労使協定とは、企業と労働者で合意して結ぶ労働状況や労働環境に関する取り決めのことです。
人事労務担当者にとってよく聞く用語であるものの、他の労務の取り決めとの違いが分かりづらく、混乱する方も多いのではないでしょうか。本記事では、労使協定の内容と違反しないために気をつけることを短時間で理解できるよう解説します。
このような疑問を持っている方におすすめの記事です。
労使協定とは、企業と労働者で結ぶ労働状況や労働環境に関する取り決めのことです。
労働環境に関する取り決めと言えば、まず労働基準法を思い浮かべる方が多いかもしれません。基本的に使用者は、労働基準法を元に就業規則や社内ルールを定めますが、労働基準法を元にした規則が必ずしもすべての業種・業態・事業所で適用できるわけではなく、限界があります。
このように労働基準法では現場にとって不都合のある業務や働き方に対し、企業と労働者が双方同意した上で例外的に設けられる規則が労使協定です。労使協定の例として、以下のような取り決めが挙げられます。
労使協定の例
例として、「時間外・休日労働をさせる場合の労使協定」について考えてみましょう。
労働基準法では1日および1週間の労働時間、休日日数が定められています。しかし、繁閑期が顕著である場合など、労働基準法で決められた以上の労働が限定的に必要になる場合もあるでしょう。このような場合に、企業と従業員が合意していれば、労使協定を結び、かつ特例として残業代などを支払うことで、規定の労働時間を超えて合法的に業務を遂行できるようになります。
労使協定にはさまざまな種類がありますが、一律にどの企業も結んでいるという協定はほとんどなく、自社の労働環境に合わせて個別に必要な協定を締結します。
「36(サブロク)協定」は、労働基準法36条に基づいて結ばれる「時間外・休日労働をさせる場合の労使協定」の通称です。
労使協定である36協定を結んでいれば、法定労働時間を超えて労働させても労働基準法の罰則は適用されなくなります。ただし、36協定を結んで従業員に残業を課す場合でも、原則月45時間、年360時間が上限であり、上限を超える残業は違法です。
なお、この協定は時間外労働を強制する役割を持つものではないことは理解しておきましょう。36協定を結んでいるかいないかに関わらず、労働者に業務上不必要な残業などは強制できません。
ここでは、労使協定を区別がつきにくい用語と合わせて説明します。
労働に関する用語は多くありますが、特に疑問があがりやすい「労働基準法」「労働協約」「就業規則」「労働契約」を説明します。
これらの用語は、労働基準法と比較して「契約者」「対象」「労働基準法との関係」の3つの観点から整理すると、より違いがわかりやすくなります。
労使協定と労働基準法・労働協約・就業規則・労働契約の違い
契約者 | 適用対象 | 労働基準法との関係 | |
---|---|---|---|
労使協定 | 企業と労働者の代表 | 労働者全体 | 労働基準法を超える場合のみ結ぶ |
労働基準法 | - | 日本国内のすべての労働者 | - |
労働協約 | 企業と労働者の代表 | 労働組合に加入している労働組合員 | 労働基準法の範囲内 |
就業規則 | 企業(使用者が勝手に定められる) | 労働者全体 | 原則、労働基準法の範囲内(※) |
労働契約 | 企業と1人の労働者 | 契約した労働者 | 労働基準法の範囲内(就業規則・労働組合に加入している場合は労働協約にも従う) |
※就業規則の中に労働基準法を超える内容を含む場合はその項目について労使協定が結ばれている必要があります。
労使協定は労働基準法で禁止されている内容の契約も可能であることから、特例のような位置づけと捉えると分かりやすくなります。
労使協定以外については、優先度が明確に示されています。労働基準法、労働協約、就業規則、労働契約の順で優先されます。
労働基準法は、労働条件の最低基準を定める法律です。日本の労働環境を守るために作られたものであり、労働基準法に違反すると罰せられます。労働基準法は労働関係の規則の中で最も重要で、これを中心として他の規則が考えられます。
労使協定も、労働基準法の例外的な立ち位置にあるとはいえ、労働基準法をもとに認められている取り決めであり、働き方の大きな基準としてはやはり労働基準法を考えるべきでしょう。
労働協約は企業と労働者の代表が結ぶもので、労働基準法を超えない範囲で、就業規則とは異なる労働条件を定められます。労働協約に反する就業規則は、その部分については無効になります(※就業規則全文が無効となるものではありません)。
例えば、労働協約にて「解雇や懲戒の際に労働組合との事前協議を義務付ける」といった内容を定められます。
ただし、就業規則を超えた労働協約が適用されるのは、労働組合に加入している労働組合員のみです。加入していない他の従業員には労働協約が適用されない点には注意が必要です。
就業規則は、労働時間関係、賃金関係、退職関係について定めた規則のことです。労使協定とは異なり従業員の合意は必要なく、企業側のみで労働基準法にのっとって作成されます。
労働契約は、企業と1人の労働者が交わす、「就業規則」「労働協約」に基づいた労働条件に関する合意契約のことです。例として、入社時に結ぶ雇用契約書が挙げられます。
紛らわしい用語でもこのように関係性を整理しておくことで、労使協定を正しく理解できるようになるでしょう。
労使協定を締結するための4つのステップを知ることで、労使協定がどういったものなのかをより理解できます。また、実際に結ぶ場合に備えられるようになるので確認していきましょう。
労使協定は、企業の代表と労働組合の代表者など労働者側の「過半数代表」で結びます。この場合、労働者とは、正社員だけでなく、契約社員やパート、嘱託社員、再雇用者、アルバイトなど、その企業で働くすべての人を指しています。
過半数代表者は、事業場に労働者の過半数で組織する労働組合がある場合は、その労働組合の代表のことを指します。労働者の過半数で組織する労働組合がない場合は、以下の基準を満たした労働者代表を労働者側で定める必要があります。
労働者と労使協定を結ぶ際は労働基準法関係【参考書式(様式/記載例)】を参照して、書類を作成してみてください。
労使協定の多くは企業の代表と労働者側の過半数代表で合意できれば書面で合意を交わした時点で効力を発揮し、特別な届け出は不要です。しかし、36協定をはじめとする労働時間や賃金などに関わり、労働者が不利を被りやすい労使協定については、労働基準監督署に届け出が必要です。
労働基準監督署に届け出が必要な5つの労使協定
これらの労使協定については、従業員と書面で合意を交わした時点ではなく、労働基準監督署に届け出が認められた時点で効力を発揮するため、忘れずに届け出を行いましょう。
届出の様式については、厚生労働省の主要様式ダウンロードコーナーのものを使用できます。このとき、あわせて電子申請の制度や厚生労働省が掲載している作成支援ツールを使うことで、手間や時間をかけずに手続きできます。
社内で労働条件を揃え、周知するためにも、労使協約を結んだあとは就業規則の確認および変更も行いましょう。変更の際には、「就業規則変更届」「意見書」「変更後の就業規則」を労働基準監督署まで届け出る必要があります。
労使協定や就業規則は労働基準法のもとで認められている取り決めであるため、労使協定に含まれていない項目について、就業規則に労働基準法を超える内容を含むことはできません。
企業と労働者個人で結ばれる労働契約を新しく作る場合も就業規則を参照するため、特に働き方に関する労使協定を結んだ場合は迅速に確認および周知を行いましょう。
なお、繰り返しになりますが、労働基準監督署に届け出が必要な5つの労使協定については、従業員と書面で合意を交わした時点ではなく、労働基準監督署に届け出が認められた時点で効力を発揮します。そのため、上記の労使協定については書面で合意を交わしたからといって、すぐに就業規則に反映しないように注意が必要です。
企業は労働者に労使協定の内容を周知する義務があり、周知義務に違反すると罰則があります。新しく結んだ労使協定や、就業規則の変更内容について従業員に周知を徹底しましょう。厚生労働省は以下の周知方法を推奨しています。
周知方法の例
労使協定を結ばないまま、または労働基準監督署への届け出が義務づけられている労使協定を届け出ずに、労働者に時間外労働や変形労働時間制などの労働基準法に反する労働や制度を命令した場合、罰則の対象となります。
例えば、代表的な労使協定である36協定を結ばずに時間外業務や休日労働をさせた場合は、労働基準法36条の違反として、法人代表者だけでなく現場の労務管理を担当する責任者も6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられる可能性があります。
懲役や罰金だけではなく、厚生労働省および各労働局より公表されている「労働基準関係法令違反に係る公表事案」によって企業名が公表されたり、公表されなくともSNSや口コミで悪評が拡散されたりすることで社会的制裁を受ける可能性もあります。
不必要なダメージを受けるリスクを減らすためにも、以下のチェックリストを参照しながら事前に注意できることを確認しましょう。
労使協定で違反しないためのチェックリスト
▢ | 現状に合った労使協定が結ばれているか |
▢ | 労使協定が結ばれている対象者を把握しているか |
▢ | 労使協定の有効期限は切れていないか |
これまで見てきたように、就業規則に労働基準法での制限を超える内容を記載する場合は、その項目に関して労使協定が結ばれている必要があります。そのため、時世や事業拡大に合わせて社員の働き方を変えたい場合には、労働基準法に定められている範囲内かどうか、超える場合には該当する内容について労使協定が結ばれているか必ず確認するようにしましょう。
特にコロナ禍の影響で働き方を変えた企業は、以下の労使協定を結び忘れていないか、注意しましょう。
自社の労使協定や就業規則に不安のある場合は、社労士に確認しましょう。
実は労使協定は、必ずしも全従業員が対象となるわけではなく、協定やその内容によって対象者が異なります。そのため、自社で結びたい労使協定の内容と対象者が合っているか確認しましょう。
例えば、変形労働時間制に関する労使協定の場合、協定で定められた変形期間に応じて対象となる労働者が変わります。1年間の変形労働時間制であれば、契約期間が1年未満の従業員は対象となりません。変形労働時間制の労使協定の対象になっていない労働者に対して、対象者と同じような労働形式を命じて、問題になることがありますので注意してください。
また、派遣社員についても注意が必要です。派遣元会社に依頼して派遣社員を使用しているため、派遣社員と直接結ぶのではなく、派遣元会社との労使協定の締結する必要があります。
従業員の入社や契約内容の変更の際に合わせて、労使協定の対象となるかどうかを企業・従業員がともに確認しておくと良いでしょう。
労使協定によっては有効期限を定める必要があります。主要な労使協定のうち有効期限を定める必要があるものは以下の4つです。
有効期限を定めるべき労使協定と望ましいとされている有効期間
1ヶ月単位の変形労働時間制 | 3年以内 (H11.3.31 基発169号) |
---|---|
1年単位の変形労働時間制 | 1年程度 (H6.1.4 基発1号) |
時間外・休日労働(36協定) | 1年程度 (H11.3.31 基発169号) |
専門業務型 裁量労働制 | 3年以内 (H15.10.22 基発1022001号) |
有効期限が切れた場合は、再度労使協定を締結するための4つのステップを踏んで再締結することが必要です。
なお、結んでいる企業が多いであろう「時間外・休日労働をさせる場合の労使協定(36協定)」は1年間で定めていることが多く、有効期間内に労働基準監督署に届け出が必要となりますので、注意してください。
労使協定がどのようなものなのか、他の労務の取り決めとの違いや取り決めの手順と合わせて説明してきました。
労使協定は、労働基準法では現場にとって不都合な部分に関して、企業と労働者の双方同意の上で変えることを目的とした協定です。他の労働基準法や労働協約、就業規則などと合わせて理解することで、自社をより働きやすく、事業を拡大しやすくすることに役立つでしょう。労使協定で違反しないためのチェックリストも活用しながら、自社の働き方を見直しましょう。
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Q1.労使協定とはどんなものですか? |
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労働基準法では禁止されているものの、現場では不都合な職業の働き方を、企業と労働者の双方同意の上で変えることを目的として、企業と労働者の代表で交わされる契約のことです。 詳しくは、「労使協定とは、企業と労働者で結ぶ労働状況や労働環境に関する取り決め」の章をご覧ください。 |
Q2.36(サブロク)協定と労使協定との違いは何ですか? |
「36協定」は労使協定の1つです。労働基準法36条に基づいて結ばれる「時間外・休日労働をさせる場合の労使協定」の通称です。 詳しくは、「36(サブロク)協定と労使協定の違い」の章をご覧ください。 |
Q3.労使協定を結ぶにはどのような手続きが必要ですか? |
以下の4つの手続きが必要です。ただし、労働基準監督署への届け出の提出は、結ぶ労使協定の種類によっては必要となります。
詳しくは、「労使協定を締結するための4つのステップ」の章をご覧ください。 |
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