休職トラブルとは、休職中の従業員と企業の間で起こるトラブルのことです。休職トラブルは、企業と従業員の認識不一致や説明不足が主な原因です。
この記事は、こんな悩みを持つ企業担当者に向けて、休職トラブルを未然に防ぐために人事担当者が確認すべきことを解説します。休職トラブルによるデメリットや事前にできる対策を確認し、従業員の休職による負担やリスクを減らしましょう。
休職とは、従業員の自己都合による長期休暇のことです。法律上の制度である休業とは違い法律の制約は受けないため、休職制度は各企業の就業規則に基づいてそれぞれ定められます。
従業員も企業も納得して業務の引き継ぎや休職期間、復帰などについて合意できていれば良いですが、認識のズレや互いの説明不足によってトラブルに発展してしまうこともあります。休職トラブルとしては、以下のような例が挙げられます。
休職トラブルの事例
このように、休職トラブルは、休職の始まりから休職中、また復職後まで起こりうるものです。トラブルを防ぐためには、従業員・企業がともに休職による影響や行うべきことを事前に理解し、認識齟齬が生じた際に対話できる機会を持つことが重要です。
休職する人の数は全体的に見ると徐々に増えており、どの企業にとっても他人事ではありません。特に、年々増加している精神疾患による休職・退職には注意が必要です。
厚生労働省の令和3年度「過労死等の労災補償状況」によれば、脳・心臓疾患に関する事案の労災請求件数が753件(前年度比31件の減少)であるのに対し、精神障害に関する事案の労災請求件数は2.346件(前年度比295件の増加)となっています。
また、厚生労働省の令和3年「労働安全衛生調査(実態調査)」によれば、令和2年11月から令和3年10月までの1年間に、メンタルヘルス不調により連続1カ月以上休職した従業員、または退職した従業員がいた事業所の割合は10.1%と、約1割の企業でメンタルヘルスによる長期休業または退職が生じていることがわかります。
精神障害に関する事案の労災補償件数が多い業種は以下の通りです。
職種別に見ると、以下の通りです。
労働時間が長かったり、本人の代わりがきかないような専門的職種であったり、ノルマ・納期に追われたり、仕事の成果が見えづらかったりするような場合、特に休職や退職のリスクが高くなる可能性があります。
休職の傾向としてメンタルヘルスは注視すべきですが、他にも休職理由として挙げられるものはあります。休職理由として主なものは、以下のとおりです。
主な休職理由
従業員の休職は防いだ方が良いとなんとなく感じていても、なぜ休職はできるだけ起こらないようにするべきなのか具体的にはわからないという企業担当者の方も多いのではないでしょうか。
従業員の休職が企業に与える主なデメリットをあらためて確認しましょう。
民法の規定により、休職期間中の給与について使用者に給与の支払い義務はありません。
民法第624条
労働者は、その約した労働を終わったあとでなければ、報酬を請求することができない。
しかし、休職期間で従業員に給与を支払っていなくても、社会保険料の企業負担および従業員負担は変わりません。休職前と同額の保険料を徴収します。従業員が休職中であっても、雇用契約が解消されるわけではないため、社会保険料の一部は休職前と変わらず負担する必要があります。
従業員の休職中も企業が負担すべき保険料
従業員が休職している間は給与を支払う必要はありませんが、企業の保険料負担額は変わりません。そのため、休職者の増加や期間の延長にともなってコストは増大します。
人事担当者は、休職手続きをはじめとして、休職前から休職中、復職後まで休職者のフォローを行います。通常の業務に加えて休職者の休職関連の手続きや面談などの業務が長期的かつ不定期に入ることで、業務量が増します。
また、休職理由によっては面談担当者を固定するべき場合もあり、業務が特定の人物に集中する恐れもあります。人員が欠如した部署の再編成を人事が行う場合もあります。このように、休職が発生することによって想定以上の業務が発生することは理解しておくべきでしょう。
休職にともない、休職者が行っていた業務を他の従業員に割り振り直したり、引き継ぎを行ったり、他の従業員だけでカバーすることが難しい場合は新規採用を行ったりする必要が生じます。
新規事業などで大量の人員確保を行う機会があれば新規採用を行いやすいですが、とはいえ、復職の可能性がある休職中の従業員の分の労働力を確保するためだけに新規雇用をすることは難しいものです。そのため、新規雇用ができない場合は業務圧縮するなどして、既存の従業員で業務を遂行する方法を考えなければいけません。
従業員の突然の休職は、企業にとってのメリットはほとんど無いといえるでしょう。その上休職者とのトラブルが発生すると、それ以上の負担やリスクが企業に降りかかります。
休職トラブルは、企業側の体制や準備が整っていれば、未然に回避できるものも多くあります。人事担当者が今すぐ確認すべき3つの事項を紹介します。
休職制度は労働基準法で設けることが義務付けられているわけではなく、就業規則で定められていることが効力を持ちます。休職トラブルを起こさないようにするには、事前に就業規則に必要事項が明記されているかを確認し、記載されている内容を従業員に周知し、人事担当者と従業員間の認識を合わせておくことが重要です。
休職について就業規則に記載すべき事項
休職することが決まったら、従業員の診断書の内容や治療期間を確認します。
ケガや病気が理由で休職をする場合は、医師の診断書が必要と就業規則で定められていることが多いようです。休職が必要であることを医師が診断していることを客観的に証明するためです。このとき、就業規則で合わせては、医師への受診を従業員の義務とすることや、受診する医師・医療機関を指定し記載することもあります。
受け取った診断書はプライバシーに関わる文書なので、現場でそのまま保管するのではなく、人事にて管理・保管しましょう。診断書が提出されたら、基本的に翌日から休職させます。たとえ従業員が出勤する意向を示した場合であっても、業務中に従業員の体調が悪化すれば企業の社会責任が問われます。そのため、引き継ぎのためだからと診断書提出後に何日も出勤させるのは好ましくありません。
休業中、従業員の様子の把握も必要です。定期的に連絡を取り、休職者の健康状態を確認しましょう。休職中に全く企業からの連絡がないと、休職者の不安やストレスを増す要因になります。企業からコミュニケーションを促すことで、従業員の精神的安定やその後の復職にも影響します。
連絡の頻度は、休職者の健康状態や都合に合わせて柔軟に対応します。連絡担当者が複数人いる場合は情報共有を確実に行い、「1カ月に1度は連絡する」など連絡の目処を事前に伝えておきましょう。療養の妨げにならないよう、休職中に不規則・頻繁な連絡や長時間の面談、休職理由の深掘りはできる限り避けます。
また、休職理由によっては、体調の悪化やスケジュールの変更などにより、休職期間の延長が必要な場合もあります。なお、最終的な判断の権利は企業にありますが、復職できるのか・休職期間を延長するのか・退職するのかなどの判断をする際は、休職者の意見だけでなく、主治医や産業医、産業看護職、カウンセラー、人事労務担当者なども含めて検討し、総合的に判断しましょう。
休職期間を満了した休職者の復職が難しいと判断した場合や、休職者から退職したいという意見が出た場合は、企業は法的に正しい対応をする必要があります。対応を正しく行わないと、違法な退職・不当な解雇とみなされる可能性があります。
休職者が復職しないことが決まり、休職期間も継続されないと決まれば、就業規則に従って退職または解雇通知を行います。退職とは、企業側の一方的な意思表示によらない労働契約の解約、解雇とは、企業側の一方的な意思表示による労働契約の解約のことです。合意があれば退職通知となりますが、もし復職が難しいにも関わらず休職者が退職を望まない場合、不当解雇にならないかに注意して解雇通知を行います。
退職と解雇にはいくつか種類がありますので、あらためておさえておきましょう。
退職・解雇の種類
退職 |
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解雇 |
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解雇に際して適法・不当となるケースを簡単に下にまとめています。従業員から合意を得られず解雇となった場合でも、不当解雇にならないように注意しましょう。
解雇通知が適法となるケース・不当になるケース
◯ 適法 |
|
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× 不当解雇 |
|
従業員が休職をする場合、各種保険の保障を受けるためには手続きが必要です。例えば、保険料の支払いや有給休暇の扱い、各給付を受ける要件などです。内容としては従業員が行うことが主ですが、質問があった場合などに備えて人事としても把握しておきましょう。
「休職が与える企業にとってのデメリット」の章で述べたように、休職中の従業員でも健康保険料や年金保険料などの社会保険料は支払う義務があります。保険料の一部は企業が負担しますが、従業員も負担分の保険料を納める必要があります。
給与が支払われている期間は給与から天引きされているため、意識していない従業員もいるかもしれません。給与がない期間、支払いを従業員が自主的に行わなければならないことを確認しておきましょう。
一般的な対応としては、以下があります。
保険料の徴収方法について、あらかじめ就業規則に記載・周知しておくとトラブルを防ぎやすいでしょう。
有給休暇は労働する義務がある日に取得できる制度であるため、休職中に有給休暇は取得できません。
なお、休職期間を勤続年数に通算するかどうかは、企業の就業規則に従います。年次有給休暇の付与日数を計算する際には在籍期間が基本となるので、勤続年数として扱われることが多いです。
有給休暇の買い取りは、退職することになった場合は可能です。退職の際、業務上その他のやむを得ない理由で未使用となる日数の買い取りは、違法ではありません。
休業給付は、ケガや病気による療養のために働くことができず給与の支払いを受けていない場合、休業の4日目から1日単位で給付されます。休業の3日目までを「待機期間」といいますが、この3日間については休職理由が業務災害の場合は、雇用主が労働基準法に基づいて休業補償(1日につき、平均賃金の60%以上)を行わなければなりません。
傷病手当金は、病気休職中に被保険者とその家族を保証するために設けられた制度です。以下の4つの要件を満たした場合のみ、従業員は受給資格があります。
傷病手当の受給要件
傷病手当金が支給される期間は、同一の疾病・負傷に関して、支給開始日から最長1年6ヶ月です。支給開始日は、療養のために仕事を休み始めた日から連続した3日間(待機期間)以降の4日目からです。
ケガや病気によって仕事ができなくなった場合、年金保険料納付要件を満たしており、初診日から1年6ヶ月経過していれば、障害年金が申請できます。なお、障害手当金を受給中で、障害厚生年金での申請を行う場合、障害手当金と障害厚生年金が重複する期間は、両方を全額受給はできません。よって、障害厚生年金の申請を行う場合、先に障害手当金を受給していないか確認が必要です。
そのほかにも、障害手当金が支給される要件は決まっています。従業員から問い合わせがあった場合は、まず受給資格を持っているのかを確認することが必要です。
復職が可能と判断された場合は、休職中の従業員が復職しやすい環境を産業医や主治医、直属の上司、人事労務担当などのバックオフィスで連携して整えます。
特にケガや病気、精神疾患を理由として休職していた従業員が復職する場合は、細やかな配慮が必要になる場合があり、特に復職直後は本人の体調・希望と業務のバランスの調整が重要です。
復職のタイミングや、判断は休職理由によって変わります。よくある理由を例として、それぞれの場合の復職可否判断時に気を付ける点を説明します。
ケガによる休職からの復帰の場合、回復し仕事を再開しても良いという客観的な判断が必要です。産業医や主治医など専門家の診断書によって復職可能の可否判断は行われますが、このとき診断書が「日常生活が行えるか」という基準で作成される場合があります。業務上支障がない状態まで回復しているかを本人の意思を確認するなどして慎重に判断しましょう。
病気による休職からの復帰の場合も、ケガと同様に仕事を再開しても良いという客観的な判断が必要です。
病気の中でも特に精神疾患が理由の場合は、見た目だけで判断できないため、慎重な判断が求められます。一方で、過去の裁判の判決例から、休職の期間満了時に従業員が本来業務に就く程度に回復していなくとも、間もなく回復が見込まれる場合には、可能な限り軽減業務に就かせる義務が企業の健康配慮義務の一環として樹立されていることも見逃せません。業務や働き方の変更を含め、関係各所で状況に合わせて柔軟に対応を行う必要があります。
私的な事故を理由とする休職の場合、企業に産業医がいれば復職診断書に記載された主治医の意見をもとに、産業医と休職者との面談をした上で、休職者、産業医、人事労務担当者による面談を行い、復職を決定します。このとき、復職診断書に残業時間の上限などの就業制限が盛り込まれる場合もあります。
企業に産業医がいない場合は、主治医による復職診断書をもとに、職場復帰の判断・復職の時期・必要な配慮などを検討します。休職者の合意があれば、休職者、主治医、人事労務担当者による面談を主治医に申し入れることも可能です。産業医がいない場合でもできる限り職場環境に精通した医師または企業が指定した医師に相談することが好ましいでしょう。以下の無料相談窓口も利用できます。
健康上の問題ではなく、ワーキングホリデーや留学、ボランティア参加などの自己都合の休職の場合は、あらかじめ休職期間が明確に決まっていることが多いため、決められた休職期間が終了したら復職します。
ワーキングホリデーや留学、ボランティアに参加するような向上心の高い従業員を復職後も意欲を持って自社で働かせるには、本人の希望や意欲を生かせるような環境を用意できると良いでしょう。
復職がうまくいかず、再度の休職や退職になってしまうことはどの企業にとっても避けたいものでしょう。
復職がうまくいかない場合の原因はさまざまに考えられます。主な原因は企業と従業員の連携不足や、企業の支援体制が整っていないことです。
とくに精神疾患が原因の休職者にとって、復職直後は精神的な負担が大きいものです。復帰直後の業務量を調整することや面談の頻度を高めることによって業務復帰がスムーズになる、再休職・離職リスクが減るなど企業側にメリットがあります。
復職について典型的な悩みや対応方法について下記にまとめました。
直属の上司という立場は、復職した従業員のみ優遇をすることはできないため、どのような対応をすればいいか難しい場合もあります。しかし、1人で対応するのではなく、企業全体の課題として人事に報告し、企業全体で体制を整えることが大事です。
直属の上司は、従業員から休職の相談や報告を受けやすい立場です。上司に相談しやすい環境があるかどうかは従業員にとって重要な事項です。1on1の定期的な実施や社内に雑談できるスペースの設置など、相談しやすい関係性を普段から築いておけるとなお良いでしょう。
リモートワークの方が復職者にとって負担が少ないのではという考えから、復職直後はできるだけリモートワークが良いと考える企業もあるかもしれません。ただし、リモートワークがすべての従業員にとって好ましいわけではなく、かえって職場から孤立してしまうことも考えられます。
業務上リモートワークの必要がある場合や本人が希望する場合で、特に復職直後は、従業員の体調に負担がかかっていないか企業から確認することが必要でしょう。
リモートワークにおける体調把握の例
復職をする前提で休職をしていた場合でも、さまざまな事情により退職せざるを得ないこともあります。退職が決まれば退職手続きを進めますが、このときの注意点をおさえておきましょう。
企業を退職した人がハローワークで雇用保険の失業給付や休職の申し込みを行う際には、離職票が必要になります。この離職票を発行するために、企業はハローワークに離職証明書を発行する必要があります。
休職期間満了による退職の場合、「自己都合退職」や「会社都合退職」とは記載しません。「休職期間満了による自然退職」と離職証明書に記載し、その証拠となる就業規則の休職制度の該当部分のコピーと休職期間が把握できる休職通知書を添付します。
就業規則によって退職金制度が定められている場合、退職金を支給する必要があります。しかし、就業規則によっては休職期間中は勤続年数として算定されない場合があり、各企業ごとに従業員に対し確認が必要です。
そのほか、退職手続きについて詳しく流れを知りたい方は、「社員の退社手続きマニュアル|退社前から退社後までの手順とポイント」をご覧ください。
休職制度は就業規則に基づくため、企業ごとによって異なります。そのため、休職トラブルを未然に防ぐには、まず就業規則に休職制度について明確に規定してあることが重要です。
また、トラブルが起きた場合は、直属の上司だけでなく、人事労務担当者、産業医、主治医などで連携して対応しなければいけません。休職者への対応は他の従業員のエンゲージメントや企業イメージにも影響するため、組織全体で連携し休職者への対応体制を整えましょう。
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Q1.休職の理由としてはどのようなものがありますか? |
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よくある休職の理由としては、以下が挙げられます。
詳しくは、「よくある休職理由」の章をご覧ください。 |
Q2.休職トラブルを未然に防ぐために人事担当者が確認すべきことは何ですか? |
休職トラブルを未然に防ぐために人事担当者が確認すべきことは以下の3点です。
詳しくは、「休職トラブルを未然に防ぐために人事担当者が確認すべき3つのこと」の章をご覧ください。 |
Q3.休職者の復職の可否判断はどのように行いますか? |
復職のタイミングや、判断は休職理由によって変わります。ケガ・病気・私的な事故・ボランティアやワーキングホリデーなどで復職可否判断や気を付ける点が変わります。 詳しくは、「復職の可否判断」の章をご覧ください。 |
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