通勤手当には非課税限度額があります。交通手段によって非課税限度額は異なりますが、一般的には「1ヶ月15万円まで」となることが多いです。しかし、在宅ワークとの兼ね合いもあり、通勤手当の扱いに困っている企業も多いでしょう。
今回の記事では、各交通手段の通勤手当の非課税限度額や計算方法、算出する際の注意点などについて解説します。
通勤手当とは、企業が支給する従業員の通勤に必要な費用のことです。従業員の自宅から勤務先までの費用を、実費で負担します。引っ越し等がない限り毎月同じ金額になるため、給与と合わせて支払われることが一般的です。
企業が用意している手当には、通勤手当以外にも複数の種類があります。手当の種類によって「課税されるもの」「非課税のもの」というパターンが異なるためチェックしておきましょう。
課税対象と非課税対象の一例
課税対象となる手当の例 | 非課税対象となる手当の例 |
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通勤手当と似た言葉に、「交通費」があります。交通費とは、従業員が営業や出張を目的として移動した際に発生する費用のことです。通勤手当と異なり、毎月の移動量や距離によって金額が変動します。金額が変動するため、まずは従業員が立て替えておき、あとから精算する形が一般的です。
通勤手当と交通費は、両方とも出勤や業務で必要な移動に対して発生している性質上、単なる実費の補填に過ぎません。実費を補填しているだけであり「従業員の純粋な所得」ではないため、非課税扱いとなります。
ただし、通勤手当を含め非課税対象となっている手当も「全額が際限なく非課税」というわけではありません。例えば「通勤手当は1ヶ月に15万円まで非課税」「宿日直手当は4,000円まで非課税」「あまりにも高額な出張費用は課税対象」など、いくつかルールがあります。
「通勤手当の支給あり」などの文言を求人の募集要項で見かけたことのある方もいるでしょう。通勤手当は福利厚生の一種であるため、法律上は支給が義務付けられていません。新卒入社や転職の際は、事前に「通勤手当の支給有無」を確認しておきましょう。
上記で解説したように、通勤手当はあくまで福利厚生の一種であり法的な定めはありません。そのため、各企業が独自で支給ルールを決めることができます。
支給ルールを決める際は、通勤手当に設定されている「1ヶ月あたりの非課税限度額」を考慮する場合が多いです。1ヶ月の非課税限度額以上を通勤手当として支給すると、従業員の所得税負担が増えてしまうため、上回らないように設定するようにしましょう。
通勤手当のルールを定めるうえで必要な項目の一例は、以下のとおりです。
通勤手当のルール決めで必要な項目
支給ルールが決定したら、就業規則に記載するとよいでしょう。就業規則とは、従業員が就業するうえで守るべきルールを明文化したものです。通勤手当は福利厚生の一種のため記載は任意ですが、記載しておくと従業員との認識ズレを防ぎ、トラブル防止にもつながるでしょう。
就業規則を設定する際の具体的な記載事項や注意点については「就業規則とは~記載事項と目的について~」を参照してください。
ここからは、決めておくべきルールのうち特に注意が必要な項目について、補足で説明します。
支給対象者について、例えば「正規雇用者には支払うが非正規雇用者には支払わない」ということは、原則として禁止です。厚生労働省のガイドライン内でも以下のように明文化されています。
短時間・有期雇用労働者にも、通常の労働者と同一の通勤手当及び出張旅費を支給しなければならない。
(引用:厚生労働省「同一労働同一賃金ガイドライン」)
支給対象の交通手段については、従業員が「何を使って通勤するか」によって通勤手当の計算方法も変わるため、定めておいたほうがトラブルを避けられます。通勤手段としては、電車やバスなどの公共交通機関、車、自転車、徒歩が考えられるでしょう。
通勤経路については「最安または最短ルートで計算する」などのルールを定めるべきです。定めがなければ、意図的に割高な定期を購入しプライベートで使いやすくするというケースもあります。あくまでも「通勤するうえで合理的な費用でなければならない」という旨を明確にしておきましょう。
令和5年時点における通勤手当の課税・非課税ルールは、平成28年度の税制改正を受け決定したものです。税制改正前後で、非課税限度額が以下のように変更されています。
なお、片道の通勤距離に応じて非課税限度額が変わる通勤形態(車や自転車など)については、税制改正による変更はありません。
本章では、交通手段別に具体的な課税・非課税のルールについて解説します。より詳しく知りたい場合は、国税庁「通勤手当の非課税限度額の引上げについて」も合わせて参照してください。
公共交通機関を利用する場合「1ヶ月あたり15万円」が非課税限度額です。15万円を超えた通勤手当は、所得税や復興特別所得税、住民税などの課税対象となります。
ただし、通勤手当の15万円に含まれるのは、1ヶ月の通勤で使った公共交通機関のうち「最も経済的かつ合理的と認められる経路にかかった費用」に限られます。
例えば、新幹線通勤による手当も、上限額以内であれば非課税です。しかし「グリーン車の料金」は非課税対象となりません。新幹線は自由席でも通勤可能であり「経済的かつ合理的な経路や方法」とは言えないためです。
自家用車や自転車を利用する場合、片道の通勤距離に応じて非課税限度額が変動します。
通勤距離ごとの非課税限度額
通勤距離(片道) | 非課税限度額 |
---|---|
55km以上 | 31,600円 |
45km以上55km未満 | 28,000円 |
35km以上45km未満 | 24,400円 |
25km以上35km未満 | 18,700円 |
15km以上25km未満 | 12,900円 |
10km以上15km未満 | 7,100円 |
2km以上10km未満 | 4,200円 |
2km未満 | 非課税対象なし |
自家用車や自転車のどちらで通勤しても、非課税限度額は同じです。
通勤に自家用車を利用する場合、駐車場料金の扱いは会社が独自に定められます。例えば「法人名義で契約した駐車場を従業員が利用する」という場合、従業員自身は非課税となります。一方で「従業員個人で契約して会社が精算する」という場合は、原則として課税対象です。ただし、駐車場料金を「通勤手当」という名目で支給すれば、限度額までは非課税となります。
有料道路を使用する場合も「1ヶ月あたり15万円」が非課税限度額です。ただし、計算方法は少し異なります。
距離に応じた非課税限度額+有料道路の通行料金
例えば「片道の通勤距離が70km・そのうちの45kmは有料道路を利用(1ヶ月の通行料金は6,000円)」という場合、以下が非課税限度額となります。
非課税限度額=31,600円(片道55km以上の非課税限度額)+6,000円=37,600円
有料道路を使う場合、通勤のために不可欠であると認められたケースにおいて非課税となります。「時間短縮のため」など、通勤における必要性が認められない場合は非課税対象とならないため注意しましょう。
公共交通機関と自家用車などの私物を併用した場合、以下の計算結果のうち「1ヶ月あたり15万円まで」が非課税対象となります。
自家用車・自転車通勤に必要な費用+公共交通機関の利用額
例えば「自宅から最寄り駅までの3kmは自転車・駅からは電車を利用する」という場合、以下が非課税限度額となります。
非課税限度額=4200円(自転車の片道2km以上10km未満における非課税限度額)+電車料金
通勤手当自体の計算方法も、交通手段によって異なります。今回は以下のケースにおける通勤手当の計算方法を説明します。
各交通機関における通勤定期券運賃を支給することが一般的で、「自宅から勤務地までの最適な経路にかかる運賃」の合計額が支給されます。「1ヶ月・3ヶ月・6ヶ月」のうち、どの期間で定期券を購入するかは企業の就業規則で定めておきましょう。
なお、定期券ではなく回数券を購入した場合は、以下で計算します。
(回数券1冊分の料金×1ヶ月あたりの所要枚数)÷回数券の綴り枚数
自動車の通勤手当の計算方法は以下の2つです。
ガソリン単価と燃費による計算
往復の通勤距離×勤務日数×(ガソリン単価÷平均燃費)
通勤距離に応じた計算
片道の通勤距離×2×(ガソリン単価÷平均燃費)×勤務日数
ガソリン単価および燃費は以下を参照して決めることが一般的です。
自転車通勤の場合は、就業規則に従って支給されます。自動車やバイクと同様に、距離に応じて通勤手当を支給することが一般的です。
通勤手当の非課税限度額や計算方法は従業員の通勤手段によって異なるため、疑問やトラブルが生じるケースもあります。ここでは、通勤手当の支給で起こりがちなトラブルとその対処法について解説します。
通勤手当の支給で発生しやすいトラブル
非課税限度額を超えた部分は「給与の一部」として扱われます。給与として扱われる部分は課税対象となり、超過分の所得税や住民税などの税金が発生します。
特に、遠方から新幹線を使って通勤するケースでは、1回の利用金額も大きいため非課税限度額を超えやすいため注意しましょう。
「電車を使う申請をしているのに、実際には徒歩で通勤している」など、申請した経路以外の方法で通勤し、通勤手当を不正受給しているパターンが起こることがあります。故意かつ悪質と判断できる事案は、事実関係を丁寧に調査したうえで処分を検討するとよいでしょう。もし引っ越しなどによる申請漏れが原因ならば、速やかに経路変更の手続きを行ってください。
通勤手当を支払う合理性の有無が、課税・非課税のポイントとなります。在宅ワークにおける通勤手当の対応方法は、以下のように各企業で異なります。
在宅ワーク下における通勤手当の取り扱い例
職場の基本スタンスが「出社 or 在宅ワーク」のどちらかによっても、課税対象の範囲は異なります。
「出社を基本として在宅ワークも併用する」というケースでは、通勤手当は従来通りの金額までが非課税です。「必要に応じて実費で通勤費用を精算した」という場合も、従来通り限度額までは非課税対象となります。
一方で「在宅勤務を基本として在宅勤務手当を支給する」「在宅勤務のみだが従来通り通勤手当も支給する」などの場合は課税対象です。
在宅ワークの普及や平成28年度に実施された制度改正などにより、通勤環境は従来より大きく変わりました。環境の変化に伴い、企業としても「在宅ワークと出社を組み合わせている」「感染拡大を考慮して電車から車通勤に切り替えた人もいる」など、従業員個人に合わせた対応を求められるでしょう。
こうした変更が多い時期は、通勤手当制度に関係するトラブルも生じやすいです。例えば「在宅ワーク推奨に伴い通勤手当を廃止する」という変化が起これば、従業員の不満の種になるかもしれません。
通勤手当に関する従業員からの不満を減らして混乱なく環境を整えるには、非課税限度額も含めて制度を正しく理解・運用することが重要です。
Q1.通勤手当の非課税限度額はいくら? |
原則として「1ヶ月に15万円」までです。具体的な計算方法などは通勤手段によって異なるため「通勤手当の課税・非課税のルールと非課税限度額」の章をご覧ください。 |
Q2.通勤手当の計算方法は? |
公共交通機関を使う場合は、通勤定期券の運賃分を支給することが一般的です。自家用車の場合は、ガソリン代や燃費などをもとに計算します。具体的な交通手段ごとの計算方法については「通勤手当の計算方法」の章をご覧ください。 |