企業の事業主には、社員が労働中や通勤中に病気や怪我をした場合、補償責任があります。 想像以上に多額の医療費が必要になる場合もあり、もしものときのために労災申請について知っておくことが大切です。 この記事では、労災申請の流れから、必要書類や期日、よくある質問まで紹介します。
労働災害(労災)とは、労働者が就業したことによって被った負傷、疾病、死亡などを指します。雇用中の社員が、労働中や通勤中に病気や怪我を負った場合には、社会保険の一つである労災保険により補償を受けることができます。労災保険による補償は事業主の義務であり、会社に雇われている正社員からパートアルバイトまで、国籍を問わず日本国内で働く全ての従業員が対象です。(※なお、国家公務員や地方公務員は別の補償となりますが、この記事では扱いません)
社員が労災補償を受ける必要がある場合には、労働基準監督署長宛てに申請手続きが必要です。労災の認定基準を満たしていると判断されれば労災補償として労災保険給付が決定します。労災の対象は以下の3種類です。
◆労災の対象
1.業務災害
業務災害とは、労働者の業務上の負傷、疾病、障害又は死亡をいいます。勤務時間中に発生した場合のみ、業務災害として認定されます。
2.通勤災害
通勤災害とは、通勤中や移動中の負傷、疾病、障害又は死亡をいいます。ただし、通勤中や移動中に発生したすべてが通勤災害と認められるわけではなく、通勤災害の基準を満たしていると認められた場合のみ、通勤災害として認定されます。
3.精神障害
精神障害とは、業務上の原因から心理的負担を負い発症した精神疾患、死亡をいいます。精神障害が労災と認定されるには、以下などの基準を満たすことが必要です。
労災にあたる「業務災害」「通勤災害」「精神障害」のいずれかが発生したと思われる場合は、以下の4ステップで労災保険給付の申請(労災申請)を行えます。
労災が発生したと思われる場合、まずは、社員に医師の診察を受けてもらいましょう。正しい診断を受けることは、労災申請だけではなくその後の治療においても大切です。
この際、どこの医療機関に受診したかにより、治療費の支払いの有無や提出書類が異なります。
労災病院または労災保険指定医療機関で受診する場合、医療費が直接労災保険から支払われるため、無償で診察や治療を受けることができます。
病院または医療機関の窓口で労災であることを伝え、以下の書類を提出します。
提出する書類
これらの書類は、労働基準監督署で入手できます。もしくは、厚生労働省のホームページからダウンロードして入手できます。
労災保険指定医療機関以外で受診する場合、被災者が一時的に治療費全額を窓口で支払います。後日労働基準監督署に申請をすることで立て替えた治療費が支給されます。 治療費を請求する際には病院の領収書やレシートが必要になります。
治療費が高額になってしまった場合でも、一時的ではありますが、治療費を全額負担しなければならない点に注意が必要です。
以下の書類を、病院および事業主により署名等の証明を受けたあと、労働基準監督署に提出します。
提出する書類
これらの書類は、労働基準監督署で入手できます。または、厚生労働省のホームページからダウンロードして入手できます。
上記の他に必要な労災保険給付の請求書を入手し、必要事項を記入します。受けたい補償内容によって必要な書類は異なります。各補償に必要な書類については、次章「労災の補償内容」にて紹介します。
これまでに用意した書類(申請書類)を労働基準監督署へ提出します。申請書類は原則として被災者が直接提出します。しかし、被災者が自力で提出することができない場合、会社が提出することも可能です。
労災保険法施行規則23条1項
保険給付を受けるべき者が、事故のため、みずから保険給付の請求その他の手続を行うことが困難である場合には、事業主は、その手続を行うことができるように助力しなければならない。
給付申請内容について労働基準監督署の調査が行われ、給付が認められた場合、以下が行われます。
上記のステップで申請を行ってから給付決定までにかかる期間は以下の通りです。ただし、場合により期間が変わることがあります。
申請受付から給付決定までの期間
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おおむね1ヶ月 |
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おおむね3ヶ月 |
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おおむね4ヶ月 |
労災は、労働者が就業したことによって被った負傷、疾病、死亡などを指すため、その原因や災害内容は多岐にわたります。そのため、補償として給付される内容も、労災補償の種類によって変わります。したがって、労災の認定条件を満たしている場合、それぞれ適切な申請書類を用意しなければなりません。
ここからは、労災補償の種類、給付内容、必要な書類を紹介します。
各種労災補償の給付内容と必要な書類
種類 | 給付内容 | 必要な書類 |
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療養(補償)給付 |
指定医療機関にて無料で治療や薬剤の支給
指定医療機関等以外の医療機関や薬局等で療養を受けた場合に、療養にかかった費用を支給
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以下のいずれの場合に該当するかにより異なるため、詳しくはこちらを参照。
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障害(補償)給付 |
(障害等級第1級から第7級に該当する場合)
(障害等級第8級から第14級に該当する場合)
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障害(補償)等給付を請求する場合
診断書料を請求する場合
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休業(補償)給付 |
(単一事業労働者)
(複数事業労働者)
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遺族(補償)等給付 |
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葬祭料等 (葬祭給付) |
315,000円に給付基礎日額の30日分を加えた額の給付
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介護(補償)給付 |
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労災申請において気を付けなければいけない点として、申請には期限(時効)がある点があげられます。それぞれの給付によって期限が変わるので、申請を考えている方は注意が必要です。
申請手続きの期限
療養(補償)給付 | 療養費の支出が確定した日の翌日から2年 |
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障害(補償)給付 | 傷病が治った日の翌日から5年 |
休業(補償)給付 | 療養のため労働することができず賃金を受けない日の翌日から2年 |
遺族(補償)等給付 | 被災労働者が亡くなった日の翌日から5年 |
葬祭料等 (葬祭給付) |
被災労働者が亡くなった日の翌日から2年 |
介護(補償)給付 | 介護を受けた月の翌月の1日から2年 |
期限を過ぎてしまった場合は給付を受けることができないため、注意が必要です。
ここからは、労災申請についてよくある質問とそれに対する回答を紹介します。
雇用契約を結んでいる場合は、雇用形態に関わらず、派遣労働者、アルバイト、日雇い労働者など全ての社員が労災の補償対象です。
派遣労働者の場合は、派遣元か本人が申請します。しかし、派遣先にも労働基準監督署長への報告義務があるため、必ず派遣先に申請の旨を報告しましょう。
公務員は労災保険ではなく、「公務員災害補償制度」の対象です。 公務災害に認定されるには、「公務遂行性」および「公務起因性」の要件を満たす必要があるなど、労災保険とは異なる要件を満たす必要があります。そのため、公務員の方は公務災害の認定基準を確認する必要があるでしょう。
会社の役員や経営者は労働者に該当しないため、労災保険を利用することはできません。しかし、状況に応じて、補償することが適当と認められた場合には労災保険特別加入制度が利用できます。
雇用保険料は雇用主と労働者双方の負担ですが、労災保険料は会社の雇用主が全額負担します。
また、雇用主が支払う賃金総額と業種ごとに定められた保険料率により保険料は計算され、労働者が受け取る賃金により保険給付額は決定されます。
本人が労災申請をしたくないと希望する場合でも、一定の場合、事業主は労働基準監督署長に申請する必要があります。申請しない場合は労災隠しとなり、労働安全衛生法第100条違反として50万円以下の罰金が課せられます。虚偽の報告をした際も50万円以下の罰金が課せられます。
個人的な事情から、労災を申請したくないという人もいるかもしれません。しかし、法律で義務付けられているだけあり、申請しない場合は以下のようなデメリットがあります。
従業員:保険給付が受けられないため、治療費などが自己負担となる
雇用主:本来給付で補われるはずの費用を請求されることがある
また、労災申請は労災保険法施行規則23条により従業員の権利とされているため、会社が拒否することはできません。
使用者責任(民法第715条第1項)または安全配慮義務違反(労働契約法第5条、民法第415条第1項)により、給付の不足分は会社に請求することができます。
労災の申請は状況によって申請方法などが変わり、始めは難しいと感じるかもしれません。しかし、労災は会社の重要な責任の1つであるため、把握しておく必要があります。
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