障がい者雇用とは、企業が障がい者向けに採用枠を設け、障がいを持った人を雇用することです。採用後は障がい者の特性を活かした業務を割り振ることで、仕事で成果を出してもらい、最終的な企業の生産性向上につなげられます。
その他にも「人材不足を解消できる」「ブランドイメージをアップできる」といったメリットがあるのが、企業にとって魅力的なポイントです。
一方で、障がい者雇用は一般就労より注意点が多いため「具体的な雇用方法がわからない」「企業規模拡大に伴い雇用義務が発生したが具体的な配慮の方法がわからない」と感じている企業もあるはずです。
そこで本記事では、障がい者雇用を実施する際の基礎知識や具体的なステップ、円滑に雇用するための施策などについて解説します。
目次
障がい者雇用とは、企業や自治体などの組織が「障がい者向け」の採用枠を設け、障がいを持った人を雇用することです。
通常の雇用枠では、「体が不自由なため活動範囲が限られる」「精神的に過度なプレッシャーの仕事に耐えられない」といった理由で、採用時に障がい者が不利になる場合もあります。しかし、障がい者の特性を活かし適切な業務を割り振れば、本人のスキルを十分発揮してもらうことが可能です。
このように、障がいを持った人でも平等に採用されることを目的として「障がい者のみ」に採用枠を絞って雇用しています。
障がい者雇用の対象者は、以下のように定められています。
障がいの内容によって対象者の定義が異なるため、採用前に必ず確認してください。
参照:厚生労働省「障害者雇用のご案内 p.4」
障がい者雇用と一般雇用には、以下の違いがあります。
障がい者雇用は、企業が障がいの内容を了承したうえで採用します。そのため、従業員は「勤務時間を柔軟に調整してもらう」「業務量を減らしてもらう」といった配慮を受けやすい点が特徴です。ただし、一般雇用より募集職種が限られる傾向にあります。
一方で、一般雇用は、障がいの有無にかかわらず企業の応募条件を満たせば誰でも利用できます。障がい者でも応募できるため、就ける職業の幅は広がりますが、障がいを持たない人と一緒に仕事をするため、「周囲はこなせている業務を自分はできない」と苦しさを感じる可能性があるのには注意が必要です。
上記のように「障がいを持っているから必ず障がい者雇用枠で採用しなければいけない」ということはありません。あくまでも「応募者本人が障がい者枠での雇用を希望するか?」という点が重要です。
また、一般雇用枠は、障がいを開示する「オープン就労」と、開示しない「クローズド就労」の2種類に分けられます。以下の表は「一般雇用(オープン就労・クローズド就労)」と「障がい者雇用」についてまとめたものです。
一般雇用枠(オープン就労) | 一般雇用枠(クローズド就労) | 障がい者雇用枠 | |
---|---|---|---|
障がい者手帳の必要性 | 不要 | 不要 | 必要(必須) |
障がいの開示 | 必要 | 不要 | 必要 |
企業側の配慮(合理的配慮)の必要性 | 企業の裁量による | 企業の裁量による | 必要(必須) |
表で示したように障がい者を雇用する際は、複数の方法から選択できます。どの方法を選ぶかによって「障がい者の定着率」が大きく変わるため、採用前に必ず確認してください。
以下のグラフは厚生労働省の調査による、障がい者の1年後における職場定着率を雇用枠別に示したものです。
引用:厚生労働省「障害者雇用の促進について関係資料 p.37」
グラフからも分かるように障がい者雇用枠の場合、定着率は70.4%、一般雇用枠(クローズド就労)の場合30.8%となります。
また、障がいの開示の有無によって定着率が大きく異なるため、長く働いてもらえる人材を確保し続けるのであれば、障がい者雇用枠の活用がおすすめです。
※就労継続支援A型:障害や難病のある人が、雇用契約を結び一定の支援がある職場で働く福祉サービス
先述した障がい者雇用を支えている法律が「障害者雇用促進法(正式名称:障害者の雇用の促進等に関する法律)」です。障害者雇用促進法は、障がい者の雇用安定化を目的に制定されていて、「身体障がい者・知的障がい者・精神障がい者」が適用対象です。
障害者雇用促進法で定めている内容として、以下のような例が挙げられます。
参照:厚生労働省「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律等の一部を改正する法律の概要」
障がい者雇用が義務付けられている対象企業(後述)は、年々増えています。そのため、現行では法定雇用義務の対象外でも、将来は対象になる可能性もあるため、法改正などをこまめに確認してください。
実際に障害者雇用促進法は、度々改正されています。直近では、令和6年4月より以下の内容が施行されました。
参照:厚生労働省「令和4年障害者雇用促進法の改正等について」
障がい者雇用を検討している企業は、以下の基礎知識を押さえておきましょう。
障害者雇用促進法では、障がい者雇用枠で採用する場合、「障がいを持った従業員に合理的配慮を行う必要がある」と定めています。
合理的配慮とは、障がい者と一般就労者の間で、就労機会や待遇面などで不合理な壁が発生しないよう「労働条件の改善」「職場環境の調整」といった取り組みを行うことです。
「合理的配慮指針事例集(厚生労働省)」では、合理的配慮の例がケースごとに紹介されています。
障がいの種類 | 合理的配慮の例 |
---|---|
身体障がい | 面接時に、視覚障がい者に対し盲導犬対応を行う |
聴覚障がい者と意思疎通できるよう、担当者が通信教育で手話を勉強する | |
知的障がい | 「製造ライン」での採用を考え実習を行ったが、作業内容が不向きであったため、本人の希望や適性を考慮して職種を清掃に変更した |
従業員の担当者には目印を付けることで(帽子に赤ラインを入れるなど)、わからないことをすぐ質問できる体制を整備した | |
精神障がい | 支援機関の職員から事前に本人の障がい特性を確認し、面接時に本人に過度な負担がかからないよう配慮した |
採用当初は担当者が指導し、本人が仕事に慣れれば先輩の障がい者と一緒に仕事をできるようにした |
障がい者雇用を行う際は、従業員の障がいや特性などを考慮し「具体的にどんな合理的配慮を行うべきか?」を考えることが必要です。
従業員が一定数(法改正によって変動)以上の企業では、「障害者雇用促進法43条第1項」によって、従業員に占める障がい者の割合を「法定雇用率」以上に引き上げる義務が定められています。
民間企業の法定雇用率は、以下のように順次引き上げ予定です。
時期 | 法定雇用率 | 対象企業 |
---|---|---|
令和6年4月〜令和8年6月 | 2.5% | 従業員が40人以上 |
令和8年7月〜 | 2.7% | 従業員が37.5人以上 |
雇用義務を達成しない事業主には、ハローワークより行政指導が実施されます。
参照:厚生労働省「障害者の法定雇用率引上げと支援策の強化について」
従業員100人を超える企業が上記の法定雇用率を達成できない場合、「障害者雇用納付金」を支払わなければいけません。納付金額は、不足1名に対して「月額5万円」です。納付金は障害者雇用調整金や報奨金などの財源に回されて、最終的に法定雇用率を達成している企業へ分配されます。
参照:高齢・障害・求職者雇用支援機構「障害者雇用納付金制度の概要」
障害者雇用を行っている企業は、毎年「6月1日時点の障がい者の雇用状況」の提出が義務付けられています。なお、対象は「常時雇用する従業員が40人以上」の企業で、毎年7月15日頃までに返送が必要です。
雇用している障がい者数が0人であっても、対象企業であれば報告義務が発生するため注意しましょう。
具体的な提出方法などは、厚生労働省が「障害者雇用状況報告書の提出義務と提出方法等について」で解説しています。
参照:
厚生労働省「令和6年高年齢者・障害者雇用状況報告の提出について」
厚生労働省「5.障害者雇用に関する届出」
障がい者を5人以上雇用している企業は、規定の人数に達成してから3ヶ月以内に「障害者職業生活相談員」の選任が必要です。障害者職業生活相談員に任命された人は、職場内で障がい者の仕事全般に関する相談を受ける業務にあたります。
また、選任後に、障害者職業生活相談員は、ハローワークに「障害者職業生活相談員選任報告書」を提出する必要があります。
具体的な選任の要件など詳細を知りたい方は、厚生労働省の「障害者を雇用する上で必要な3つの手続きをご存知ですか?」をご覧になってみてください。
一定以上の規模を持つ企業には、障がい者雇用の実施が義務付けられています。実際に採用する際は「職場環境の整備」「報告書の提出」といった手続きが発生するため、もしかするとハードルの高さを感じるかもしれません。
一方で、積極的な障がい者雇用には、企業にとって以下のような多くのメリットがあります。
企業の成長にもつながる障がい者雇用のメリットを詳しくみていきましょう。
日本は、主な労働力である15〜64歳の数が「2040年に6,213万人→2070年に4,535万人」にまで減少するというデータから分かるように、労働力不足が課題です。
障がい者雇用を行い採用する人材の幅を広げることは、人材不足の解消につながります。一般枠に加えて、積極的に障がい者採用を進めれば、より多くの人材を確保できるはずです。
参照:厚生労働省「人口減少社会への対応と人手不足の下での企業の人材確保に向けて p.2」
症状の程度にもよりますが、下記のようにそれぞれの特性に合わせた業務を振り割ることで生産性の向上が期待できます。
例えば、繰り返しの業務で高い集中力を発揮するのであれば、組み立てや清掃などルーティン化しやすい仕事を割り振ることで、高い成果を残せます。
障がい者本人が成果を残しスキルアップできれば、最終的に企業全体の生産性を向上させることが可能です。
参照:厚生労働省「発達障害の特性(代表例)」
障がい者雇用を積極的に行うことで「多くの人が活躍できるよう配慮している企業だ」と世間の方から認知してもらえる可能性があります。障がい者雇用により、企業イメージが向上すれば、消費者から質だけでなく社会貢献度の高さといった理由で、製品やサービスを選ばれやすくなるかもしれません。
また、ブランドイメージの向上は、採用活動でも有利に働きます。障がい者の雇用を創出するだけでなく、一般就労の応募者からも「社会貢献度が高い企業だ」と魅力を感じてもらえるのも障がい者雇用の魅力です。
障がい者雇用を推進することで、さまざまな助成金や税優遇を利用できる点も大きなメリットです。助成金制度や税優遇としては、以下が挙げられます。
助成金や税優遇の名称 | 概要 |
---|---|
キャリアアップ助成金(障害者正社員化コース) | 「有期雇用の障がい者を正規雇用労働者に転換する」といった措置を行う企業に助成金を支給する |
障害者作業施設設置等助成金 | 障がい者が作業を容易に行えるよう職場環境を改造した際に、必要な費用の一部を助成する |
助成金の非課税措置 | 指定の助成金を支給してもらい、固定資産の取得や改良に使った場合、該当の助成金分は「損金算入(法人税)」あるいは「総収入金額に不算入(所得税)」として処理できる |
障がい者雇用を行う場合、職場環境の整備や施設の改築などが必要なため、一般就労で雇用するより金銭的な負担が増えることも珍しくありません。しかし、上記の助成金や税優遇を活用すれば、自社の負担を軽減しつつ、積極的に障がい者雇用を展開できます。
上記の助成金や税優遇の詳細については、厚生労働省「障害者を雇い入れた場合などの助成」「税制優遇制度のご案内」をご覧ください。
障がい者雇用を検討しているものの、「何をすればよいか分からない」「対応に困っている」という企業は多いはずです。そこで障がい者雇用に向けた具体的な5ステップを紹介します。
上記のステップは厚生労働省「障害者雇用のご案内 p.6」を参照としています。各ステップの詳細も記載されているため、必要に応じてご確認ください。
厚生労働省職業安定局の調査によると、障がい者の主な退職理由は、以下の3つでした。
参照:厚生労働省「障害者雇用の促進について関係資料」
上記が発生した原因の1つとして、「障がい者と企業の双方が事前にお互いの理解を深められなかった」という点が挙げられます。そのため、最初に社内で障がい害者雇用について理解を深め「どんな配慮が必要なのか?」「どのようにコミュニケーションを取るべきなのか?」といった点を把握することが大切です。
障がい者雇用への理解を深める方法としては、例えば以下が挙げられます。
他にも障害者雇用促進法や各種助成金など、障がい者雇用に関する制度についても理解を深め、適切に活用できるよう準備しましょう。
障がい者雇用に関する理解を深めたら、「割り振り業務・配置部署・雇用条件」を検討してください。割り振り業務や配置部署は、以下のように障がい者の特性や事情を踏まえて決めることが大切です。
上記はあくまで一例であり、具体的な特性はそれぞれ異なります。個人ごとの障がい特性を丁寧に考慮しマッチした業務を任せることで、従業員は安心して就労できるようになり、最終的な定着率も向上します。
自社の業務内容と障がい特性を照らし合わせ、「どの部分なら採用できるか?」「どんな業務なら一番活躍できるか?」という点を考えてください。そして必要なら地域障害者職業センターなどの支援機関からアドバイスを受けることが大切です。
雇用条件は、上記の業務内容を考慮したうえで適切な給与を定めてください。
業務や条件面を整備した後に実施したいのが、職場環境の改善です。職場環境の改善例としては、以下が挙げられます。
場合によっては施設自体の改装が必要になるため「障がい者を雇用した企業向けの助成金や税優遇を利用できる」で紹介した助成金を活用し、なるべく自社の負担を軽減することが大切です。
障がい者雇用の採用活動としては、以下のような方法が有効です。
また、ハローワークで求人を出して待つだけでなく、「障害者就職面接会への参加」「専門機関との連携」などを積極的に行うことで、求職活動中の障がい者と一度に会えるため、求める人材を確保できる可能性が高くなります。
ハローワーク経由で雇用した場合、特定求職者雇用開発助成金などの支給対象となる場合があるため、合わせて確認してください。
障がい者が入社しても、職場に定着して長く活躍してもらえなければ、せっかくの採用活動や改装などが無駄になってしまいます。そのため、採用後も以下のようなアクションを起こし、職場に定着できるよう支援を行うことが大切です。
このように、企業が知識を身に付けたり障がい者本人と密にコミュニケーションを取ったりすることで、常に必要なサポートを提供できる環境を整えてください。
最後に、障がい者雇用を円滑に進めるための具体的な施策をまとめました。積極的な障がい者雇用の実施を検討している企業は、ぜひ参考にしてください。
業務や配置部署などを決める際は、以下のように「障がい者の特性にマッチした仕事」を割り振ってください。
個人の障がい特性を踏まえた業務を割り振ることで、企業の生産性が向上するだけでなく、従業員本人もやりがいを感じられます。
割り振った業務に関するミスマッチを減らすには、定期面談を行い「今の業務にやりがいを感じるか?」「過度な負担になっていないか?」などを確認することが大切です。もし、本人が別の業務にチャレンジしたいと希望するのであれば、OJTなどを活用しスキルアップのサポートを行ってください。
採用した障がい者の症状に合わせ職場環境を整備することで、より安全に働けます。
上記のような取り組みを行い、従業員が「自分の安全をしっかり考えてくれている」と実感できれば、企業への愛着心がアップし定着率の改善につながります。
以下のような施策を講じることで、社内の障がい者雇用に対する理解を深められます。
既存の従業員と「障がい者とのコミュニケーション方法」「業務内で行うべき配慮」といった内容を共有し、理解を深めることで社員全員が働きやすい環境を整えられるはずです。
障がい者雇用では、該当の従業員に対する配慮だけでなく、一般就労の従業員へのフォローが必要です。
一般就労の従業員には「仕事に取りこぼしがないかチェックする」「必要に応じて身体介助する」など、さまざまな場面でサポートが求められます。
どれだけ経営陣が障がい者雇用に向けて意欲を持つだけでなく「障がい者へのフォローの姿勢をきちんと評価に組み込む」「面談で定期的に企業への要望をヒアリングする」などを行い、一般就労の従業員へ負担が偏らないよう意識しましょう。
障がい者雇用についての疑問点があれば、以下のような専門機関に相談して、適切な対処方法を教えてもらうことが大切です。
上記以外にも、厚生労働省のサイトで障がい者雇用に関する相談先を掲載しているため、合わせて確認してください。
障がい者雇用には「人材不足解消」や「ブランドイメージ向上」といったメリットがあり、特性に合った業務を任せることで生産性向上も期待できます。
また、障がい者雇用を実施するとき「具体的にどのような合理的配慮を行うか?」「どのような仕事を任せるべきか?」などの悩みを解決するための具体的な方法も本記事では解説しています。
記事全体に目を通すことで、障がい者雇用の基礎を押さえたうえで、採用の準備をしましょう。
Q1.障害者雇用促進法とは? |
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障害者雇用促進法とは、障がい者の雇用安定化のために制定された法律です。障がい者の法定雇用率や合理的配慮の方法などを定めています。「身体障がい者・知的障がい者・精神障がい者」が法律の適用対象です。 |
Q2.合理的配慮とは? |
障がい者と一般就労者の間で、就労機会や待遇を公平にするため、労働条件の改善や環境の調整などに取り組むことです。障害者差別解消法では、障がい者雇用枠で採用する場合、「障がいを持った従業員に合理的配慮を行う必要がある」と定めています。例えば「視覚障がい者が面接する際は盲導犬対応とする」「知的障がい者を受け入れる際は教育担当者の帽子に赤いラインを入れて一目でわかるようにする」などが挙げられます。 |
Q3.一般雇用との違いは? |
一般雇用との違いは以下の通りです。
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Q4.障がい者雇用枠で採用できる従業員は? |
障がい者雇用では、以下の対象者を採用できます。
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