障がい者雇用とは|企業に求められる合理的配慮についても解説

更新日:2023年07月07日
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企業経営において、重要な資源である人材の雇用は必要不可欠です。従業員の雇用において注意しなければならないことは多数存在しますが、その中の1つが障がい者雇用です。

障がい者雇用は「障害者雇用促進法」に基づいており、一定以上の規模の企業は障害者法定雇用率を満たす義務が生じます。

とはいえ「実際に雇用したものの、どの業務を任せるか悩んでいる」「企業規模拡大に伴い雇用義務が生じたものの、どう配慮すべきかわからない」と考える担当者の方もいるのではないでしょうか。障がい者の雇用は、合理的配慮を行って適切に能力を引き出すことができれば、雇用した障がい者の方が、長く必要な戦力として活躍してくれるでしょう。

本記事では、障がい者雇用に係る法律や助成金、合理的配慮について解説します。

障がい者雇用とは、障がいを持った人だけの採用枠で雇用すること

障がい者雇用とは、事業主や自治体などが障がい者のみの採用枠で障がいを持った人を雇用することです。通常の雇用枠では、障がいを持った人が不利になってしまう場合もあるため、障がい者雇用が行われます。

障がい者雇用の法的根拠|障害者雇用促進法とは

障害者雇用において最も知られている法律が、「障害者雇用促進法(正式名称:障害者の雇用の促進等に関する法律)」です。障害者雇用促進法は、障害を持った方の雇用の安定化を図るために制定されており、現在では、障害者雇用促進法は身体障害のみならず、知的障害者・精神障害者も法律の適用対象となっています。

▼障害者雇用促進法で定めていること(一部)

  • 障がいを持った方に対し、職業生活の自立を実現するための職業リハビリテーション推進について
  • 事業主が障がい者を雇用すべき雇用率
  • 障害者差別の禁止
  • 障害者への合理的配慮の提供義務

参考:e-Gov法令検索「障害者雇用促進法(正式名称:障害者の雇用の促進等に関する法律)

障がい者雇用が義務となる企業は、年々増えています。そのため、現行では法定雇用義務の対象になっていなくとも、将来は対象になるケースもあるかもしれないため、こまめに確認する必要があるでしょう。

ちなみに、障害者雇用促進法は度々改正が行われています。直近では令和4年10月に改正が行われ、令和5年4月より、以下の内容が施行されました。

▼令和4年4月より施行された内容

  • 雇用の質の向上のための事業主の責務の明確化
  • 有限責任事業組合(LLP)算定特例の全国展開
  • 在宅就業支援団体の登録要件の緩和
  • 精神障害者である短時間労働者の雇用率算定に係る特例の延長(省令改正)

参考:厚生労働省「令和4年障害者雇用促進法の改正等について

障がい者雇用枠の条件と位置付け

障がいのある方を採用する場合は、必ずしも障がい者雇用枠で雇用する必要はありません。なぜなら、障がい者を雇用する際には、一般雇用枠と障がい者雇用枠の2種類が使えるからです。また、一般雇用枠の中でも、障がいの開示の有無によって、クローズド就労とオープン就労の2種類に分けられます。

なお、障がい者雇用枠に応募できる人の条件は、原則として自治体から発行された「身体障害」「知的障害」「精神障害」いずれかの区分の障害者手帳を所有していることです。以下に、一般雇用枠(クローズド就労、オープン就労)と障がい者雇用枠について、比較表にまとめます。

一般雇用枠
(クローズド就労)
一般雇用枠
(オープン就労)
障がい者雇用枠
障がいの開示 ×
障がい者手帳の有無 × × ◯(必須)
企業側の配慮(合理的配慮)の必要性 ◯(必須)

障がい者雇用には、複数の方法がありますが、職場への定着率には大きく差があります。厚生労働省の調査によると、障がい者の1年後における職場定着率は、「障害者求人」は70.4%であるのに対し、「一般求人(障害非開示)」だと30.8%と、倍以上の差が開いていることがわかります。

2305_FW02_1 障害者の職場定着率

引用:厚生労働省「障害者雇用の現状等

※就労継続支援A型:障害や難病のある人が、雇用契約を結んだ上で、一定の支援がある職場にて働ける福祉サービス

高い定着率を目指したいのであれば、障がい者雇用枠を活用するのがおすすめです。

障がい者雇用を行う上での基本知識

障がい者雇用を行ううえで欠かせない基本知識があります。ここでは、以下の4点について解説します。

  • 合理的配慮について
  • 障害者雇用率について
  • 障害者雇用納付金について
  • 助成金制度について

合理的配慮について

障害者差別解消法(障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律)」では、障がい者雇用枠で採用する場合には、それぞれの障がいを持った従業員に対して「合理的配慮」をする必要があると定めています。

合理的配慮とは、障がい者とそうではない人の間において、機会や待遇を公平にするため、社会参加の障壁となっている労働条件や環境を改善・調整するために必要な配慮のことです。「合理的配慮指針事例集(厚生労働省)」を見ると、合理的配慮の例がケースごとに紹介されています。

▼合理的配慮の例※表現を一部改変

障害の種類 合理的配慮の例
身体障害 視覚障害者に対し、面接時に盲導犬対応とした。
聴覚障害者と意思疎通できるよう、担当者が通信教育で手話を勉強している。
知的障害 製造ラインの採用を考えて実習を行ったところ、作業内容等が不向きであったため、本人の希望や適性を考慮して職種を清掃に変更して採用した。
担当者は目印をつけ(帽子に赤ラインを入れる等)、わからないことがあれば直ぐに聞くことができるようにしている。
精神障害 支援機関の職員から事前に本人の障害特性を確認しておき、面接時に本人に過度な負担がかからないように配慮した。
採用当初は担当者が指導し、本人が軌道に乗れば先輩の障害者と一緒に仕事を行うこととした。

障害者雇用率について

障害者雇用促進法によると、従業員が一定数以上の規模の事業主は、従業員に占める身体障害者・知的障害者・精神障害者の割合を「法定雇用率」以上にする義務があります。(障害者雇用促進法43条第1項)

民間企業が雇う必要がある障がい者の割合は、以下のとおり順次引き上げられる予定になっています。雇用義務を履行しない事業主には、ハローワークより行政指導が行われます。

▼民間企業が雇う必要がある障がい者の割合

年月 割合
2024年3月まで 従業員が43.5人以上の企業で、2.3%
24年4月から26年7月まで 従業員が40人以上の企業で、2.5%
26年7月から 従業員が37.5人以上の企業で、2.7%

障害者雇用納付金について

障がい者を雇用する場合、勤務場所の環境を整えたり、個別の雇用管理を行ったりと、企業にもある程度のコストが生じるものです。そこで、障がい者を多く雇用している事業主の負担を軽減し、負担の公平を図りつつ、障害者雇用の水準を高めるために、「障害者雇用納付金制度」が設けられています。

障害者法定雇用率に達しない企業が支払う納付金金額は、不足1名に対して月額5万円で、その納付金は法定雇用率を達成している企業に分配されます。

▼障害者雇用納付金の概要

  • 法定雇用率を未達成の企業のうち、常用労働者100人超の企業から、障害者雇用納付金が徴収される
  • この納付金をもとに、法定雇用率を達成している企業に対して、調整金、報酬金を支給する
  • 障害者を雇い入れる企業が、作業施設・設備の設置等について一時に多額の費用の負担を余儀なくされる場合に、その費用に対し助成金を支給する

参考:厚生労働省「障害者雇用納付金制度の概要

なお、障害者雇用納付金についてさらに詳しく知りたい方は、「障害者雇用納付金について(独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構)」をご覧ください。

助成金制度について

障害者雇用に係る助成金制度には、さまざまなものが存在しています。

例えば、代表的な助成金制度には、障がい者の法定雇用率を達成している企業が対象の「障害雇用調整金」があります。これは、常時雇用労働者が100人を超える企業で、法定雇用率を超過した企業には、1人あたり月額2.7万円の調整金が支給されるものです。

また、企業が障害者雇用を行う場合、一般者の雇用より金銭的な負担が強いられることが珍しくありません。その負担を軽減するために、さまざまな助成金が用意されています。

▼障がい者雇用助成金の例

名称 適用されるケース 受給目安
障害者雇用助成金 障がい者の雇い入れや雇用の継続にあたり、事業主が施設整備など特別な措置を講じなければならない場合 なし
障害者職場実習支援事業 障がい者雇用経験がない事業主が、ハローワークなどと協力して職場実習を実施した場合 実習対象者1人あたり「日額5千円×実習日数」
トライアル雇用助成金 障がい者を原則3ヶ月間試行雇用する、「トライアル雇用」を実施する場合 月最大4万円程度

これらの助成金について詳しくは、「障害者を雇い入れた場合などの助成(厚生労働省)」をご覧ください。

また、助成金を考慮するには、実際労働時間も考慮する必要があることに注意しましょう。これは、助成金を受けるにあたり、障がい者の労働時間によって実雇用率が変化して、受給額も確定するためです。

障がい者雇用を行う4つのステップ

厚生労働省職業安定局の調査によると、雇用にあたっての課題として、以下の内容が上位に上がっています。下記の課題を解決できれば、障がい者雇用を成功させられる可能性が高まるでしょう。

▼障がい者雇用にあたっての課題

  • 適当な仕事がない
  • ノウハウがない
  • 配慮が適切にできるかわからない

参考:厚生労働省職業安定局「平成30年度障害者雇用実態調査結果

本章では、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構の示す障がい者雇用のステップをベースに、障がい者雇用の課題を解決するためのポイントを解説します。

2305_FW02_2 障害者雇用のステップ

引用:独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構「障害者雇用のステップ

1.障がい者雇用について理解する

障害者雇用を具体的に進める前に、まずは障害者雇用について理解を深めましょう。厚生労働省職業安定局の調査によると、障がい者の主な退職理由は、以下の3つでした。

▼離職者の主な退職理由

  • 賃金、労働条件に不満(32.0%)
  • 職場の雰囲気・人間関係(29.4%)
  • 仕事内容があわない(24.8%)

参考:厚生労働省職業安定局「平成25年度障害者雇用実態調査結果

これらの理由に共通することは、障害者と雇用者双方が、事前に互いの理解を深められなかったことと考えられます。そのため、障害者と雇用者が互いに理解を深め、必要な配慮をすることが大切です。

また、障害者雇用促進法や各種助成金など、障害者雇用に関する制度は多数存在しています。各種制度の活用とあわせて、雇用者やその社内で理解を深めることが重要です。

2.採用計画を立てる

障害者雇用の採用計画を立てる際は、障害の種類によって特性が大きく異なることに留意しなければなりません。

例えば、「平成30年度障害者雇用実態調査結果(厚生労働省職業安定局)」によると、身体障害者と知的障害者、精神障害者のそれぞれで、最も多い職業は異なっています。

▼障害者の種類と最も多い職業

障害者の種類 職業の種類 割合(%)
身体障害者 事務的職業 32.7%
知的障害者 生産工程の職業 37.8%
精神障害者 サービスの職業 30.6%

一人ひとりの特性によっても異なりますが、障がいの特性と合致した業務を任せることで、企業にとっても定着率向上が見込めますし、障がい者自身も安心して業務に携わることができるでしょう。

自社の業務内容と、障害の特性に合致した職業を照らし合わせ、どのような部分なら採用できそうか、活躍してくれそうか考えてみましょう。

3.募集のための準備をする

募集内容を決定したら、募集要項をどこに掲載するか決定します。ハローワークや求人サイトはもちろん、場合によってはSNSなどで募集することも検討してもよいかもしれません。

また、志願者への採用試験や採用決定通知方法、さらには受け入れ体制の整備なども、行っておきましょう。このとき、支援機関であるハローワーク地域障害者職業センター障害者就業・生活支援センターなどと連携することが効果的です。

4.職場定着のための取り組みを行う

障がい者が入社しても、職場に定着して長く活躍してもらえなければ意味がありません。そのため、人材育成の視点をもって、職場に定着できるように支援を行いましょう。障がい者本人が周囲と密なコミュニケーションをとれる環境を設定し、常に必要な配慮などについて確認することが大切です。

まとめ|障がい者雇用へ対応が必要な企業は増加

2023年6月現在、障害者雇用促進法により、従業員43.5人以上の事業主は2.3%以上の障がい者雇用が義務付けられています。また、障がい者雇用が義務付けられる範囲は、今後も拡大傾向にあります。そのため、これまで以上に多くの事業主にとって、障がい者雇用への理解を深めることが重要です。

障がい者雇用にあたっては、合理的配慮やどのような仕事を任せていくかなどに気をつけなければなりません。障がい者雇用について悩むことがあったら、ハローワークや地域障害者職業センターといった支援機関と連携し、解決策を模索していくとよいでしょう。

よくある質問

Q1.障害者雇用促進法とは?

障害者雇用促進法とは、障がいを持つ方の雇用の安定化を図るために制定されている法律です。主に、事業主が障がい者を雇用すべき雇用率や、差別の禁止などを定めています。
現在では、身体障害に加えて、知的障害者・精神障害者も法律の適用対象です。

Q2.合理的配慮とは?

障がい者とそうではない人で、機会や待遇を公平にするため、社会参加の障壁となっている労働条件や環境を改善・調整するために必要な配慮のことです。
障害者差別解消法では、障がい者雇用枠で採用する場合には、それぞれの障がいを持った従業員に対して「合理的配慮」をする必要があるとしています。
例えば視覚障害者に対し、面接時に盲導犬対応とすることや、知的障害者の受入時に、教育担当者の帽子に赤いラインを入れて一目でわかるようにすることが挙げられます。

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