通勤手当の計算方法は、従業員の通勤手段に応じて異なります。さらに非課税限度額も「公共交通機関の場合は1ヶ月15万円まで」というように定められています。
通勤手当は企業が独自で支給できるため、支払う場合はこうした計算方法や非課税限度額の違いを把握し、ルールを設定することが重要です。
今回の記事では、各交通手段の通勤手当の計算方法や非課税限度額、算出する際の注意点などについて解説します。
目次
通勤手当の計算方法は、以下のように交通手段によって異なります。
各交通機関における通勤定期券運賃を支給することが一般的です。「自宅から勤務地までの最適な経路にかかる運賃」の合計額を支給します。「1ヶ月・3ヶ月・6ヶ月」のうち、どの期間で定期券を購入するかは企業の就業規則で定めてください。
定期券ではなく回数券を購入した場合は、以下で計算します。
(回数券1冊分の料金×1ヶ月あたりの所要枚数)÷回数券の綴り枚数
「出社日数が少ないので実費で支払う」といった場合は、以下で計算することが一般的です。
(片道運賃×2)×出勤日数
自動車の通勤手当の主な計算方法は、以下の2つです。
勤務日数は以下の式で計算してください。
(365日-所定休日数)÷ 12ヶ月
ガソリン単価および燃費は、以下を参照して決めることが一般的です。
自転車通勤の場合は、就業規則に別途定めた規定に従って支給します。自動車やバイクと同様に、距離に応じて通勤手当を支給することが一般的です。
タクシー通勤に対し、手当を支給する企業はほとんどありません。もし支給する場合も、以下のような緊急事態で利用した際に「実費で精算すること」が一般的です。
通勤手当とは、企業が支給する「従業員の通勤に必要な費用」のことです。従業員の自宅から勤務先までの費用を、実費で負担します。引っ越しなどがない限り毎月同じ金額になるため、給与と合わせて支払うことが一般的です。
企業が用意している手当には、通勤手当以外にも複数の種類があります。手当の種類によって「課税されるもの」「非課税のもの」というパターンが異なるため、企業の担当者は必ずチェックしてください。
課税対象となる手当の例 | 非課税対象となる手当の例 |
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通勤手当と似た言葉に、「交通費」があります。交通費とは、従業員が営業や出張を目的として移動した際に発生する費用のことです。通勤手当と異なり、毎月の移動量や距離によって金額が変動します。金額が変動するため、まずは従業員が立て替えておき、あとから精算する方法が一般的です。
通勤手当と交通費は、両方とも出勤や業務で必要な移動に対して発生している性質上、単なる実費の補填に過ぎません。実費を補填しているだけであり「従業員の純粋な所得」ではないため、非課税扱いとなります。
ただし、通勤手当を含め非課税対象となっている手当も「全額が際限なく非課税」というわけではありません。例えば「公共交通機関を使う際の通勤手当は1ヶ月に15万円まで非課税」「宿日直手当は4,000円まで非課税」「あまりにも高額な出張費用は課税対象」など、いくつかルールがあります。
通勤手当は福利厚生の一種であるため、法律上は支給が義務付けられていません。そのため、各企業が独自で支給ルールを決めることができます。
支給ルールを決める際は、通勤手当に設定されている「1ヶ月あたりの非課税限度額」を考慮することが一般的です。1ヶ月の非課税限度額以上を通勤手当として支給すると、従業員の所得税負担が増えてしまうため、上回らないように設定してください。
通勤手当のルールを定める際に必要な項目として、例えば以下が挙げられます。
支給ルールが決定したら、就業規則に記載してください。就業規則に記載しておくと、従業員との認識ズレによるトラブルを防止できます。
通勤手当の支給に伴い、就業規則の変更が必要な場合は「【2023年4月法改正】就業規則の見直しチェックリストと変更時の5ステップ」を参考にしてください。
企業が通勤手当の支給ルールを決める際は、以下のポイントを意識してください。
通勤手当は、全額が無制限に非課税となるわけではありません。交通手段に応じて、「公共交通機関は15万円まで」「自動車は片道2km以上10km未満なら4,200円まで」など、1ヶ月あたりの非課税限度額が決まっているため、支給金額を決定する際の参考にしてください。
交通手段別の具体的な非課税限度額については「【通勤手段別】通勤手当の非課税限度額ルールと計算方法」の章で解説しています。
通勤手当を支給する際は、就業規則に以下のような規定を記載しておいてください。
具体的に記載しておけば、認識ズレによるトラブルを防止できます。また、従業員自身で「自分はいくらまで支給されるか」「いつもの通勤手段で問題ないか」などを考えられるため、企業へ確認する手間も省けます。
支給対象者について、例えば「正規雇用者には支払うが非正規雇用者には支払わない」などは原則として禁止です。厚生労働省のガイドライン内でも以下のように明文化されています。
短時間・有期雇用労働者にも、通常の労働者と同一の通勤手当及び出張旅費を支給しなければならない。
支給対象の交通手段や計算方法については、従業員が「何を使って通勤するか」によって変わるため、トラブルを避けるためにも事前に定めておいてください。通勤手段としては、電車やバスなどの公共交通機関、車、自転車、徒歩が考えられます。
通勤経路については「最安または最短ルートで計算する」などのルールを定めてください。もし定めがなければ、例えば「意図的に割高な定期を購入しプライベートで使いやすくする」というケースもあります。
あくまでも「通勤するうえで合理的な費用でなければならない」という旨を明確化しておくことが大切です。
「在宅勤務日数が増えた」「長期出張があった」といった理由で、企業が一方的に通勤手当を減額することはできません。以下のようなイメージで、在宅勤務や長期出張などを見据えた就業規則を事前に決めておき、ルールに沿って運用してください。
こうしたルールを明文化しておけば、フルリモートや出張などで出社日数にバラツキがある従業員でも、通勤手当をどのように計算すればよいかわかります。
通勤手当は厚生年金保険法で「報酬」とみなされます。保険料の計算に必要な標準報酬月額にも組み込まれており、社会保険料の額に影響するため注意してください。
参照:日本年金機構|標準報酬月額の対象となる報酬に、通勤手当は含まれるのですか。
通勤手段別における、具体的な通勤手当の非課税限度額ルールと計算方法は以下の通りです。
より詳しく知りたい場合は、国税庁「通勤手当の非課税限度額の引上げについて」も合わせて参照してください。
公共交通機関を利用する場合「1ヶ月あたり15万円」が非課税限度額です。15万円を超えた通勤手当は、所得税や復興特別所得税、住民税などの課税対象となります。
ただし、通勤手当の15万円に含まれるのは、1ヶ月の通勤で使った公共交通機関のうち「最も経済的かつ合理的と認められる経路にかかった費用」に限られます。
例えば、新幹線通勤による手当も、上限額以内であれば非課税です。しかし「グリーン車の料金」は非課税対象となりません。新幹線は自由席でも通勤可能であり「経済的かつ合理的な経路や方法」とはいえないためです。
自家用車や自転車を利用する場合、片道の通勤距離に応じて非課税限度額が変動します。
通勤距離(片道) | 1ヶ月あたりの非課税限度額 |
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55km以上 | 31,600円 |
45km以上55km未満 | 28,000円 |
35km以上45km未満 | 24,400円 |
25km以上35km未満 | 18,700円 |
15km以上25km未満 | 12,900円 |
10km以上15km未満 | 7,100円 |
2km以上10km未満 | 4,200円 |
2km未満 | 非課税対象なし |
自家用車や自転車のどちらで通勤しても、非課税限度額は同じです。
参照:国税庁|No.2585 マイカー・自転車通勤者の通勤手当
通勤に自家用車を利用する場合、駐車場料金の扱いは企業が独自に定めることができます。例えば「法人名義で契約した駐車場を従業員が利用する」という場合、従業員自身は非課税となります。一方で「従業員個人で契約して会社が精算する」という場合は、原則として課税対象です。ただし、駐車場料金を「通勤手当」という名目で支給すれば、限度額までは非課税となります。
そもそも徒歩通勤では乗り物を使っていないため、通勤手当を支給しないことが一般的です。仮に支給した場合は、全額が課税対象になります。
有料道路を使わないと通勤できない場合は、「1ヶ月あたり15万円」が非課税限度額です。ただし、通勤のために必要不可欠といえる合理的な理由が必要となり、単に時間短縮が目的である場合は、全額が課税対象となります。
計算方法は、他の通勤手段と少し異なります。
距離に応じた非課税限度額+有料道路の通行料金
例えば「片道の通勤距離が70km・そのうちの45kmは有料道路を利用(1ヶ月の通行料金は6,000円)」という場合、以下が非課税限度額となります。
31,600円(片道55km以上の非課税限度額)+6,000円=37,600円
タクシーの場合は、交通費としてその都度実費で精算することが一般的です。そのため、基本的には全額非課税となります。
公共交通機関と自家用車などの私物を併用した場合、以下の計算結果のうち「1ヶ月あたり15万円まで」が非課税対象となります。
自家用車・自転車通勤に必要な費用+公共交通機関の利用額
例えば「自宅から最寄り駅までの3kmは自転車・駅からは電車を利用する」という場合、以下が非課税限度額となります。
4,200円(自転車の片道2km以上10km未満における非課税限度額)+電車料金
通勤手当の計算方法や非課税限度額は従業員の通勤手段によって異なるため、疑問やトラブルが生じるケースもあります。ここでは、通勤手当の支給で起こりがちなトラブルとその対処法について解説します。
非課税限度額を超えた部分は「給与の一部」として扱われます。給与として扱われる部分は課税対象となり、超過分の所得税や住民税などの税金が発生します。
とくに遠方から新幹線を使って通勤するケースでは、1回の利用金額も大きく非課税限度額を超えやすいため、企業は従業員への声かけを行い「限度額を超えて課税対象になる可能性がある旨」を説明してください。
「電車を使う申請をしているのに徒歩で通勤している」「金額が高い定期を購入していながら通勤時は一番安い最短ルートを使っている」など、申請した手段や経路以外を使い、通勤手当を不正受給しているパターンがあります。
故意かつ悪質と判断できる不正受給が起きた場合は、事実関係を丁寧に調査したうえで処分を検討してください。もし「引っ越しによる申請漏れ」など、意図せず不正が起きてしまった場合は、注意したうえで速やかに経路変更の手続きを行わせてください。
在宅ワークにおける通勤手当の対応方法は、以下のように各企業で異なります。
また、職場の基本スタンスが「出社 or 在宅ワーク」のどちらかによって、課税対象の範囲が異なります。
「出社を基本として在宅ワークも併用する」というケースでは、通勤手当は従来通りの金額までが非課税です。「必要に応じて実費で通勤費用を精算した」という場合も、従来通り限度額までは非課税対象となります。
一方で「在宅勤務を基本として一定額の在宅勤務手当を支給する」「在宅勤務のみだが従来通り通勤手当も支給する」などの場合は課税対象です。
参照:国税庁|在宅勤務に係る費用負担等に関するFAQ(源泉所得税関係)
通勤手当の計算方法は、電車やバス、自動車など従業員の交通手段によって異なります。非課税限度額も交通手段によって変動するため、「従業員がメインで使っている交通機関は何か」などを踏まえてルールを決めることが大切です。
こうした違いが多いため、「通勤手当の計算方法を規定しておらず従業員との認識ズレが起きる」といったトラブルが発生するかもしれません。通勤手当に関するトラブルをなくしスムーズに支給するには、計算方法や非課税限度額も含めて、制度を正しく理解・運用することが重要です。
Q1.通勤手当の非課税限度額はいくら? |
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原則として「1ヶ月に15万円」までです。具体的な計算方法などは通勤手段によって異なるため「【通勤手段別】通勤手当の非課税限度額ルールと計算方法」の章をご覧ください。 |
Q2.通勤手当の計算方法は? |
公共交通機関を使う場合は、通勤定期券の運賃分を支給することが一般的です。自家用車の場合は、ガソリン代や燃費などをもとに計算します。具体的な交通手段ごとの計算方法については「通勤手当の計算方法」の章をご覧ください。 |
Q3.通勤手当を支払わないのは違法ですか? |
違法ではありません。通勤手当は法律で支給が義務付けられていないため、支給ルールは企業が独自で決められます。通勤手当を支払う場合は、就業規則へ記載しておくと従業員とのトラブルを防止できます。 |