経済状況や年金の問題により、高齢者の再雇用制度は企業にとっても重要な課題となっています。定年を迎えた社員が引き続き貢献できる環境を整えることで、企業は貴重な人材を活かし続け、労働市場への貢献を図ることができます。
この記事では、再雇用制度の概要と、企業にとってのメリットについて解説します。
シニア社員の再雇用制度は、年齢にかかわらず高齢者が働き続けられる環境を整えるために企業で導入されている制度です。日本では、少子高齢化が進む中、労働人口の減少が顕著になり、シニア社員の再雇用が広がっています。
ここでは、シニア社員の再雇用制度が推進されている背景とその現状について説明します。
再雇用制度推進の背景として、人手不足が挙げられます。
日本の労働市場は、人口減少により慢性的な人手不足に直面しています。実際に内閣府の調査(2019)を見てみると、労働力について「不足している」と答えた企業の数が「過剰である」と答えた企業を大幅に上回っていることからも、深刻さがわかります。
引用:内閣府「令和元年度 年次経済財政報告 GDPギャップ、雇用人員判断DIの動向」
さらに、総務省統計局の調査結果を見ると、高齢就業者数は年々増加傾向にあることからも、需要の高まりがうかがえます。
引用:総務省統計局「2. 高齢者の就業」
長く勤めあげたシニア社員は、豊富な知識や経験を有します。そのため、再雇用を通じて即戦力を確保することが、人手不足を補う一手段として注目されているのです。
シニア社員の雇用に関する転換点は、2013年「高年齢雇用安定法」の改正です。これにより、「60歳未満のみを理由とした定年退職」が禁止されました。定年年齢を60歳以上としていても、65歳未満としている企業は、高齢者の65歳までの安定した雇用を確保するために、「65歳までの定年の引上げ」「65歳までの継続雇用制度の導入」「定年の廃止」のいずれかの措置(高年齢者雇用確保措置)を実施する必要があります。
厚生労働省の実施した調査「令和5年高年齢者雇用状況等報告」によると、65歳までの高年齢者雇用確保措置を実施済みの企業は99.9%です。うち「継続雇用制度の導入」を実施している企業は69.2%、「定年の引上げ」を実施している企業は26.9%でした。
さらに、66歳以上まで働ける制度のある企業は43.3%(前年比2.6ポイント増加)、70歳以上まで働ける制度のある企業は41.6%(前年比2.5ポイント増加)と、シニア社員を雇用する企業は少しずつ増えています。
ちなみに、厚生労働省のデータを見ると、60歳以上のシニア社員の約4割が「働けるうちはいつまでも働きたい」と考えており、長く働き続けることに意欲的です。シニア社員を雇用し続けることは、働き手にとっても企業にとっても良い制度であることが伺えます。
引用:内閣府「令和5年版高齢社会白書(全体版) 高齢化の状況」
シニア社員の雇用を確保する方法は、退職手続きの有無によって「継続雇用」と「再雇用」の2つに分かれます。それぞれについて詳しく説明します。
継続雇用制度とは、定年を迎えてもそのまま雇用契約を継続する形態です。勤務延長制度とも呼ばれます。
この制度では、給与水準や労働条件が定年前と大きく変わらないことが多く、シニア社員にとって働きやすい環境が維持されます。企業側も、新たな役割や環境を整備する必要がないため、比較的導入しやすい制度です。また、従業員にとっても、新しい仕事に適応する負担が少なく、モチベーションを保ちやすいという利点があります。
再雇用制度では、シニア社員が一度退職し、その後新たに雇用契約を結びます。このため、勤務時間や勤務日数、給与水準、業務内容が変わることが多く、企業のニーズに応じた柔軟な働き方が求められる場合が多いです。
待遇の決定方法は企業によって異なりますが、「働き続けたいが、以前と同じ条件では難しい。しかし、正規雇用で働きたい」と考えるシニア社員にとっては、希望に合った働き方が選択しやすい制度です。
ここまで再雇用制度の概要について説明してきましたが、再雇用制度には具体的にどのようなメリットがあるのでしょうか。再雇用制度には、企業側とシニア社員側の両者にとってのメリットがあります。
企業側のメリットは以下の3点です。
1つ目のメリットは、人件費や採用費などのコストを削減できる点です。
定年退職によって空いたポストを埋めるためには、新たに人材を採用し、求人募集や選考などに時間と労力を割く必要があります。しかし、定年退職を迎えた従業員を再雇用することで、これらの手間とコストを大幅に削減することが可能です。また、従業員の希望によっては、定年退職前よりも抑えた給与で再雇用を継続できる場合もあります。
2つ目のメリットは、長年の知識や経験を持つ人材を継続して確保できる点です。
定年退職を迎えた従業員は、勤続年数に裏打ちされた豊富な知識やスキルを持っています。新たに人材を採用して一から教育するよりも、既に経験を積んだ従業員を再雇用する方が、企業のパフォーマンス維持に直結します。
3つ目のメリットは、経験豊富な従業員が若手社員の指導役やロールモデルとして活躍できる点です。
シニア社員は、豊富な経験を活かして若手社員に業務の指導を行うだけでなく、その仕事ぶり自体が若手社員にとって良い手本となります。シニア社員と共に働くことで、若手社員の成長が促進され、組織全体のパフォーマンス向上にもつながります。
続いて、シニア社員側にとってのメリット3点を紹介します。
1つ目のメリットは、健康状態にあわせて働けるということです。
一度退職した後の再雇用契約では、退職以前とは異なる働き方ができます。勤務時間や日数を少なくしたり、負担の小さめな役職や業務内容などを選ぶことができます。
負担が小さくなれば、その分給与は退職前と比較して少なくなってしまいますが、高齢者でも無理せず健康的な働き方ができるという点は魅力的と言えるでしょう。
2つ目のメリットは、老後の生活への不安が軽減されることです。
昨今では、年金だけで暮らしていくことが困難なケースが多く見られます。
「老後2000万円問題」や「新NISA」などの話題からもわかるように、今後はシニアの就労が前提となる社会が予想されます。しかし、再雇用制度を利用すれば、定年退職後も働き続けることで、年金の不足や物価高騰による生活の不安を軽減し、安定した収入を得ることができます。
3つ目のメリットは、社会的なつながりを維持できることです。
多くの人が、年齢を重ねていくと社会的なつながりは薄れていく傾向にあります。しかし、企業で働き続けることで、職場の人とのつながりが維持され、社会的な孤立を防ぐことができます。
企業・社員どちらにとってもメリットのある再雇用制度ですが、導入時に注意すべき点が2つあります。
再雇用制度を導入する際は、就業規則に制度を明記し、全社員に周知することが重要です。
周知を徹底しないと、導入された制度を知らない社員が出てくる可能性があります。これでは制度の導入が無意味になり、企業と社員の両者が再雇用制度の恩恵を享受できなくなってしまいます。特に、シニア社員が制度を理解しやすい形での周知が必要です。
周知の方法として、例えばシニア社員向けの説明会やセミナーを開催し、制度の概要やメリット、具体的な利用方法を対面で説明する方法があります。質疑応答の時間を設けることで、不安や疑問点を解消でき、理解が深まるでしょう。また、個別相談会も実施し、個々の状況に応じた説明を提供することで、より理解が進みます。
シニア社員・企業両者の合意をもとに契約内容を確認・締結することも重要です。
再雇用時には、定年前と異なる雇用形態や給与となる場合が多いです。企業にとって都合の良い条件と、シニア社員が納得できる条件とを一致させた契約内容にすることが大切です。シニア社員が働きやすいように、業務内容だけでなく、福利厚生についても確認することをお勧めします。契約の更新は1年ごとに行われるのが一般的です。
ここまで再雇用制度の概要やメリットについて説明してきました。しかし、理解はできても具体的なイメージがわかない方もいるのではないでしょうか。
この章では、経団連の事例にも掲載されており、企業のプレスリリースでも紹介されている再雇用制度導入の事例を取り上げて紹介します。
アサヒグループでは、
の3つの施策が施行されています。
まず人事制度ですが、シニア社員は60歳で一度定年とし、65歳未満と65歳以上70歳以下の2つの区分でシニアスタッフとして位置付けられています。担う業務に応じて待遇を変えることで、柔軟性をもって仕事に対応できるようにしているのです。
また、シニアスタッフも対象として評価制度を実施。社員に適した業務内容や待遇を与えることで、従業員のモチベーションとそれに発生するコストのミスマッチを防いでいます。
シニア社員と本人のキャリアを相談する機会を設けることも、従業員の働き方に寄り添った施策と言えます。
参考:アサヒグループホールディングス「定年後再雇用制度を改定 最長70歳まで雇用を延長」
ダイキン工業株式会社では、再雇用制度の拡充が積極的に図られています。
56歳以上の従業員は「ベテラン社員」と呼ばれ、2030年にはベテラン社員の割合が25%となることが見込まれるほど、同社にとって重要な存在となっています。企業側はベテラン社員の活躍を推進するために、彼らの働きぶり・仕事の成果のヒアリング・評価に力を入れ、より活躍の場を提供できるように人材・リソースを調整しています。
参考:ダイキン工業株式会社「ベテラン層のさらなる活躍推進に向けて再雇用制度を拡充」
シニア社員の再雇用制度は、定年を迎えた社員が引き続き企業で働くための仕組みで、企業にとっても労働力確保の重要な手段です。日本では少子高齢化が進み、人手不足が深刻化する中、豊富な経験を持つシニア社員を再雇用することで、即戦力として活用しようとする風潮が強まっています。2013年の高年齢雇用安定法の改正により、65歳までの雇用確保が義務化され、企業の多くが再雇用制度を導入しています。
再雇用制度には、企業側のコスト削減や若手社員の育成、シニア社員の健康状態に応じた柔軟な働き方の実現などのメリットがあります。また、シニア社員は老後の収入への不安を軽減でき、社会的なつながりを維持することが可能です。
企業は再雇用制度を導入する際、制度を明確にし、社員に分かりやすく周知することが求められます。さらに、シニア社員と企業が納得できる契約内容を設定し、円滑に再雇用制度を運用することが大切です。
Q1.再雇用制度のメリットは何ですか? |
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再雇用制度には企業側とシニア社員側の両者にメリットがあります。 企業側にとっては、人件費や採用費などのコスト削減、長年の知識や経験を持つ人材の確保、そして若手社員の育成が期待できます。 一方、シニア社員側では、健康状態に合わせた柔軟な働き方が可能になり、老後の収入への不安を軽減でき、職場での社会的なつながりを維持できるという利点があります。 |
Q2.再雇用制度導入時に企業が注意すべき点は何ですか? |
再雇用制度を導入する際、企業は制度を明確に定め、全社員にわかりやすく周知することが重要です。特にシニア社員向けには、説明会や個別相談会を通じて理解を深める工夫が求められます。 また、再雇用時には雇用形態や給与が定年前と異なる場合が多いため、シニア社員と企業の両者が納得できる契約内容にすることが大切です。 |