諭旨退職とは|リスク・要件・注意点を解説

更新日:2023年06月21日
諭旨退職とは

「諭旨退職(ゆしたいしょく)」とは、企業が従業員に対して行う懲戒処分の1つで、​企業からの退職勧告に対し、​従業員自身が退職届を提出することによって実質的に解雇を行う処分です。

諭旨退職は最も重い処分である「懲戒解雇」に次ぐ処分で、一般的には、従業員の能力・適性・成績などに問題がある場合や、問題行動・トラブル・不祥事などがあった場合などに用いられます。

形式上は退職届を用いるとはいえ、実質的に諭旨退職は従業員に選択権のない解雇処分であるため、のちのトラブルにならないよう、客観的・合理的な判断やプロセスが重要です。

この記事では、諭旨退職の概要や適用時の注意点、対応方法について解説します。もしもの時に備えて、人事担当者または経営者にぜひ読んでいただきたい内容です。

諭旨退職とは、懲戒処分のうち自己都合扱いになる退職

「諭旨(ゆし)」とは「趣旨や理由をさとし告げること」(デジタル大辞泉)という意味です。

その言葉の通り、諭旨退職(ゆしたいしょく)とは、​企業が従業員に対して行う懲戒処分の1つで、​企業からの退職勧告に対し、​従業員自身が退職届を提出することによって実質的に解雇を行う処分です。

懲戒処分には以下の7つがあります。重い順に「懲戒解雇」「諭旨処分」「降格」「出勤停止」「減給」「けん責」「戒告」の順番です。

懲戒処分の種類

懲戒解雇は通常、企業から従業員へのペナルティとして行われるもので、労働者が手厚く保護されている日本において容易に行われるものではありません。従業員に由来する重大な不祥事や、勤務不良、トラブル、損害、犯罪などの特別な事情があった場合に行われます。

​諭旨退職は、懲戒解雇に次いで重い処分であり、こちらも懲戒解雇と同様に、特別な事情によって行われます。

諭旨退職と諭旨解雇の違い

諭旨退職と似た言葉に、諭旨解雇(ゆしかいこ)があります。これらの言葉について、簡単に整理しておきます。

そもそも諭旨退職も諭旨解雇も法律用語ではないため、企業によりさまざまに取り扱われています。結論から言えば、諭旨退職と諭旨解雇について、1つの企業で使い分けている例は稀なため、基本的にはどちらもほぼ同じ意味だと考えて問題ありません。

細かく言えば、諭旨解雇は従業員に退職届を提出させたうえで解雇する手続きであるのに対し、諭旨退職は従業員に退職届を提出させたうえで退職扱いとする手続きであると区別されることもあります。

この記事では、基本的に「諭旨退職」という表現で解説します。

諭旨退職と他の退職・解雇の違い

退職とは企業の一方的な意思表示によらず、労働契約関係を破棄することです。

退職は、本人の事情で従業員が申し出る「自己都合退職」と、企業の事情で退職させる「会社都合退職」に大きく分かれます。自己都合退職か会社都合退職かによって、失業保険の待機期間や給付日数などの受給条件に違いが生まれますが、諭旨退職はこのうち、自己都合退職に含まれます。

退職の種類

なお、解雇とは企業が一方的に従業員との労働契約関係を破棄することであり、自己都合である場合と会社都合である場合があります。

自己都合退職の種類

  1. 辞職:問題行動が確認されておらず、従業員の意志で辞める場合
  2. 依頼退職:従業員が問題を起こしているものの、それが重大でない場合の処分
  3. 諭旨退職:従業員が起こした問題が重大であるものの、懲戒退職にするほどではない場合にあたる処分
  4. 懲戒解雇:業務上横領や金銭的な不正行為が行われたときなど就業規則違反に対する解雇。もっとも重大な処分

特にまぎらわしい諭旨退職と懲戒解雇について、あらためて整理しておきましょう。

懲戒解雇は、従業員に由来する重大な不祥事や、勤務不良、トラブル、損害、犯罪などを理由に強制的に執行される処分であり、基本的には、退職金や解雇予告、解雇予告手当の支給はありません。解雇通知を受けたら即日解雇となるうえ、離職票の離職事由にも懲戒解雇であることが明記される、厳しい処分です。

一方、諭旨解雇は本来なら懲戒解雇に相当する理由があっても、過去の功績や貢献度などを理由に、企業の温情で処分を緩やかにするもので、離職票にも「自己都合退職」もしくは「諭旨退職」などと書きます。

なお、諭旨解雇とするか懲戒解雇とするかは、労働基準法による定めはなく、それぞれの企業の就業規則と労働契約書の内容にそって決定されます。

諭旨退職を行う企業の3つのリスク

諭旨退職の場合、企業が一方的に退職させる懲戒解雇と比べて企業のリスクは少なくなるとはいえ、懲戒解雇に次ぐ従業員の問題行動があったことを認めることになるのは間違いありません。

諭旨退職には、客観的・合理的な判断やプロセスが重要です。もし理由に対して処分が重すぎたり、脅迫や精神的な追い込みにより、従業員が自らの意志に反して退職届を提出していたりということが明らかになれば、企業に複数のリスクが生じます。具体的には以下の3つです。

1.訴訟リスク

諭旨退職が適切に行われなかった場合、従業員からの不当解雇訴訟や損害賠償請求訴訟に発展する可能性があります。

訴訟の対応が発生することで時間や費用、エネルギーが膨大に必要になる可能性があります。実際に訴訟により企業が敗訴になった例もあります。

企業の諭旨退職処分が無効と判断された例

事件の概要
職務外で車内痴漢行為をした、東京メトロ従業員に対して諭旨解雇させようとした東京メトロが訴えられ、敗訴した。
判決理由
着衣の上から触っただけで「処罰の対象となり得る行為の中でも、悪質性の比較的低い行為である」ということが指摘された。
その上で、事件がマスコミなどで報道されなかったことや、駅係員に懲戒処分歴がなかったということを踏まえれば、企業が鉄道企業として痴漢行為の撲滅に向けた取り組みを積極的に行っていた点を考慮しても諭旨解雇処分は重すぎるとして無効と判断された。

参考:全基連

法的リスクを恐れて必要な処分が下せなくなることは本末転倒ですが、理由が処分に対して相当であるかについては、第三者の意見も仰ぎながら判断すべきと言えます。

2.労働組合とのトラブル

対象となった従業員が、諭旨退職に対して不服があり個人対応が困難であると考えた場合、労働組合が代わって対応を行い、企業に団体交渉などが申し入れられるケースもあります。

もしこのときトラブルが生じれば、諭旨退職の対象となった従業員以外にも企業への不信を抱かせ、結果的に人材定着への悪影響を及ぼす可能性が生じます。

3.企業へのマイナスイメージ

諭旨処分が公になり、企業イメージが悪化する可能性があります。

処分理由によっては、従業員の問題行動を起こしてしまったコンプライアンスや内部統制への批判も生じうるでしょう。また、適切なプロセスで処分が行われていなかったとしたらますます批判やイメージ悪化が進み、消費者や株主、従業員、取引企業、採用者などから敬遠される可能性が生じます。

諭旨退職に求められる3つの要件

諭旨退職は法律用語ではないため、企業によって意味や対応方法が少しずつ変わります。ただし、過去の判例から労使間のトラブルを避けるためには、以下の3つの要件を満たす必要があると考えられています。

諭旨処分に求められる3つの要件

  • あらかじめ就業規則上の定めがあること
  • 就業規則が従業員に対して周知されていること
  • 「懲戒権の濫用」と「解雇権の濫用」に該当していないこと

このうち、3つ目に関して、イメージが付かない方も多いと思うので説明します。

そもそも企業は、企業の秩序を保つために従業員にペナルティを与えたり、解雇したりする一定の権利を持っていると考えられます。これが、懲戒権・解雇権です。しかし、これらはあくまで規則に則って行われ、また企業内の秩序維持などを越えて濫用されることがないようにしなくてはなりません。

もし行われた諭旨退職処分が「懲戒権の濫用」と「解雇権の濫用」に該当していると考えられた場合、もし明記・周知された就業規則に基づき諭旨退職が行われたとしても、裁判などで争点になった場合に諭旨退職が無効とされることがあります。

実際のところ、どのような場合に懲戒権・解雇権の適用が相当であると認められるかはケースバイケースであり一概に言うことは難しいのですが、以下に例を挙げます。

諭旨退職で争った例

諭旨退職が認められたケース
諭旨退職が認められなかったケース

諭旨退職を行う手順

前章で説明したとおり、諭旨退職が円滑に行われるためには「あらかじめ就業規則上の定めがあること」「就業規則が従業員に対して周知されていること」「『懲戒権の濫用』と『解雇権の濫用』に該当していないこと」の3つの要件を満たしていることが重要です。

これらを踏まえ、企業が従業員に諭旨退職を行う手順を整理すると、以下のようになります。

諭旨退職の手順

1.就業規則の規定・周知を確認する

まずは、就業規則の記載内容を確認します。以下の3つに関して就業規則に当てはまっていることを確認してください。

  • 諭旨退職についての記載が存在する
  • 諭旨退職における処分の内容が相当する
  • 従業員の問題点が諭旨退職の対象となる

また、就業規則が従業員に周知されていることをあわせて確認しましょう。これらの記載がなかったり、周知が不十分であったりする場合、諭旨退職を行う要件を満たさないため、有効性が失われかねません。

2.具体的な証拠を確保する

実際に処分を下すためには、従業員の問題点を裏付ける証拠が求められる場合があります。よく使われる書類には、以下があります。

  • 雇用契約書
  • 就業規則
  • 業務日報
  • 指導記録
  • メール

従業員に対して具体的な証拠が不足しているにもかかわらず、諭旨退職の処分を行うと、トラブルに発展した場合に企業に不利に働く可能性があります。

3.対象の従業員の意見を聞く機会を作る

諭旨退職の対象となる従業員の意見を聞いた上で、諭旨退職処分の可否を決定します。

対象となった従業員が自由に弁明できる環境を確保し、面談を行いましょう。従業員の弁明内容については面談記録を作成し、保存します。

4.諭旨退職の可否を決定する

具体的な証拠と該当の従業員の意見を揃えた上で、再度、就業規則の規定に照らし合わせ諭旨退職が適切か判断します。

この際、従業員に対し問題行動を改善する機会を与えたかどうか、上司や人事部などによる指導の有無が重要なポイントです。問題行動に対処したものの改善が見られなかったために諭旨退職を行ったという経緯を詳しく説明できるかなど、確認しましょう。

5.諭旨退職を通達し、手続きを行う

検討の結果、諭旨退職が相当となった場合は、懲戒処分通知書を交付して、従業員に諭旨退職を通達しましょう。

懲戒処分通知書には諭旨退職を実施する旨とその理由、退職届の提出期限などを記載します。また、期日までに退職届が提出されない場合に懲戒解雇を行う予定があれば、あわせて記載する必要があります。従業員の納得が得られれば、退職手続きを実行します。

基礎的なものになりますが、退社手続きについては「社員の退社手続きマニュアル|退社前から退社後までの手順とポイント」にも詳しくまとめていますので、不安のある方は合わせてご覧ください。

諭旨退職で従業員から想定される反論

論旨退職は懲戒解職と比べて軽いとはいえ、従業員の将来にわたって不利益を残す可能性のある懲戒処分です。諭旨退職の合意や細かい条件のすり合わせで想定される反論や要求について、大きなものは以下の3つです。

対策すべき従業員の反応

  • 不当解雇と主張し、解雇を無効にする
  • 不当解雇を理由とする損害賠償請求を行う
  • 退職金の満額支給・上乗せを要求する

これまでに解説したように、諭旨退職においては有効と判断されるための要件が存在します。就業規則にあらかじめ記載・周知されており、処分理由が合理的かつ客観的に妥当であれば、解雇の無効要求や損害賠償請求については必要なプロセスを行えば基本的には問題はないでしょう。

退職金については、所属する企業や法人の制度によるため一概には言えません。就業規則に記載されている、諭旨退職における退職金の規定に基づいて決定されるため、満額支給にするのかどうかも含め、あらかじめルールを一本化し、明記しておくことが重要です。

なお、ただ単に諭旨退職であるだけでは、退職金を減額・不支給とすることはできません。過去の判例で認められているのは、それまでの勤続を覆すほどの著しい問題行動があった場合です。この点を踏まえて、従業員の退職金の取り扱いを考えましょう。

論旨退職の3つの注意点

諭旨退職の実行にあたっては、以下の3つのポイントに特に注意が必要です。

  1. 情状酌量の余地があるかどうかを検討する
  2. 諭旨退職を適用させる理由を明らかにする
  3. 判断基準の設定や手続きは明確に不備なく行う

1.情状酌量の余地があるかどうかを検討する

諭旨退職の適用にあたっては、処分対象者の過去の貢献や反省の様子などから、情状酌量の余地を複合的に検討します。諭旨退職の前提となる就業規則の記載として「情状によって処分を加重または軽減する」といった文言の記述がある企業が多いためです。

もし従業員が問題行動やトラブルを起こしていたとしても、背景の要因として病気があるなどの場合には、情状酌量の対象になることがあります。

2.諭旨退職を適用させる理由を明らかにする

諭旨退職は、適用する理由を従業員に対して明らかにする必要があります。就業規則や労働契約書に明記されている事項に沿って従業員に伝えましょう。 諭旨退職は、懲戒退職に値するところを軽くした懲戒処分であるため、懲戒解雇に相当する理由が必要です。

3.判断基準の設定や手続きは明確に不備なく行う

諭旨退職を適用する際は、後に退職処分した従業員が訴訟を起こして裁判に発展する可能性を考える必要があります。企業は従業員の今後を考えて懲戒処分ではなく諭旨退職にしたつもりでも、従業員の視点に立つと到底解雇に相当するものでないと感じる場合もあります。

その場合、裁判での復職の要求や不当解雇による損害賠償を要求されることもあるでしょう。過去の事例では、判断基準の曖昧さや解雇の手続きに不備があった場合、解雇が無効とされたこともあります。自社のみで対応に不安がある場合は、事前に弁護士に相談するなど法的にも対処できる状態にしておくと良いでしょう。

諭旨退職でよくある質問

ここまでで諭旨退職の大枠を説明してきました。ここからは有給休暇の取得や退職金などの大きな流れには関係ないけれども、実際に諭旨退職処分を下していく中で気になるであろう点を解説します。

1.有給休暇の取得はどうなる?

従業員に諭旨退職処分をした場合も、諭旨退職は従業員は退職日または解雇日までは、有給休暇を取得する権利があります。

そのため、諭旨処分に応じて従業員が退職届を出して退職した場合は、その退職日までは有給休暇の申請があれば認めなくてはなりません。また、どんな解雇の場合も企業は原則有給休暇の申請を認める必要があります。

ただし、即日解雇の場合はその日のうちに雇用契約が終了することになるため、有給休暇の消化はできません。その場合は30日分の解雇予告手当を支払う必要があるほか、企業の義務ではないものの消化できなかった有給を買い取る(取れるはずだった有給分の賃金を支払う)場合もあります。

2.離職票の書き方は?

「雇用保険被保険者離職証明書」は、退職が決まった従業員が失業給付の手続きをするため離職票を請求できるようにする書類です。

3枚綴りの複写式となっており、1枚目が事業主控え、2枚目がハローワーク提出用、3枚目は退職者に渡す「離職票-2」です。

離職票-1と離職票-2

離職票1
離職票2

引用:厚生労働省「ハローワークインターネットサービス - 雇用保険の具体的な手続き

これらの書類はWebサイト上でのダウンロードができません。書類をハローワークの窓口で受け取って記載・提出するか、電子申請(e-Gov)で提出することになります。

基本的には企業の担当者が必要事項を記載しますが、下記項目は従業員に記載を依頼します。

離職票-1
  • 個人番号(マイナンバー)
  • 失業保険の基本手当を振り込んでほしい払渡希望金融機関(口座)
離職票-2
  • 離職理由欄
  • 具体的事情記載欄
  • 署名欄

基本的にありのままに記載すれば問題はありません。諭旨退職は自己都合退職であるため、離職理由欄には「労働者の個人的な事情により離職」、具体的事情記載欄は「自己都合(諭旨退職)」などのように記載し、署名しましょう。

まとめ|諭旨退職のリスクを踏まえ、周到な準備と抜けのない手続きを

​諭旨退職とは、​企業が従業員に対して行う懲戒処分の1つで、​企業からの退職勧告に対し、​従業員自身が退職届を提出することによって実質的に解雇を行う処分です。

諭旨退職は特別な事情があるときに行われる処分であり、適用にあたってはあらかじめ就業規則への記載や周知、また処分理由の合理性や客観性も必要です。適切な手続きが行われない場合、訴訟などに発展することも考えられます。

自社のみの対応で不安がある場合は、弁護士などの専門家に相談しながら、のちのちのトラブルにならないように慎重に手続きを行いましょう。

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