社員の退職が決まると、企業が数多くの手続きを行う必要があります。特に保険や税金の手続きは煩雑なうえ、期限が厳しく決まっているものが多くあります。
担当者には、事前にスケジュールを把握しておき、必要書類を期日までに漏れなく各窓口に提出することが求められます。
この記事では、社員が退職する際に担当者が行うべき退職手続きの手順とポイントを解説します。
社員の退職に伴い、企業側が行う対応の手順は大きく分けて以下の7ステップです。
退職日までに行うこと
退職日の1ヶ月前まで |
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退職日の2週間前(目安)まで |
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退職日まで |
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退職後に行うこと
退職後5日以内 |
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退職翌々日から10日以内 |
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退職後15日以内(目安) |
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退職後1ヶ月以内 |
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各ステップを退職1ヶ月前から退職1ヶ月後まで分けて詳しく説明します。
社員から退職の申し出を受けたら、退職届を提出してもらいます。
退職届は企業に自らの退職を一方的に意思表示するものであり、法的効力があります。民法により、期間の定めのない雇用契約(正社員雇用)において、労働者は2週間の解約予告期間ののち、理由を要せず使用者との雇用契約を解除できるという定めがあります。就業規則で退職までに2週間以上の期間を設定している場合であっても、民法が優先されるため、強制できません。
民法第627条第1項
当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から2週間を経過することによって終了する。
そのため、退職届を提出された場合、法的には14日後までに退職を完了しなくてはなりません。ただし、実際には引き継ぎ期間や有給消化などを考慮して、1ヶ月ほど猶予を見るケースが多いようです。反対に、本人と企業が合意すれば、14日よりも早く退職日を設定することも可能です。
なお、社員からの申し出がある際に、退職届ではなく退職願を提出されるケースがあるかもしれません。退職願は、企業に対して退職を願い出る書類であり、企業側が退職を合意した場合のみ法的効力が生じるものです。この場合はわざわざ退職届を書き直して貰う必要はありません。
社員との話し合いなどを経て退職の意向に変わりがなければ、退職日を決定します。このとき、退職理由を社員の自己都合とするか、会社都合とするかにより、退職金の支給や雇用保険の失業給付を受けるタイミングが変わります。退職の希望を伝えられたときに、あわせて理由を確認しておきましょう。
退職にともない、いくつか退職者に確認すべき事項があります。なお、期日の目安として2週間としていますが、厳密なものではありません。ただし、退職者の意向によって退職までに準備すべき書類や内容があるため、事前確認は必須です。
退職前に退職者に確認する事項一覧
健康保険の任意継続被保険者制度とは、退職日までに2ヶ月以上継続して被保険者期間のある退職者が、最大2年間、健康保険の被保険者資格を保有できる制度です。退職する社員が健康保険に加入している場合、企業は、退職後も健康保険に任意継続で加入するかどうかの意志を確認します。
健康保険の任意継続を行う場合のメリットとデメリットについて簡単にまとめます。もし社員から質問があった場合は以下をもとに答えられるようにしましょう。
健康保険の任意継続を行う場合のメリット
健康保険の任意継続を行う場合のデメリット
社員が健康保険の任意継続を希望した場合は、任意継続被保険者資格取得申出書を取得し記入した上で、退職日の翌日から20日以内に社員の住所地を管轄する協会けんぽ支部に提出が必要です。詳しくは、全国健康保険協会「 任意継続の加入手続きについて 」をご覧ください。
退職後の社員の転職先が決まっているかどうかによって、住民税の徴収方法は変わり、企業側で必要な手続きが変わります。住民税の支払い方法には、特別徴収と普通徴収の2種類があります。
住民税の徴収方法
特別徴収 |
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普通徴収 |
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退職後の転職先が決まっている場合は、特別徴収の手続きを行います。特別徴収は、本人の給与から天引きした税金を、企業が本人に代わって納付する一般的な納税方法です。特別徴収の場合は、「給与支払報告・特別徴収に係る給与所得者異動届出書」を用意し、必要事項を記入した上で、退職する社員の転職先の企業へ書類を引き渡します。その後、転職先の企業が社員の住所地の市区町村に書類を提出すれば、特別徴収が継続されます。
退職後の転職先が決まっていない場合は、普通徴収となり社員本人が住民税を納付します。退職後次の職場が決まっていない社員には、住民税の手続きが必要になることを伝えましょう。
退職証明書と離職証明書の発行が必要かどうか社員に確認します。
退職証明書とは、企業が発行する退職の事実を証明する書類です。退職者が転職先から提出を求められる場合や、離職票が発行される前に社会保険の手続きを行いたい場合に利用されます。 公文書ではないので、発行は必須ではありませんが、企業は社員から離職証明書の発行を求められた際には発行することが義務付けられています(労働基準法第22条第1項)。
退職証明書に決まった様式はないので、企業が独自で作成できますが、以下の内容は記載すべきとされています。
退職証明書に法的に記載すべきとされている内容
このとき、記載項目について発行前に社員に確認を取ると良いでしょう。「労働者が請求した項目以外を記載してはならない」と労働基準法第22条第3項によって定められているためです。労働者が請求しない項目については、法的に記載すべきとされている内容であっても記載の必要はありません。
離職証明書(雇用保険被保険者離職証明書)は、離職票交付のために企業がハローワークに提出する書類です。社員が離職票の交付を希望する場合、企業は離職証明書を作成し、ハローワークに提出する必要があります。
離職票と離職証明書の違い
離職証明書 |
離職票交付のために企業がハローワークに提出する書類。 既に再就職先が決まっているなど、従業員が離職票の交付を希望しない場合には、離職証明書の作成は不要。 ただし、退職する従業員が59歳以上の場合には、本人の希望の有無によらず、離職票の交付が義務付けられているため離職証明書の発行が必要。 |
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離職票 |
企業が提出した離職証明書と被保険者資格喪失届を基に、ハローワークが退職者に対して交付する書類。 退職者が雇用保険の失業給付を受けるときや、年金・健康保険の手続きを行うときに必要。 |
なお、離職票が手元に届くには、手続きから10日前後必要です。
退職所得の受給に関する申告書は、退職金を支給する場合に退職者が支給者に提出する必要がある書類です。退職金から税額を控除する際に必要です。
なお、退職金がもらえる条件は、法律による定めはなく、企業ごとの就業規則によります。退職金の支払日は、就業規則に定められている場合、その定めに従って支払います。特に決められていない場合、労働基準法第23条第1項により、退職金が労働基準法の賃金と認められている場合に限り、退職者が請求をすれば退職後7日以内に企業が退職金を支払わなければならないとされています。退職金の時効は、労働基準法第115条により5年です。
退職金を支給されたのに退職所得の受給に関する申告書を提出しなかった退職者は、退職所得控除が適用されず、退職金から所得税が徴収されます。しかし、確定申告をすることで納めすぎた所得税の還付金を受け取れます。
退職所得の受給に関する申告書は 国税庁のホームページ からダウンロードできます。
退職日までに、健康保険証および物品・貸出備品の回収と各希望書類などの受け渡しを行います。
社員から回収する物品の例
社員から回収する貸与品の例
なお、健康保険証を退職時に回収する理由は、健康保険・厚生年金被保険者資格喪失届の提出の際、本人および扶養親族の健康保険証の添付が必要となるためです。健康保険証を回収できない場合は、被保険者証回収不能届を添付する必要があります。
退職証明書、離職証明書の発行希望や退職金の受け取りがある場合は、このときに担当者から社員へ受け渡します。また、社員から入社時に年金手帳を受け取っている場合は、あわせて返却します。
退職者の社会保険(健康保険・厚生年金)の喪失手続きを行います。社員が退職した翌日から5日以内(提出期限が土日祝日の場合は土日祝日明けまで)に健康保険・厚生年金被保険者失格喪失届を、事業所を管轄する年金事務所に提出します。在職中に70歳以上に到達した従業員の場合は、専用の様式があるので注意しましょう。
退職者の雇用保険の喪失手続きを行います。
雇用保険の喪失手続きでは、退職日の翌々日から10日以内に雇用保険被保険者資格喪失届を、事業所を管轄するハローワークに提出します。離職票の発行を求められた場合や退職者の年齢が59歳以上の場合は、雇用保険被保険者離職証明書も一緒に職業安定所へ提出します。
雇用保険被保険者離職証明書提出時には、離職日以前の賃金支払状況などを確認できる書類としての出勤簿や賃金台帳、退職理由を証明するための書類としての退職届などの書類の添付が必要です。
ステップ4で健康保険被保険者資格喪失届を提出したあと、健康保険被保険者資格喪失確認通知書が発行され、企業に届きます。届いた通知書を退職者に送付しましょう。
なお、健康保険被保険者資格喪失確認通知書の送付には厳密には期限が決まっていません。ただし、健康保険被保険者資格喪失確認通知書は退職者が退職後に保険の切り替えをするために必要です。そのため、健康保険被保険者資格喪失確認通知書が企業の元に届いたら速やかに退職した社員に送付しましょう。
源泉徴収票と、希望があった退職者に対して離職票を送付します。
源泉徴収票とは、1年間の給与や賞与、控除額、納付した所得税額などが記載された書類です。退職した年の1月1日から最終支払給与までの額で、「退職源泉」と呼ばれる源泉徴収票を発行します。退職した社員が同年中に新たに職に就く場合は、その収入を合算し、新たな就職先が年末調整を行うため、退職する社員から就職先に退職源泉を提出します。
退職した社員が同年中に再就職しない場合は、年末調整がされないため、源泉徴収された所得税の合計額に過不足が発生します。よって、社員に、確定申告の手続きが必要ということを伝えましょう。
源泉徴収票は、以下からフォーマットのダウンロードができます。
離職票の送付を希望する社員に対しては、退職後、企業がハローワークへ「被保険者資格喪失届」と「被保険者離職証明書」の提出を行うことで、10日前後で以下の書類が交付されます。
このうち「被保険者資格喪失確認通知書」「被保険者離職証明書の本人控」を離職票として、退職者のもとへ郵送します。離職票が届いたら速やかに対応しましょう。
社員によって退職時に必要な手続きが異なるため、社員の状況によって、どのような手続きが必要か確認しましょう。
失業給付を受給できる条件は2つあります。
失業給付受給条件
また、退職の理由によって、失業給付が支給される条件や日数が変わります。
失業給付の支給条件と日数
自己都合の場合 |
以下の場合、90日~150日の間で給付が受けられる。
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会社都合の場合 |
以下の場合、90日~330日の間で給付が受けられる。
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なお、基本手当日額は、年齢と給与によって変わります。
財形貯蓄とは、従業員の財産形成を支援する福利厚生制度の1つで、以下の3種類があります。
企業に財形貯蓄制度がある場合の扱い
転職先に財形貯蓄の制度がある場合 |
退職から2年以内に手続きを行うことで、移換できる。 |
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転職先に税形貯蓄制度がない場合 |
退職後一定期間が経過すると課税扱いになる。 |
すぐに再就職しない場合 |
2年以内であれば、もとの金融機関に保管しておくことができる。一方で、転職して2年以内に積み立てを再開しなければ、利子など非課税の優遇措置がなくなり、課税扱いとなる。 |
企業側は本人に財形貯蓄を継続する意思の有無を確認しましょう。一定期間経過すると課税対象になるので、継続する意思があり、転職先に制度がある場合は、退職後半年以内に「退職等の通知」を金融機関にします。
社内融資とは、住宅の購入や資格取得などを支援するため、社内に設けている融資制度のことです。社内に社内融資制度があり、退職者が利用している場合、返済期間や返済残額を本人に確認し、社内の取り決めに沿って、残金の返済があれば手続きを行います。
ハローワークに「外国人雇用状況届出書」を提出します。外国人従業員の場合、在留資格の変更、更新のときや就労資格証明書の交付を申請するときに退職証明書が必要です。
アルバイト・パートの場合は、社会保険に加入していないことや納税をしていないこともあります。しかし、非正規雇用であっても、退職手続きに必要な対応や手順は正社員とあまり変わりません。
必要な手順
派遣社員の場合、派遣先が決まったときに企業と派遣社員の間で契約した期間を満了すれば退職できます。原則的に契約期間の途中で退職はできませんが、体調不良や契約内容と実際の業務内容に違いがある場合、家庭の事情などのやむを得ない事由がある場合は退職が可能な場合があります。
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