメです。また、もし電子申請義務化の対象企業が拡大されたとしても、あらかじめ切り替えておけば、社内での大きな混乱を防げます。

Q3.社会保険の電子申請はいつから義務化されている?

社会保険の電子申請は「2020年4月から」義務化されています。現時点(2025年2月時点)で違反時の罰則はありませんが、すでに義務化から年数が経過しているため、早めに対応すべきです。

Q4.社会保険の電子申請のやり方は?

電子申請の具体的なやり方としては、以下の3つが挙げられます。

  • e-Govを利用する
  • 社会保険・税手続申請APIの対応サービスを利用する
  • 日本年金機構の届書作成プログラムを利用する

自社のリソースや利用中のアカウントなどを考慮し、一番使いやすい方法を選択してください。

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