定年退職とは?再雇用や定年引き上げなど企業がとるべき選択について解説

更新日:2023年07月07日
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定年退職とは、雇用関係が終了する年齢に達した際に従業員が退職することです。

政府は少子高齢化対策として定年の年齢引き上げや、継続して従業員を雇用することを企業へ推奨しています。直近では高年齢者雇用安定法の改正が行われ、多くの企業にて定年制の廃止や年齢の引き上げ、再雇用制度の導入といった選択が求められています。

定年退職の年齢を引き上げると、不足している労働力を確保できるため「定年を上げればよいだろう」と考える方もいるかもしれません。しかし、どの対応が自社にとって最適な選択かは企業の状況によって異なるため、一概にはこうすべき、と言うことはできません。

定年退職の年齢を引き上げると、不足している労働力を確保できるため「定年を上げればよいだろう」と考える方もいるかもしれません。しかし、どの対応が自社にとって最適な選択かは企業の状況によって異なるため、一概にはこうすべき、と言うことはできません。

定年退職とは

定年退職とは、定年制を導入している企業に勤務する従業員が、定められた年齢に達したときに退職することです。定年制の詳細内容については企業が定めることとされ、就業規則や雇用契約書への明記が必要です。

▼「定年を満65歳とし、その後希望者を継続雇用する」とした場合

<就業規則の例>

従業員の定年は満65歳とし、定年に達した日の属する月の末日をもって退職とする。

前項の規定にかかわらず、定年後も引き続き雇用されることを希望し、解雇事由又は退職事由に該当しない従業員については、満70歳までこれを継続雇用する。

引用:厚生労働省労働基準局監督課「モデル就業規則」令和4年11月版

なお、定年として定めた年齢に達した際、どのタイミングを退職日とするのかは企業が任意で決められます。

▼定年退職日の例

  • 定年年齢になった日
  • 定年年齢になった日の月末
  • 定年年齢になった日の給与の締日
  • 定年年齢になった年度末 など

高齢者雇用で利用できる助成金や給付金

高年齢者の継続雇用に対応すべく、利用できる助成金や給付金には以下のようなものがあります。

▼利用できる助成金、給付金の種類

種 類 概 要
高年齢雇用継続基本給付金
  • 「雇用の継続が困難となる事由が生じたとき」に支給される給付金
  • 雇用保険法で定められており、働く意欲のある60歳以上の高年齢者の給与額低下への援助が目的
特定求職者雇用開発助成金
  • 従業員の雇用維持を目的とした助成金
  • 雇用が困難と考えられる高齢者、母子家庭の母親、障害者などを一定の条件下で雇用した場合に受給できる
65歳超雇用推進助成金
  • 65歳以上への定年引上げ、定年制の廃止、66歳以上の希望者への継続雇用制度の導入、他社による継続雇用制度の導入のいずれかを実施した場合に受給できる助成金

高年齢者雇用安定法改正の流れ

定年退職の年齢は長い間60歳が一般的でしたが、法改正によって今後は定年の年齢引き上げや継続雇用が義務化される予定です。実際に政府は、少子高齢化の対策として、従業員が定年退職後雇用を延長する政策を進めています。

定年退職の制度について考えるうえでおさえておきたいのが、高年齢者雇用安定法です。

▼高年齢者雇用安定法とは

高年齢者雇用安定法は、少子高齢化が急速に進行し人口が減少する中で、経済社会の活力を維持するため、働く意欲がある誰もが年齢にかかわりなくその能力を十分に発揮できるよう、高年齢者が活躍できる環境整備を図る法律です。

引用:厚生労働省、ハローワーク「高年齢者雇用安定法改正の概要」

ここでは、高年齢者雇用安定法改正の流れに沿って、定年退職に関する動向を順に見ていきましょう。

2305-FW3_1 高年齢者雇用安定法改正の流れ

【1986年:高年齢者雇用安定法の制定】

はじめて高年齢者雇用安定法が制定されたのは、1986年です。「60歳定年」が努力義務とされたのはこの時でした。1994年には60歳定年が義務化されたこともあり、多くの企業が次の改定まで定年を60歳と定めていました。

【2004年:65歳までの高年齢者雇用】

その後の2004年には「65歳までの高齢者雇用確保措置」により、企業は従業員が65歳になるまで雇用継続することが義務化されました。定年制を導入している企業は、以下3つのいずれかを導入することが必要となりました。

定年を65歳未満に定めている企業は、以下のいずれかの措置(高年齢者雇用確保措置)が必要。

(1)65歳までの定年引き上げ

(2)65歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)の導入

(3)定年制の廃止

引用:高年齢者雇用の現状等について

【2012年:継続雇用制度の対象者を限定できる仕組みの段階的廃止】

2012年には、企業は希望する高年齢者の雇用を、65歳まで段階的に年齢を引き上げることが必要になりました。高年齢者雇用確保措置として、定年退職の年齢は60歳以上であれば何歳でも引き上げが可能と示されているほか、以下3つの措置が義務づけられました。

▼65歳までの雇用確保(義務)

  • 60歳未満の定年禁止
  • 65歳までの雇用確保措置
    ※定年を65歳未満に定めている事業主が対象。いずれかの措置を講じなければならない
    • 65歳までの定年引き上げ
    • 定年制の廃止
    • 65歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)の導入
      ※継続雇用制度の適用者は原則として希望者全員

【2020年:70歳までの高年齢者就職確保措置の努力義務化】

2020年には、70歳までの就業機会の確保が努力義務化されました。

▼2021年4月1日より努力義務とされている事項

  1. 70歳までの定年の引上げ
  2. 70 歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)の導入(特殊関係企業に加えて、他の企業によるものを含む)
  3. 定年制の廃止
  4. 70 歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入
  5. 70 歳まで継続的に以下の事業に従事できる制度の導入
    1. 企業が自ら実施する社会貢献事業
    2. >企業が委託、出資(資金提供)などする団体が行う社会貢献事業

引用:厚生労働省|高年齢者雇用安定法の改正~70歳までの就業機会確保~

高年齢者雇用確保措置は、少子高齢化にともない従業員のさまざまなニーズをふまえ、70歳までの就業機会の確保を目的としています。ただし、定年年齢を70歳まで引き上げることを義務付けたものではありません。

【2025年4月:65歳以上の継続雇用・再雇用が義務化】

先の話にはなりますが、2025年4月からは希望者全員を対象とし、65歳までの継続雇用が義務化されます。高年齢者雇用安定法による、65歳までの雇用確保義務の経過措置(企業の雇用確保措置の段階的な年齢引き上げ)が2025年3月で終了するからです。

また、高年齢雇用継続給付金も2025年4月から縮小されることが予定されており、段階的な縮小を経ていずれ廃止の方向となっています。

定年退職後の継続雇用に関連する制度

定年退職後に企業が対応しなければならない継続雇用制度には、「再雇用制度」と「勤務延長制度」があります。

再雇用制度

再雇用制度は、定年を迎えた従業員を一度退職させ、立場を変えて再度同じ企業に再雇用させる制度です。任期が設けられている嘱託従業員として再雇用した場合は、原則として65歳まで更新が義務付けられています。

退職金は定年退職のタイミングで支払われる企業が多く、再雇用にあたっては雇用形態や就業条件などが変更されることもあります。

勤務延長制度

定年に達した後、退職させず継続雇用する制度です。

定年の引き上げと異なる点は、企業と本人が勤務延長をするか検討して決定するところで、雇用形態や期間などの労働条件を企業の判断で決定できるメリットがあります。

定年の廃止・年齢の引き上げ・継続雇用のどれを選定すべきか

2025年4月1日より義務化される「65歳までの雇用確保措置」の対応に向けて、全ての企業は定年の廃止・年齢の引き上げ・継続雇用のいずれかを選択しなければなりません。どの選択をすべきか悩む方も多いと考えられますが、業種や職種の違い、雇用している高年齢者へ期待することは企業によって異なるため、どれを選択することが望ましいかは一概には言えません。

雇用確保措置を考えていくには、自社の現況や課題を明確に把握し、5年後10年後を見据えた最適な対応を選択することが重要です。

▼3つの措置の比較表

2305-FW3_2 3つの措置の比較表

本章では、「定年の廃止」「継続雇用」「定年の引き上げ」の3つの措置それぞれのメリット・デメリットについて解説します。

1.定年制の廃止|メリットとデメリット

定年制を廃止すると、高い技術やスキルを持った、有能な高年齢従業員を引き続き雇用できます。高年齢者自身も若い世代にノウハウを伝授するなど、経験を活かすことで活躍できるほか、企業としても全体のスキルアップを図れるメリットがあるでしょう。

一方で、同じポジションに高年齢従業員が居続けてしまうと、組織の循環が悪くなるほか、若手従業員の不満がたまり、退職してしまう可能性もあります。また、一度制度を変更すると、もとに戻すのが大変なので、定年制の廃止を選択する場合は注意が必要です。

2.継続雇用|メリットとデメリット

継続雇用(再雇用・勤務延長制度)は、人手不足の解消に寄与します。また、新規雇用と違って、新たに採用したり教育したりする必要がないことから、コスト削減になるメリットもあります。

一方で、希望者は全員再雇用する必要があるため、場合によっては人件費がかさんでしまうことも考えられます。

3.定年の引き上げ|メリットとデメリット

定年を引き上げると、安定して人的リソースを確保できるほか、高齢従業員の持つノウハウや経験を保持できるメリットがあります。

しかし、場合によっては体力面などを考慮し、仕事内容や役割を変更せざるをえない場合も考えられます。もし、仕事内容を変更し、以前と比べて賃金が低くなってしまうと、従業員自身のモチベーションが低下し、業務効率低下にもつながりかねない点は注意すべきです

定年後に関する従業員のホンネ

ここまでは企業視点で触れてきましたが、高年齢従業員が定年後についてどのように考えているのかを把握することで、3つの雇用継続措置についてどれを選択すべきかの判断材料となるのではないでしょうか。

本章では、55〜79歳の男女8,000人を対象とした「定年後の就業意向・就業実態調査」結果をもとに、定年後に関する従業員のホンネについて見ていきます。

定年後に従業員は何歳まで働きたいか?世論調査

ディップ総合研究所の調査「55~64歳定年後の就業意向調査」によると、これから定年を迎える55~64歳の約6割が「定年後も働きたい」と回答しています。また、すでに定年した60〜79歳も、当時の就業意向として51.7%が「(定年後も)働きたかった」と回答していることも明らかになりました。

高年齢となっても働き続けたい、と考える人が多いことがわかります。

▼定年後の就業意向(55〜64歳対象)

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引用:【ミドル・シニア 8,000人調査】 55〜64歳正従業員の約6割が「定年後も働きたい」と回答

定年退職後について従業員は何を考えているか

定年退職後、以下に挙げる2つについて従業員はどう考えているかを、引き続きディップ総合研究所の調査結果を元に見てみましょう。

  • そもそも、なぜ定年退職後も働きたいのか?
  • 定年退職後に希望する職場は?

【なぜ定年後も働きたいのか】

従業員が定年後も働きたい理由でもっとも多かったのは「生計の維持のため(64.2%)」で、次いで「家計を補助するため(46.1%)」などの収入面の理由が1・2位を占めました。その他「健康の維持(40.4%)」という意見も3位にランクしています。

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引用:【ミドル・シニア 8,000人調査】 55〜64歳正従業員の約6割が「定年後も働きたい」と回答

近年は継続して値上げラッシュが続いており、必要な生活費が増えている方も多いと考えられます。そのため、お金に関する理由が上位にあがっているのではないでしょうか。

【定年後に希望する職場】

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引用:【ミドル・シニア 8,000人調査】 55〜64歳正従業員の約6割が「定年後も働きたい」と回答

現在と同じ職場を希望している割合が63%以上と半数以上を占めています。定年引き上げや再雇用によって高年齢従業員を雇用する場合は、なるべく大きな環境変化がない部署へ配置することで、従業員自身がより安心して働くことができるのではないでしょうか。

定年を迎えた従業員に依頼すべき手続き

ここまで、定年退職に関する法律や制度から、従業員の思いについて触れてきました。

実際にどの選択をするかは企業や従業員ごとに異なりますが、ここでは退職する場合、再雇用する場合それぞれで必要となる手続きについて確認します。

2305-FW3_3 定年退職者の手続き

再雇用の手続き

定年の年齢に達し、再雇用となる場合は諸手続きが必要です。具体的には、退職金の支払いに加え、社会保険や労災保険に関する手続きを行わなければなりません。

社会保険

社会保険を雇用期間中に継続させる場合、定年退職日の翌日に「資格喪失届」によって資格を一度失効させ、再取得「資格取得届」の手続きをしましょう。この手続きを行うことで、保険料は再雇用後の賃金に課される額へ切り替わります。

条件は、定年退職後1日もあかずに再雇用されていること、特別支給の老齢厚生年金受給者であることです。

労災保険

65歳以上も⾼年齢被保険者として雇用保険の適用対象であるため、基本的に、労災保険と雇用保険は手続きなしで引き継ぎできます。

しかし、勤務時間が1週間の所定労働時間の30時間未満になるケースでは、一般被保険者から短時間労働被保険者へと変わるため、雇用保険の区分変更が必要です。

なお、1週間の勤務時間が20時間未満のケースでは雇用保険料の負担はありません。

定年退職の手続き

従業員が退職する場合には、以下の2つを依頼して手続きしてもらう必要があります。

ちなみに、「退職届」の必要有無ですが、法律上の義務はありません。社内の就業規則で定められていないならば、提出の必要はないでしょう。

退職所得の受給に関する申告書の提出

企業から退職者へ「退職所得の受給に関する申告書」の提出を求めることが一般的です。これにより退職者は、源泉徴収のみで所得税及び復興特別所得税の課税関係の精算を済ませられます。

申請処理をしない場合は、退職金から一律20.42%の所得税及び復興特別所得税が源泉徴収されます。

確定申告の実施

場合によっては、確定申告を従業員側で行ってもらう必要があります。以下、必要なケースとそうでない場合についてまとめました。

必要である 必要でない
(企業が年末調整を実施)
  • 年の途中で定年退職しその後収入がない場合
  • 「退職所得の受給に関する申告書」を提出されていない場合
  • 各種控除を受けたいとき
  • 12月末日まで働いていた場合
  • 年の途中(1月1日〜12月31日)で定年退職しても再就職している場合
  • 退職金が発生する場合「退職所得の受給に関する申告書」が提出された場合

退社手続きについて詳しく知りたい方は、「従業員の退社手続きマニュアル|退社前から退社後までの手順とポイント」をご覧ください。

まとめ|定年の廃止・年齢引き上げ・継続雇用の選択は自社の状況に合わせた選択を

労働力が不足している現代において、定年の年齢や再雇用を活用すると、人的リソースを確保したり、これまで培った経験やノウハウを失わずに済む利点があります。ただし、「やる気がない」「マネジメントしにくい」など、従業員や企業の組織の状況によっては、デメリットとなるケースもあります。

定年の年齢を引き上げるのか、再雇用制度や勤務延長制度を採用するのかは、企業の状態によって慎重に判断すべきです。一度自社の課題感を整理したうえで、今後の方針を定めるとよいでしょう。

よくある質問

Q1.定年制の廃止、定年の年齢引き上げにはどんなメリットがありますか?

定年制の廃止や、定年の年齢を引き上げた場合、以下のようなメリットがあります。

    • 人的リソースの確保できる
    • 高齢従業員へ蓄積されたノウハウ・技術を保持できる
Q2.高年齢者雇用安定法とはどのような法律ですか?

高年齢者雇用安定法は、少子高齢化が急速に進行し人口が減少する中で、経済社会の活力を維持するため、働く意欲がある誰もが年齢にかかわりなくその能力を十分に発揮できるよう、高年齢者が活躍できる環境整備を図る法律です。

(引用:厚生労働省、ハローワーク「高年齢者雇用安定法改正の概要」)

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