出向者の勤怠管理を行うのは、出向先?それとも出向元?

更新日:2023年08月29日
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出向とはグループ会社や子会社などの関連する別企業に異動することです。

出向の活用により人材不足の解消や社員の育成などが望まれますが、受け入れにあたって出向元・出向先のどちらの企業が勤怠管理を行うのかという疑問が生まれるでしょう。

本記事では在籍出向における勤怠管理のルールについて、詳しく解説していきます。

出向とは関連する別会社に異動すること

出向とはグループ会社や子会社など、関連する別企業に異動することです。自社にはないスキルの獲得や現場経験を若手社員に積ませるために行われる場合や、社員の継続的な雇用が難しくなった時の雇用調整として行われる場合があります。

派遣の場合は派遣元企業との労働契約を結ぶのに対して、出向は出向先企業と労働契約を結ぶことがほとんどであるという違いがあります。また出向は1年以上の就業期間が定められることが多いですが、派遣は1日〜1ヶ月、長期であれば6ヶ月以上と就業先や仕事内容により大きく差があります。

在籍出向と転籍出向の違い

出向には在籍出向と転籍出向の2種類が存在します。

在籍出向と転籍出向の違い

【在籍出向】

在籍出向とは、出向元企業の従業員でありながら、出向先企業で勤務することです。

社員と出向元企業、出向先企業のそれぞれと二重で労働契約を結ぶ形となっています。出向先が指揮命令権を持つため、従業員は出向先企業の指示や命令に従うのです。

ちなみに、労働時間や休日など労働条件は出向元企業と出向先企業が相談して決定します。

【転籍出向】

転籍出向は、従業員が出向元に戻らない形態の出向を指します。

出向元との労働契約は終了して出向先との間にのみ労働契約が成立している状態で、従業員が出向元に戻ることは基本的にありません。もし出向元に戻る必要が生じた場合、再度出向元との雇用契約の締結が必要になります。

出向先企業に求められる4つの勤怠管理ルール

基本的に、出向者の地位・処遇に関する事項(解雇や退職など)は出向元が責任を負い、労働条件や安全配慮義務に関する事項(労働時間、休憩、休日、労災など)は出向先が責任を負います。

本章では、出向者を受け入れる際に、出向先企業が管理すべき勤怠管理のルールについて紹介します。

1.労働時間は出向先企業が管理する

所定労働時間や休憩に関しては、出向先の規定に従います。出向元から給与をもらう場合には、出向元より所定労働時間が短い場合でも、同じだけの給与をもらうことになります。

なお、出向先と比べて休憩時間が短くなるなど労働条件が悪くなる場合には、その旨を事前に出向者に説明しておく必要があります。また、出向先の所定労働時間が長くなる場合は、出向手当などが支給されるケースもあるため、注意しましょう。

2.36協定の適用は出向先のものが適用される

36協定とは、労働基準法36条に基づいて結ばれる「時間外・休日労働をさせる場合の労使協定」の通称です。企業と従業員間であらかじめ合意が取れていれば、労使協定を結び、かつ特例として残業代などを支払うことで、規定の労働時間を超えて合法的に業務を遂行できるようになります。

36協定について詳しく知りたい方はこちらをご覧下さい。

3.休日・休暇は出向先に従う

休日や夏季休暇、年末年始休暇などは、原則、出向先の勤務カレンダーに従います。

【休日・休暇】

出向先で特別休暇を定めている場合は、基本的に出向者も利用できます。出向契約の内容によっては、出向元の特別休暇を利用できる場合もあります。

【年次有給休暇】

申請手続きや取得状況の確認などの有休管理はすべて出向先が行うため、年間5日の取得義務も出向先が負うことになります。付与日数にかかわる継続勤務年数については、出向元・出向先の勤続年数を通算して算出するよう注意しましょう。

【法定休暇】

出向者が育休や産休などの法定休暇を取得したい場合は、出向先に請求することになります。

休暇の利用により出向者が長期間就業できない場合は、一度出向契約を解除して出向元に戻り、休暇から復帰後に出向の意味があると判断される場合に改めて出向を再開するのが一般的だとされています。

4.給与と福利厚生は出向元との協議で決める

出向における給与の負担に関しては、出向元と出向先どちらが払う形でも問題ありません。

企業は、従業員が時間外労働を行った際、労働時間に対して通常の賃金より割増した金額を支払う必要があります。割増賃金率は高い方の割増率にて支給し、差額については双方が協議したうえで精算するのが良いとされます。

健康保険料や厚生年金などの社会保険料については、給与の支払い窓口となる側が支払う必要があります。どちらの企業から社会保険料をもらうか、従業員側が決めるケースもありますが、基本的に労災保険料は常に出向先が負担することとなっています。

出向者の勤怠トラブルを避けるために

出向社員とのトラブルを避けるためにできることとして、「出向元と従業員」「出向元と出向先」「出向先と従業員」の3つの関係から厚生労働省のハンドブックを参考に紹介します。

【出向元↔従業員】就業規則を整備し、同意を得る

どちらの就業規則が適用されるかについては、出向先と出向元の間の契約によって事前に決定します。出向元であればもともと就業規則を確認しているはずですが、きちんと確認が取れているか改めて同意を得ましょう。

【出向元↔出向先】出向契約を締結する

出向契約は出向元と出向先が結ぶ契約のことで、一般的には身分にかかわる事項(退職・解雇・懲戒など)は出向元の就業規則が適用され、勤務に関わる事項(労働時間・休憩・休日など)は出向先の就業規則が利用されることが多いです。

トラブルのない契約とするには、あらかじめ以下事項を定めておくとよいでしょう。

出向契約で定めておくべきこと

  • 出向期間
  • 職務内容、職位、勤務場所
  • 就業時間、休憩時間
  • 休日、休暇
  • 出向負担金、通勤手当、時間外手当、その他手当の負担
  • 出張旅費
  • 社会保険・労働保険
  • 福利厚生の取扱い
  • 勤務状況の報告

など

【出向先↔従業員】労働条件を明確にする

出向元と出向先の両企業が、出向者に対して賃金の支払や労働基準法などにおける責任を負うため、以下の項目を明確にする必要があります。

労働条件として定めるべきこと

  • 労働契約の期間
  • 期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準
  • 就業の場所、従事すべき業務
  • 始業・終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇、
    労働者を二組以上に分けて就業させる場合における就業時転換に関すること
  • 賃金の決定、計算、支払の方法、賃金の締切りおよび支払の時期、昇給
  • 退職に関すること(解雇の事由を含む)

これらの労働条件は、出向先が従業員に明示することになっていますが、出向先に代わって出向元が明示しても問題ありません。

まとめ|社員の不満を生まないために、出向における勤怠管理の徹底を

出向者の勤怠管理を適切に行うには、あらかじめ労働時間や給与など勤怠管理のルールを確認しておくことが大切です。「労働条件は細かに決めておく」「就業規則を整備しておく」ことを意識して出向者の勤怠トラブルを避けましょう。

よくある質問

Q1.出向とは?

出向とはグループ会社や子会社などの関連する別企業に異動することを指します。

出向には在籍出向と転籍出向の2種類が存在し、それぞれで雇用契約の締結状態などに違いがあります。

Q2.出向者の勤怠管理を行うのは、出向先?それとも出向元?

基本的には出向者の地位・処遇に関する事項(解雇や退職など)については出向元が責任を負い、労働条件や安全配慮義務に関する事項(労働時間、休憩、休日、労災など)については出向先が責任を負います。

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