近年、データ活用の重要性が高まる中、企業の人事領域においてもデータに基づいた客観的な観点からの意思決定が求められています。特に注目を集めているのが、「ピープルアナリティクス(People Analytics)」という概念です。
従業員に関する多様なデータを収集・分析し、採用すべき人材像を明確にしたり、人材育成のための研修制度を見直したり、評価精度や休暇制度の見直しにより組織運営の最適化を目指したりする手法として多くの企業が導入しています。
これまでの人事管理は、経験や勘に頼る部分が大きく、主観的な判断が介在しやすい傾向がありました。しかし、ピープルアナリティクスを導入することで、従業員の行動データやエンゲージメントデータ(仕事にやりがいを感じているか・生き生きと仕事ができているかを数値化したもの)などを活用し、より客観的で精度の高い意思決定が可能になります。
本記事では、ピープルアナリティクスの基本概念から、導入のメリット、成功事例、実際の活用方法、導入時の課題までを詳しく解説します。企業の人事戦略をデータの力で強化したいと考えている方は、ぜひ参考にしてください。
ピープルアナリティクスとは、従業員に関するデータを収集・分析し、採用、人材育成、組織運営の意思決定を科学的に最適化する手法です。従来の人事管理が経験や勘に頼る傾向があったのに対し、ピープルアナリティクスではデータを活用して客観的な判断を可能にします。
▼従来の人事管理とピープルアナリティクスの違い
従来の人事管理 | ピープルアナリティクス | |
---|---|---|
意思決定の基準 | 経験や勘 | データに基づく分析 |
評価の納得感 | 主観的な評価が多く、場合によっては納得を得にくい | 客観的な指標を活用するため、多くの従業員が納得しやすい |
施策の効果測定 | 効果測定がしにくい場合が多い | データを基に効果検証が可能 |
活用するデータ | 人事評価や勤怠など限られたデータのみ | 勤怠、エンゲージメント、採用面接での評価など、多様なデータを活用できる |
人事管理において客観的な判断を可能とするピープルアナリティクスにはどのようなメリットがあるのでしょうか。本章では導入のメリットを3つご紹介します。
従業員のパフォーマンスデータを分析することで、自社で活躍している人材の特徴を明確化するなどの方法で、採用基準の策定に役立ちます。また、適性や志向、パーソナリティといった要素も考慮することで、自社の社風や従業員の雰囲気とのマッチングする人材の採用にも一役買うことができるでしょう。
これにより、採用のミスマッチを減らし、企業に最適な人材を確保できるため、企業と就活生双方のメリットに繋がります。
さらに、大量の応募書類や応募者のデータを自動で分析することで、人的コストを削減することも可能です。
スキルやキャリア志向のデータを分析し、最適な研修プログラムを設計できます。さらに、適性診断を基に従業員を適切なポジションへ配置することで、組織全体での生産性向上が期待できます。
例えば、学習履歴やスキルテストのデータを活用し、個々の従業員に最適なスキル開発計画を策定することもできます。
ピープルアナリティクスにより、従業員の能力や成果が客観的に評価されるため、従業員の納得度とモチベーション向上に繋がります。これは、従業員の離職を防ぐことにも繋がります。
特に業績評価においては、過去のパフォーマンスデータや、複数人の関係者による360度評価の結果を組み合わせることで、より公正な評価を実現できます。
さらに、公平な評価により従業員のキャリアアップの機会が拡大する可能性もあります。
実際にピープルアナリティクスを導入する際の流れについて解説します。
まず、「離職率の低減」「採用の精度向上」など、ピープルアナリティクスを導入する目的を明確にします。
目的としては以下のような例があります。
目的に応じて必要なデータを収集します。勤怠記録、エンゲージメント調査、人事評価などを統合して管理します。
収集したデータは、必要に応じて欠損値の補完や外れ値の除去をする必要があります。
▼データの種類と活用例
勤怠データ | 長時間労働や休職リスクを予測し、働き方改革の施策を策定。 |
エンゲージメント調査 | 従業員の満足度やモチベーションを可視化し、組織改善に活用。 |
人事評価データ | 優秀な人材の特徴を分析し、育成プログラムに反映。 |
採用面接データ | 成功した採用パターンを分析し、面接の最適化を図る。 |
統計分析や機械学習を用いて、組織の課題や改善点を特定します。例えば、「エンゲージメントが低い従業員は一定期間後に退職しやすい」といった示唆を得ることができます。
ピープルアナリティクスを実践するためのツールとしては、以下のようなものがあります。
分析結果に基づき、改善のための仮説を立て、適切な施策を実施します。
例えば、研修制度の見直しや、休暇・評価制度の再構築など、データから浮かび上がった組織の課題を解決できる手段を検討し、実施するとよいでしょう。
施策の効果を定期的に評価し、必要に応じて改善を行います。これにより、PDCAサイクルを回しながら組織の最適化を進めます。
ピープルアナリティクスの実際の導入・成功事例が知りたい方向けに、日本企業における成功事例をご紹介します。
ソフトバンクでは、AIを活用した人材データ分析により、採用基準の精度向上を図っています。
具体的には、従業員の性格特性と配属先の適合性を数値化した「性格フィットスコア」を導入しています。これにより、適材適所の人材配置を実現し、従業員のキャリア形成をサポートしています。
ただし、ピープルアナリティクスのデータは補助的な役割を果たしており、最終的な配属決定は従業員のキャリア志向やモチベーションを重視しています。
日立製作所は、2018年からピープルアナリティクスを導入し、採用活動の改善に役立てました。具体的には、既存従業員を4つの人材タイプに分類し、新規採用の際に各人材タイプのバランスがとれるよう調整しています。
これにより、特定のタイプに偏っていた採用が是正され、多様な人材の確保に成功しています。
サイバーエージェントでは、新卒採用チームでピープルアナリティクスを活用しています。従業員が入社後にどのように活躍しているか、アンケートツールや個別面談を通じてデータを収集し、新卒採用の見極めに生かすことで採用の精度を高めています。
ピープルアナリティクスの精度は、データの品質に大きく依存します。不完全なデータや誤った情報が含まれると、分析結果に偏りが生じ、誤った意思決定につながる可能性があります。そのため、データの品質管理を徹底し、正確な情報を維持するためのシステムや手順を導入することが重要です。
データに欠損がないか、データ収集のエラーによる異常値がないかなど、データ全体が整合性をもっているか、よく確認する必要があります。
ピープルアナリティクスを有効活用するには、データ分析に関するスキルが不可欠です。しかし、多くの企業では人事担当者が統計やデータサイエンスの専門知識を持っていない場合が多いため、IT部門やデータアナリストとの連携が求められます。また、外部コンサルタントの活用や、従業員向けのデータ分析研修を実施することも有効な手段です。
従業員や応募者のデータを扱うため、プライバシー保護が大きな課題となります。個人情報の匿名化やデータアクセス権限の厳格な管理、適切なガイドラインの策定が必要です。また、従業員のデータ活用に対する理解を促すため、透明性のある運用方針を確立し、社内で適切に説明することも重要です。
ピープルアナリティクスは、データを活用して採用・育成・評価を最適化する強力な手法です。適切なデータ収集・分析を行うことで、組織のパフォーマンス向上に貢献します。しかし、導入にはデータ品質の維持、分析スキルの向上、プライバシー保護などの課題も伴います。これらの課題を克服し、データ活用の文化を醸成することで、企業は競争力を高め、より戦略的な人材マネジメントを実現できるでしょう。
Q1.ピープルアナリティクスとは? |
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ピープルアナリティクスとは、従業員に関するデータを収集・分析し、採用、人材育成、組織運営の意思決定を科学的に最適化する手法です。 |
Q2.日本企業の成功事例はありますか? |
あります。ソフトバンクや日立製作所などの例があります。詳しくは「日本企業の成功事例」をごらんください。 |