ジョブクラフティングの理論と実践|組織への導入法と効果測定

更新日:2025年04月24日
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働き方や価値観の多様化が進む現代において、従業員のワークエンゲージメント向上や主体的なキャリア開発を促進する取り組みとして注目されているのが、仕事のやりがいや充実感に着目した「ジョブクラフティング」です。

この記事では、ジョブクラフティングの理論的背景から実践方法、組織への導入法、そして効果測定に至るまで体系的に解説します。

ジョブクラフティングとは

ジョブクラフティングとは、従業員が自らの仕事内容・仕事の進め方・人間関係などを主体的に創造(クラフト)していくことを指します。

米国の組織心理学者レズネスキー教授とダットン教授が2001年に提唱した概念で、従来のように組織から与えられた仕事の枠組みをそのまま受け入れるのではなく、個人が自律的に仕事に意味を見出し、より良いパフォーマンスと満足感を得られるよう調整していくプロセスです。

ジョブクラフティングが注目される背景

近年、さまざまな社会的・経済的変化を背景に、ジョブクラフティングへの注目が高まっています。以下に、その主な要因を解説します。

働き方の多様化と個人のキャリア観の変化

終身雇用や年功序列といった従来の日本型雇用システムが変化し、転職をする人も増え、フリーランス、副業・兼業など働き方も多様になっています。厚生労働省の「令和3年版労働経済の分析」によれば、労働市場の流動性は徐々に高まり、働く人々のキャリア観も「組織主導」から「自律的キャリア開発」へとシフトしています。

働き方が多様で人材流動性が高い社会では、従業員が勤務先の仕事に意味を見出せなくなれば、すぐに転職先や副業を見つけるなど、その企業にとどまらなくなる可能性が高くなります。

したがって、従業員に自社で働き続けてほしいと願う企業には、従業員に仕事の価値を見出し、意欲的に働いてもらうことを促すことが必要です。

従業員エンゲージメントの低下

世界的に見ても、従業員のワークエンゲージメント低下は多くの組織が直面する課題となっています。これは、従業員が前向きに・貢献意識をもって仕事に取り組めなくなっているということです。

ギャラップ社の調査によれば、日本の従業員エンゲージメント率は世界的に見ても低い水準にあり、この状況を改善するための新たなアプローチとしてジョブクラフティングが注目されています。仕事に対する主体性や意義を高めるジョブクラフティングは、従業員エンゲージメント向上の有効な手段として期待されています。

人材獲得競争の激化

少子高齢化による労働人口の減少や、専門的スキルを持つ人材の不足により、企業間の人材獲得競争は激化しています。優秀な人材を引きつけ、維持するためには、従業員が自律的に成長し、やりがいを感じられる環境づくりが不可欠です。ジョブクラフティングを推進する組織は、「自分のキャリアを主体的に形成できる場所」として、人材にとって魅力的な選択肢となります。

ジョブクラフティングの3つの側面

ジョブクラフティングは主に以下の3つの側面から構成されています。

タスククラフティング

業務内容や範囲を変更することを指します。例えば、自分の強みを活かせる業務に注力したり、新たな業務に挑戦したりすることです。

関係性クラフティング

職場での人間関係を見直し、再構築することです。より多くの同僚と協働したり、特定の人との関係を深めたりすることが含まれます。

認知クラフティング

自分の仕事の意義や目的の捉え方を変えることです。例えば、単調な作業も「社会に貢献している」という視点で捉え直すことがあります。

ジョブクラフティングのメリット

個人にとってのメリット

ジョブクラフティングを実践することで、個人は以下のようなメリットを得られることが研究で示されています。

  • 仕事の満足度向上:自分の価値観や強みに合わせて仕事を調整することで、仕事の満足度が高まります。
  • ワークエンゲージメントの向上:仕事への熱意や没頭度が増し、活力が高まります。
  • バーンアウト(燃え尽き症候群)の予防:自らコントロールできる感覚が高まることで、ストレスやバーンアウトのリスクが軽減します。
  • スキル開発の促進:新たな挑戦を自ら選択することで、継続的なスキル開発につながります。
  • 仕事の意義の発見:認知クラフティングを通じて、仕事の意義や目的を見出しやすくなります。

組織にとってのメリット

個人だけでなく、組織にとっても以下のようなメリットがあります。

  • イノベーションの促進:従業員が主体的に業務改善や新たな取り組みを行うことで、イノベーションが生まれやすくなります。
  • 人材の定着率向上:従業員が自ら仕事を調整できる環境では、職務満足度が高まり、離職率が低下する傾向があります。
  • 組織の柔軟性向上:個々の従業員がニーズに応じて仕事を調整することで、組織全体の適応力が高まります。
  • パフォーマンスの向上:従業員の強みが活かされ、モチベーションが高まることで、全体的なパフォーマンスが向上します。

組織におけるジョブクラフティングの導入法

組織文化の醸成

ジョブクラフティングを組織に根付かせるためには、適切な組織文化の醸成が不可欠です。

  • 心理的安全性の確保:失敗を恐れずに新しいことに挑戦できる環境づくりが重要です。ハーバード大学のエドモンドソン教授の研究によれば、心理的安全性の高いチームではイノベーションや学習が促進されます。
  • 自律性の尊重:従業員が自ら判断し、行動できる裁量を認める文化を育みます。過度な管理や監視は避け、信頼に基づく関係構築を目指します。
  • 多様性の受容:個々の従業員の強みや働き方の違いを尊重し、多様なジョブクラフティングのあり方を認める姿勢が大切です。

マネージャーの役割

ジョブクラフティングを促進するうえでは、マネージャーの役割も重要となってきます。

  • コーチングとサポート:従業員がジョブクラフティングを実践する際のコーチとして、サポートと助言を提供します。
  • 対話の機会創出:「今の仕事でどのような変化を望むか」「どのような挑戦がしたいか」などを話し合う1on1ミーティングを定期的に設けます。
  • 成功体験の共有:ジョブクラフティングの成功事例を組織内で共有し、他の従業員の参考になるようにします。
  • 適切な範囲設定:ジョブクラフティングの自由度と組織のニーズのバランスを取り、適切な範囲を設定します。

制度・施策による支援

ジョブクラフティングを促進するための具体的な制度や施策を紹介します。

  • ジョブクラフティングワークショップ:外部講師や人事部門が主導して、ジョブクラフティングの概念や実践方法を学ぶワークショップを開催します。
  • キャリア対話の制度化:定期的なキャリア面談を制度化し、その中でジョブクラフティングについても話し合う機会を設けます。
  • 業務時間の一部解放:業務時間のうち一定割合を自由な取り組みに充てられる制度を導入します。(例:Googleの「20%ルール」)
  • 社内公募制度の活用:従業員が関心のあるプロジェクトに参加できる社内公募制度を充実させます。

ジョブクラフティングの効果測定

効果測定の重要性

ジョブクラフティングの取り組みが実際に効果を上げているかを測定することは、継続的な改善と組織への定着のために不可欠です。適切な効果測定によって、以下のようなメリットがあります。

  • 取り組みの成果を可視化することで、効果的な施策と改善が必要な施策を見極められる
  • 従業員自身が変化を実感し、モチベーション向上につながる

測定指標の例

ジョブクラフティングの効果を測定するために活用できる指標を紹介します。

  • ジョブクラフティング尺度:ジョブクラフティングの実践度を測る尺度には、代表的なもので JCS(Job Crafting Scale)があります。「自分の専門性を高めるようにしている」、「同僚に助言を求める」などの項目を尋ねるものです。これを定期的に測定することで、組織内でのジョブクラフティングの浸透度を把握できます。
  • エンゲージメント指標:ワーク・エンゲージメント尺度を用いて、調査ツールの測定結果から従業員のエンゲージメントレベルを判断します。代表的なワークエンゲージメント尺度には、ユトレヒト・ワークエンゲージメント尺度、マスラック・バーンアウト・インベントリーなどがあります。
  • 職務満足度:定期的な従業員満足度調査で、仕事の満足度や充実感の変化を測定します。
  • 離職率・定着率:離職率の低下や人材の定着率向上は、ジョブクラフティングの効果を示す重要な指標です。
  • イノベーション指標:業務改善提案や新規アイデアの創出数などで、ジョブクラフティングがイノベーションに及ぼす影響を測定します。

効果測定の実施方法

効果測定を実践するための具体的な方法を紹介します。

  • 定期サーベイの実施(定量データの収集):四半期や半期ごとに、ジョブクラフティング尺度やエンゲージメント指標を含むサーベイを実施します。
  • 定性データの収集:インタビューやフォーカスグループを通じて、ジョブクラフティングの事例や成果に関する質的データを集めます。
  • ビフォー・アフター比較:ジョブクラフティング施策導入前後での各種指標の変化を分析します。
  • 継続的モニタリング:一度きりでなく、継続的に測定することで、長期的な効果や変化の傾向を把握します。

ジョブクラフティング推進の課題と対策

この章では、ジョブクラフティングを導入・推進する際によく直面する課題と、その対策を紹介します。

組織における課題

管理職の理解不足

ジョブクラフティングの意義や効果を管理職が十分に理解していないと、「勝手に仕事を変えるのは問題」と捉えられることがあります。

対策:管理職向けの研修を実施し、ジョブクラフティングが組織にもたらす価値や、適切なサポート方法を学ぶ機会を設けます。

既存の評価制度との不一致

従来の評価制度が柔軟な働き方や主体的な取り組みを評価する仕組みになっていないことがあります。

対策:評価項目に「主体性」や「改善提案」などを追加し、ジョブクラフティングの取り組みによる働き方の変化や、成果が適切に評価される仕組みを整えます。

組織の硬直性

業務プロセスや役割分担が厳格に定められた組織では、ジョブクラフティングの余地が限られます。

対策:組織の一部から試験的に柔軟な業務設計を導入し、成功事例を作ることで徐々に組織全体に広げていきます。

個人レベルでの課題

導入にあたって、企業は従業員個人のリスクも把握しておきましょう。

時間・エネルギーの不足

日常業務に追われ、ジョブクラフティングに取り組む余裕がないと感じる従業員が多いです。

対策:小さな変化から始めることを奨励し、業務時間内にジョブクラフティングに取り組める時間を確保します。

スキル・知識の不足

新たな取り組みに必要なスキルや知識が不足していると、挑戦を躊躇することがあります。

対策:学習機会の提供や、メンター制度などを通じてスキル獲得をサポートします。

まとめ|ジョブクラフティングで仕事に充実感を

ジョブクラフティングは、単なる一時的な取り組みではなく、組織と個人が共に成長し続けるための持続的なプロセスです。

ジョブクラフティングは、従業員一人ひとりが自分の仕事に意味を見出し、主体的に取り組むことで、個人の成長と組織の発展を両立させる可能性を秘めています。理論的知見に基づきながらも、自組織の特性に合わせたアプローチで、ぜひジョブクラフティングの導入・推進に取り組んでみてください。

よくある質問

Q1.ジョブクラフティングとは?
ジョブクラフティングとは、組織から与えられた仕事の枠組みをそのまま受け入れるのではなく、個人が自律的に仕事に意味を見出し、より良いパフォーマンスと満足感を得られるよう調整していくプロセスです。

詳しくは「ジョブクラフティングとは」の章をご覧ください。
Q2.ジョブクラフティングの種類は?
ジョブクラフティングは、主にタスククラティング、関係性クラフティング、認知クラフティングに分けられます。それぞれ、業務、人間関係、個人の考え方に関するものです。
詳しくは「ジョブクラフティングの3つの側面」の章をご覧ください。
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