2013年の高年齢雇用安定法の改正により、事業者は「定年の65歳引き上げ」「65歳まで継続雇用制度導入」「定年制度廃止」のいずれかの措置を選択することが義務化されました。さらに、2021年度からは就労年齢を70歳までに引き上げることが努力義務とされています。
これにより、従業員が定年を過ぎても、高年齢者を継続して雇用するための「継続雇用制度」を導入する企業が増えています。令和4年の厚生労働省の調査では、継続雇用制度の導入によって就業確保措置を講じている企業が51,426社(21.8%)と最も多く、前年と比べ2.1ポイント増加してることがわかりました。
▼70歳までの就業確保措置を実施済みの企業の内訳
引用:厚生労働省「令和4年「高年齢者雇用状況等報告」の集計結果」
一方で、再雇用を選択した多くの方が、定年前より年収が低下していることも明らかになりました。パーソル総合研究所の調査では、定年後再雇用者の年収として「50%より下がった」と回答した方は27.6%と、4人に1人が半分以下の賃金となっていることがわかります。
引用:パーソル総合研究所「シニア従業員とその同僚の就労意識に関する定量調査」
一方、従業員は急激に賃金を下げられてしまうと、それまでと同じ生活をすることが困難となってしまいます。このギャップを埋めるための措置として政府は「高年齢雇用継続給付金」という制度を講じています。
ただ、申請にはさまざまな書類の提出が必要で、条件によっては全て給付金が支給されないケースもあります。また、今後この制度は段階的に終了していくことが予定されているため、人事担当者は制度について把握しておくことが求められます。
本記事では、高年齢雇用継続給付金の概要や申請方法など、担当者が知っておくべきポイントに絞って解説します。
高年齢雇用継続給付金とは、60歳以上65歳未満の雇用保険被保険者に対して支給される給付金のことです。60歳到達時点の賃金と比較し、それ以降の収入が75%未満となっていた場合に支給されます。
高年齢者雇用安定法の改正により、2021年4月1日からは65歳までの従業員の雇用確保が企業に義務付けられました。しかし、60歳時点での賃金を引き続き企業が支払い続けることは経営的に困難なケースがあります。従業員としては、賃金を大幅にカットされては生活に支障をきたしてしまいます。
この収入の大幅な乖離を埋めるための施策が、高年齢雇用継続給付金です。
高年齢雇用継続給付金には、「高年齢雇用継続基本給付金」と「高年齢再就職給付金」の2種類があります。それぞれ、支給期間と支給条件にも違いがあるため内容をしっかり確認しましょう。
高年齢雇用継続基本給付金は、60歳以降も失業保険による基本手当や再就職手当を受け取らず、継続して雇用した場合に支給される給付金です。つまり、同じ企業で働き続けてきた人が受け取れる給付金です。
もし、退職後に失業保険を受け取っていない場合は、再就職時にも申請できます。
支給期間は、「60歳になった月から65歳になる月まで」です。
支給月については、1日から末日まで雇用保険の被保険者である必要があるため、65歳になる月の半ばで退職してしまった場合には、その月は給付金が支給されません。
支給されるためには、以下の条件を満たすことが必要になります。
たとえば、60歳時点の賃金の75%未満とならないケースでも、65歳までに75%未満に下がる場合、その時点から支給対象です。
高年齢再就職給付金とは、60歳以降に企業を一度退職し、失業保険などの基本手当を受け取り、さらに再就職した際に支給残日数が残っている場合に支給される給付金です。
支給期間は、再就職をした日の前日における基本手当(失業保険)の支給残日数によって、それぞれ異なります。
基本手当(失業保険)の支給残日数 | 支給期間/受取可否 |
---|---|
再就職した日の前日時点における基本手当の支給残日数が、200日以上の場合 | 再就職日の翌日から2年が経過する日の属する月まで |
100日以上200日未満の場合 | 再就職日の翌日から1年が経過する日の属する月まで |
100日未満の場合 | 受給不可 |
なお、被保険者が65歳に達した場合、その期間に関わらず希求期間は65歳に達した月で終了します。
高年齢再就職給付金の支給条件は、「高年齢雇用継続基本給付金」の条件にプラスして以下の項目が付け加えられます。
給付額の計算方法は賃金の低下率によって異なります。
高年齢雇用継続給付金の支給額は、原則ひと月ごとの「賃金の低下率」に応じて算出されます。
まずは低下率を算出し、そこから実際の支給額を計算します。
【賃金の低下率の計算式】
低下率=支給対象月に支払われた賃金額(現在の賃金額) ÷ 60歳到達前の6ヶ月間の平均賃金額×100
低下率が61%以下、もしくは以上によって、実際の支給額の算出方法は異なります。
▼低下率が61%以下の場合
支給額=支給対象月に支払われた賃金額×15%
▼低下率が61%以上75%未満の場合
支給額=-183÷280×支給対象月に支払われた賃金+137.25÷280×60歳到達前の6ヶ月間の平均賃金額
具体例をもとに、計算してみましょう。今回は、60歳到達前の6ヶ月間の平均賃金額が50万円で、低下率が65%のケースと仮定します。
支給額=-183÷280×325,000円+137.25÷280×500,000円
このとき、実際の支給額は32,679円となります。
なお、厚生労働省は低下率ごとの支給率早見表を公開しています。詳しく知りたい方は、「厚生労働省 Q&A〜高年齢雇用継続給付〜」を参照ください。
引用:厚生労働省「高年齢雇用継続給付支給額の早見表」
高年齢雇用継続給付金には、支給される上限額と下限額が設けられています。
それぞれの限度額は、労働時間や賃金、雇用の変動を明らかにする目的で、厚生労働省が事業者に対して実施している統計調査「毎月勤労統計」の平均定期給与額の増減を元に毎年8月1日に改定されます。
高年齢雇用継続給付金が給付されるためには、以下のケースに当てはまることが条件です。
仮に、支給の対象月に支払われた賃金と、算出された支給額の合計が上限額を超えるときは、高年齢雇用継続給付金と賃金との合計額が「36万584円」となるようにして支給されます。
従業員の遅刻や欠席など、本人や企業の責任で賃金低下が生じた場合は、賃金の低下分についても「本人に支払われたもの」とみなされます。
この場合、賃金の低下分を含めた額を含めて給付金支給額が算定されます。これを「みなし賃金」といいます。
雇用保険でカバーできないと判断された際は、みなし賃金を適用した状態で支給額を計算します。
高年齢雇用継続基本給付金を申請するためには、被保険者に記入してもらう書類や、事業者が用意すべき書類があります。
最終的には、管轄するハローワークでの手続きが必要になります。高年齢雇用継続基本給付金、高年齢再就職給付金の両方において、申請手続きは雇用者を経由して行い給付金は被験者本人に支給されます。
高年齢雇用継続基本給付金は、初回の申請については最初の支給対象月の初日から起算して4ヵ月以内に行うと定められています。必要な申請書類や添付書類を漏れなくハローワークへ提出しましょう。
▼高年齢雇用継続基本給付金の申請書類
▼高年齢雇用継続基本給付金の申請に必要な添付書類(以下:添付書類)
▼ハローワークから入手する書類
まず、被保険者に「受給資格確認票」「初回申請書」の必要事項を記入してもらいます。これらの書類に「添付書類」を添え、ハローワークへ提出します。
提出後、ハローワークから「受給資格確認通知書」「支給決定通知書」「次回分の支給申請書」が交付されるので、被保険者へそれらの書類を渡すと、後日ハローワークから被保険者へ給付金が支給されます。
なお、2回目以降「賃金証明書」の申請は不要です。被保険者は「支給申請書」を記入して雇用者へ提出します。雇用者はその後、指定された月に(2ヶ月に一度)記入された支給申請書をハローワークへ提出すれば申請完了です。
高年齢雇用継続基本給付金の申請も、ハローワークで手続きします。
被保険者に「受給資格確認票」と「(初回)高年齢雇用継続給付支給申請書」を記入してもらいます。これらの書類に「賃金証明書」を添えハローワークへ提出します。
その後、ハローワークより「受給資格確認通知書」と「支給申請書」が交付されるので、被保険者へその書類に記入してもらいます。記入された書類をハローワークへ提出すると、「支給決定通知書」「次回分の支給申請書」が交付されるので、被保険者へ渡します。
後日、ハローワークから被保険者へ給付金が支給されます。
2回目以降の場合、被保険者が「支給申請書」を記入し雇用者へ提出します。受け取った雇用者は、指定された月の申請日までにハローワークへ提出します。
提出書類は、厚生労働省のWebサイトから入手して印刷できます。また、電子申請も行えますので、詳しい情報を知りたい方はこちらを参照してください。
高年齢雇用継続給付金を活用する上での注意点は主に以下の2点です。従業員が給付金を受け取れないケースもあるため、労務担当者は内容を十分に理解しておく必要があります。
高年齢雇用継続給付金の受給資格は、定年の年齢に関わりなく従業員が60歳を過ぎてから発生します。さらに、60歳時点の賃金の75%未満になることが条件です。
たとえば、企業が定めた定年が55歳のケースで、その年に従業員が退職したとします。もし60歳になる前に再雇用が決定しても、60歳を超えるまでは給付の対象とはなりません。
高年齢者の雇用促進のために講じられた高年齢雇用継続給付金は、2025年度以降段階的に縮小し、最終的には廃止される予定です。
そもそも高年齢雇用継続給付金は、高年齢者の処遇改善に向けて先行して取り組む企業への支援や、給付率縮小の激変を緩和する措置として講じられたものです。高年齢雇用安定法の改正によって、2021年4月から65歳まで雇用確保が義務化されたことに加え、70歳までの労働確保についても努力義務とされたことで、多くの企業で高年齢者の雇用確保が浸透してきています。
さらに、働き方改革関連法による「同一労働同一賃金」の義務化も、給付金の段階的な縮小・廃止の後押しとなっています。これまで「パートタイマーや非常勤社員・派遣労働者・有期雇用契約社員」と「通常の労働者」との間に、不合理な待遇を禁止する法改正と認識されていましたが、保護すべき労働者の対象に高年齢者も含まれます。高年齢労働者の雇用確保が進むにつれ、これまで以上に待遇改善の動きが高まると予測されます。
これらの流れから、高年齢雇用継続給付金の必要性そのものが薄れてきたため、制度の縮小が進んでいるのです。
高年齢者雇用継続給付金は、従業員が60歳を超えたときに、60歳の時点の賃金よりも一定率賃金が低下した場合に受け取れる給付金です。60歳以降、再雇用された従業員の賃金が大幅に低下することで生活に困らないよう講じられました。
雇用者にとっては、65歳までの継続雇用が義務化されたことで、高額な賃金を継続して支払わなくて済むため給付金が企業の助けにもなっています。
しかし、2025年4月以降この給付金が縮小し、やがて廃止される予定にあります。今後の動向を注視し、高年齢者の雇用に関してどのような取り決めをすべきか、雇用者として考慮していく必要があります。
今後、度重なる法改正に従って都度、臨機応変な対応が必要となってきます。本制度を正しく利用することで、高年齢者でも働きやすいような環境整備が叶うことでしょう。
Q1.高年齢雇用継続給付金の対象者は? |
雇用保険の被保険者として5年以上経過している、かつ60歳以上65歳未満の従業員です。 60歳時点の賃金と60歳以降の賃金を比較したときに、75%未満に低下した場合に支給されます。 また、60歳以降も同じ企業で継続して就労する人や、一旦退職後、失業保険を受け取らず、休み期間なしですぐに再就職した人も給付されます。 |
Q2.高年齢雇用継続基本給付金はいつまでもらえますか? |
被保険者が60歳に到達した月から65歳に達する月までですが、各暦月の初日から末日まで被保険者であることが必要です。 |